【ホンダ CB750F】伝統的な味わいの中に今日への変化を覗かせるFC

掲載日:2018年11月29日 試乗インプレ・レビュー    

取材協力/タジマエンジニアリング
試乗ライダー・文/和歌山利宏 写真/徳永 茂 記事提供/ロードライダー編集部

ホンダ CB750F

1969年誕生のCB750Four(K)に次ぐ、第2世代のCBとなるCB750FZは1979年に誕生した。ここで試乗するCB750FCは、1980年のFA、1981年のFBを経て1982年に登場したモデルで、国内向きナナハンCBとしては、第2世代の最終型となる。それは、今日に繋がる過渡期のモデルとしての、まとまりを感じさせてくれていた。

CB750Fに試乗し感じた面白さ
マシンからは性能をひけらかさない

このCB750F(FC)は1982年に登場したモデルで、富山市に住むオーナーが、あくまでもフルノーマルにこだわり、福岡のタジマエンジニアリングに依頼し、フルレストアされた車両である。

だから、CB-F本来の状態はもちろん、持ち味がそのまま保たれていることに疑いの余地はない。実際、整備状態は35年以上前のCB-Fの新車よりも良好だと思うほどである。

ホンダ CB750Fの試乗インプレッション

メカノイズもなくスムーズで、それが加減速で変化することもない。さすが、クランクメタルやバルブのクリアランスを基準値の最小に調整しているだけのことはある。キャブレーションに気になる領域はないし、サスの作動にしこりはなく、ブレーキもそれなりに効く。

車両の重量感と言うか車格感は、今日的水準ではナナハンとして大柄だが、ハンドル切れ角は今のCB1300SFよりも心なしか大きいぐらいで、普通に取り回せる。そしてエンジンは、国内事情に合わせたCB900Fのスケールダウン版であっても、750としての理想特性が追求されている。

ホンダ CB750Fの試乗インプレッション

まず嬉しいのは、エンジンの日常域での味わいである。3,000rpmも回っていれば、交通の流れに供することができるトルクがあるだけでなく、エンジンから息吹きが伝わってくる。確かに今の多くのエンジンでは、十分なトルクをスムーズに取り出すことは追求されている。でも、この味わいは忘れられているかのようだ。

そして、5,000rpmで一段とトルクは太くなり、スポーツバイクであることを訴えてくる。そして、8,000rpmのピークに向かって立ち上がるトルクを生かし、さらに9,500rpmからのレッドゾーンに掛けてパワーを引き出していく。やっぱり、これは紛れもなくスポーツだ。最高出力は79psに過ぎなくても、過不足なく、それをエンジンを回して得ていくのは、スポーツらしい特性である。

加えて、このエンジンは、低回転域で実用的なのはもとより、中回転域でスポーツできた上で、さらに熱くなりたいなら高回転までどうぞといったスタンスである。決してライダーを焚き付けないのだ。

ホンダ CB750Fの試乗インプレッション

ハンドリングも同様で、マシンから旋回性をひけらかす素振りは見せない。だから、乗っていてプレッシャーはなく、エンジン特性や快適なライポジと相まって、平常心で楽しめるし、景色もよく見える。道なりに蛇行する高速コーナーも、今のバイクなら直線感覚に過ぎないだろうが、このCB-Fにはコーナーを楽しんでいる実感がある。

フロントホイール径は、FZ/FA/FBの19インチに対し、このFCは18インチだ。大径フロントの良さを損なうこともなく、この後、間もなく始まるフロント16インチ化前夜の、ベストバランス形と言っていいだろう。

ブレーキも今の基準では効かないが、それでも、しっかり強くレバーを握れば、必要な減速力を得ることができる。何せ、当時はこれでサーキットも攻めたのである。

ホンダ CB750Fの試乗インプレッション

ところが、ブレーキレバーを握る度に、フロントから何か異音が……。さすがのタジマエンジニアリングの仕事も完璧でなかったのかと思いきや、走りながらフロントを覗き込み、機械式アンチダイブ機構TRACの仕業だと気が付いた。言ってみれば、これはブレーキ時だけに作用する機械式のセミアクティブサスのようなものだ。実際、サスストロークが160mmと大きいにも関わらず、姿勢変化は抑えられている。

なかなか良くできているとは言え、このFブレーキとフォークのフィーリングが、今の感覚で古さを感じさせないわけではない。この辺の処理は、カスタム化の対象になろうか。

懐かしいだけでなく
今こそ、楽しめる

普通に使うのに最高で、今日のバイクが忘れているものを思い出させてくれるCB750Fだが、ただ、ワインディングを攻めようとすると、今のバイクのようにいかない面もある。

このCB750Fからすると、今のバイクは、ライダーがある程度のきっかけ作りをしてやれば、マシンの方からマシンに作り込まれた旋回性を見せ付けてくれる。高い旋回性を引き出すにはライダーへの要求も高いとは言え、安全に誰もが楽しめるものとするには、マシン任せの部分も必要なわけで、それは悪いことではない。それに、ライダーはその旋回特性に自身を合わせることで、コーナリングを学ぶこともできる。

ホンダ CB750Fの試乗インプレッション

ところが、このCB750Fは、バイクからそんなお手本を見せてくれはしない。まあ、それが、今のものを基準に考えたときの、当時のバイクなのかもしれない。いい意味でマニアックなのである。

でも、ワインディングでコーナーを楽しむのは、多くのライダーやバイクにとって、時間的にも一瞬のエクスタシーに過ぎない。今のバイクがそのことを追求したあまり、ほとんどのライダーとバイクが走る状況での楽しさがスポイルされているかのようでもある。その意味で、このCB-Fは今、新鮮な気持ちで楽しむことができるのである。

ホンダ CB750Fの試乗インプレッション

この35年前のバイクは、思うほど古さを感じさせることはない。つまり、35年間の進化で、バイクは間違いなく基本性能は向上したが本質は変わっていないということでもある。

このFCは、1979年のFZというオーセンティックなバランスを持ち合わせたものを基本に、耐久レースを始め、市販車ベースのレースが盛んになる時代背景において、テコ入れされてきた。フロントを18インチ化するとともに、タイヤの幅広扁平化に応じて前後リム幅をアップ。Fフォーク径をφ35→39mmへアップし、リアサスをリザーバータンク付きとし、FキャリパーもFBから片押し1ポットを2ポットとしている。今日に繋がる進化を受けているのだ。

ホンダ CB750Fの試乗インプレッション

ただ、FB→FCで19→18インチ化する際にディメンションは変わらなかった。当時はそれで良かったが、今のタイヤの進化を考えれば今ならフォークオフセット(STD45mm)を減らし、前後18インチのCB1000SF(同40mm)あたりの数字を参考にするのも手だろう。

CB750FCに乗って「35年前の景色が見えた」と言ったら、笑われるかもしれない。でも、マシンからのフィーリングだけでなく、走りながら見る世界は、やはり当時のそれである。いくらバイクに手を入れようとも、この味わいを損ないたくないと思ってしまう。

CB750Fの詳細写真は次ページにて

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