掲載日:2023年05月23日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
KAWASAKI ELIMINATOR SE
250ccクラスに4気筒エンジンを復活させたニンジャZX-25R、スーパーチャージドエンジンを採用するH2シリーズ、名門ブランドであるメグロの復活、往年の名機をオマージュしたZ900RSなど、昨今カワサキの勢いはとどまるところを知らない。そのような中、『エリミネーター/SE』が大阪モーターサイクルショー2023にて世界初公開となった。
エリミネーターの名称は80~90年代にも使われており、カワサキ製アメリカンバイクの代表格という位置づけだった。新生エリミネーターもまた、アメリカンタイプのモデルではあるが、そのスタイリングは現代的にアレンジされており、新鮮なものとして目に映るが、果たしてその乗り味はどのようなものなのだろうか。メディア向け試乗会にて上位モデルに当たる『エリミネーターSE』のテストライドを行ったので、その感触をお伝えする。
90年代初頭はいわゆるレーサーレプリカ系からネイキッドバイクへブームが移行する時期であったが、一方で若者を中心にアメリカンバイクブームというものも出始めていた(アメリカン=当時ハーレーのようなスタイルとして捉えられ使われており主にクルーザー系バイクの呼称だった)。ホンダ・スティードやヤマハ・ドラッグスターなどの400ccモデル、つまり普通自動二輪免許で乗れる最大排気量モデルは特に人気が高く、カスタムシーンの盛り上がりも花を添えて2000年代前後には石を投げれば当たるというほどまで巷に溢れかえったのだ。カワサキはどうだったかといえば、バルカン400とエリミネーター400というキャラクター違いの2モデルがあったが、ステージの最前線に立っている感じではなかったと言えるだろう。
ブームが巻き起こると必ずその後衰退が訪れるのは世の常だ。2010年頃には国産アメリカンバイクはほとんど姿を消し去っており、現在に至っては今回エリミネーターが復活するまで400ccクラスの国産アメリカンモデルは販売されていなかったのだ。
ただ私は仕事で全国のバイクショップを取材探訪する中で、水面下においてアメリカンバイクブーム当時の中古モデルたちの人気が高まっていることを知っていた。そしてそろそろどこかのメーカーからニューモデルが出てくるだろうと予測していたのだ。その矢先に登場した新生エリミネーター。アメリカンバイクブームにおいてのカワサキの逆襲が今始まったのである。
そもそも以前のエリミネーターシリーズというは、クルーザーキャラクターではなく、1/4mile(402.33m)先のゴールまで、どちらが先にたどり着くのかを2台で競い合うドラッグレーサーをイメージコンセプトとしたモデルであった。エンジンに関しても400cc以上のモデルはGPZ系の4気筒を採用、当時エリミネーター400に乗った際の強烈なダッシュ力は今でも頭に残っている。
新型エリミネーターにはニンジャ400やZ400に搭載されるエンジンをベースにし、低中回転域に振ったデチューンが施されている。一般的に4気筒と2気筒のエンジンでは大きく印象が異なるわけで、私は以前のエリミネーターが持っていたドラッグレーサー的なキャラクターが、別の性格に変わっているのではないかという点が気になった。
実車を目の前にしたのはモーターサイクルショー以来のことだった。試乗車として用意されたのは、上位モデルに当たるエリミネーターSEだ。ETCの他にUSBソケットや初となるドライブレコーダーを標準装備しているほか、ビキニカウルやフォークブーツを追加し、全体がブラックアウトされたフロントフォークなどスタイリングからして、スタンダードモデルよりもスポーティで引き締まった印象を受ける。跨ると、735mmという低く抑えられたシートによりべた足状態だ。これならば体格を問わず足つきに安心感を持てるだろう。エンジンを始動し走り出したところ、クラッチはレバー操作が軽いこと、さらにスリッパ―クラッチを装備していることからどのようなライダーでも気負いなく乗れるイージーさを持っていることがすぐに伝わってきた。
さて、標準装備のETCにカードを挿入したことであるし、まずは高速道路を使っての走行チェックから始めよう。レッドゾーンは12000回転からと2気筒でありながらもかなり高回転型のエンジン。美味しいパワーバンドは7000回転前後で、スロットルワークに対するツキの良さが気持ちよく、ついついスポーティな走りをしてしまう。ミッションをトップの6速に入れて走らせたところ5500回転あたりで時速95キロをキープできるので、クルーズも快適だ。
高速を降りてから撮影ポイントとして考えていた海沿いの場所まで出るのに道に迷ってしまい、入り組んだ市街地で右左折を繰り返して走らなくてはならなかったのだが、ロー&ロングの立派なボディワークでありながらも想像以上に旋回性が良く軽快に走らせることができた。ナローなハンドル幅に、コーナリング時の入力がしやすいミッドポジションのステップが採用されていることや、車重が抑えられていることが大きな要因となっているうえ、フロント18、リア16インチのタイヤサイズも小回りが利くポイントとなっている。
高回転まで回しても楽しいエンジン、意のままに方向転換できるバランスの良いシャシー、必要にして十分なポテンシャルを持つ足まわりなどのおかげで、ワインディングでもなかなか良い走りを楽しむことができた。私が気にしていた以前のエリミネーターとは別物となっているのではないかという点は、今回の試乗からは、むしろドラッグレーサー風の味付けはそのままに、街乗りからロングクルーズまで楽しめるステージがさらに広げられ、むしろ全部乗せスポーツモデルに仕立てられていると感じられた。
通勤通学、デート、ツーリング、キャンプなどなど、様々な楽しく有意義なバイクライフをイメージできる真っ白なキャンバスのようなバイク。新型エリミネーターはアメリカンバイクブーム再来の口火を切る一台となっていた。