掲載日:2023年06月12日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐賀山 敏行 写真/伊井 覚
BRIXTON CROSSFIRE 500
欧州最大のディストリビューター/ディーラーのKSRグループが独自の二輪ブランドとして発足させたのがブリクストンだ。KSRの本拠地はオーストリアだから、当然ブリクストンも同国のブランドである。
ただし、ブランド名の由来はイギリス・ロンドンのとある地区。つまり、そのブランドイメージは英国車を強く意識したものと言ってよいだろう。
クロスファイア500は、そんな同社のコンセプトリーダーともいえる1台だ。ネオクラシック風だが、懐古主義によらない独自性の高いデザインが存在感を放っている。
現在、ブリクストンには4つのモデルファミリーがあり、それぞれ数車種のラインナップを抱えている。シンプルでオートバイ然としたスタイリングを持つ「クロムウェル」、スクランブラーテイストの「フェルスベルグ」、カフェレーサーやボバーなどのカスタムモデル「サンレイ&レイバーン」、そして「クロスファイア」である。
同社ラインナップにはシンプルでクラシカルなモデルが多い中、クロスファイアシリーズは異色だ。現代的なスーパースポーツとは明らかに違うが、それでもクラシカルとは言い難い。新鮮でモダンなシルエットの中に古き良きオートバイらしさを宿している。
世界的な流行を見せるネオクラシックには、クラシックスタイルをほぼそのまま現代に甦らせたモデル(例:ホンダ GB350やロイヤルエンフィールド INT650など)と、現代的な解釈のデザインや最新の技術を奢ったモデル(例:ヤマハ XSR900など)があるが、クロスファイアシリーズは明らかに後者である。新進気鋭のブランドらしく、チャレンジングなデザインは独自性が高く、好感が持てる。
中でもクロスファイア500は、さらに独自性の高いモデルである。水冷であることを隠さない無骨なエンジンに、シンプルなパイプフレームを採用。フロント倒立フォークとモノサスは、このモデルが懐古趣味ではないことをアピールするが、スポークホイールや丸目のヘッドライトが古き良きオートバイらしさを演出する。
モダンとクラシカルなディテールが絶妙に同居しているのだ。
クロスファイア500の特長はルックスだけではない。エンジンは独自開発によるもので、KYB製サスペンションやラジアルマウントブレーキキャリパーは「パワフルな走りを心地よく受け止める」(公式HPより)とのこと。
期待に胸を膨らませて、バイクに跨ってみる。スポーティーなルックスながら、ハンドルはやや高め。そのため上半身は少しだけ前傾で、ステップもほど良い位置にあるのでライポジはリラックスしたものだ。これなら普段使いやツーリングでも気兼ねなく使えそう。
エンジンを始動させ、試乗コースへ出る。今回は箱根の「バイカーズパラダイス南箱根」を中心に試乗する。周辺は関東屈指のワインディングロードだ。
6750rpmで最大トルク45Nmを発揮する水冷DOHC486cc二気筒エンジンは、低回転からパワーを発揮。軽い車体をぐいぐいと加速していく。法定速度内でいかに気持ちよく加速するか……それがストリートバイクが面白いかどうかを決定づける要因のひとつだと、僕は思っている。その点、クロスファイアはまさに40~60km/hまでの加速が心地よく、箱根のワインディングを自在に加速していく。もちろん、それ以上のスピード域でもトルクフルなエンジンはスムーズに回っていく。486cc二気筒はじつにオールマイティーである。
自由度の高いライポジと軽快な車体によって、コーナリングも楽しい。レースで実績を残している「J.JUAN」のブレーキもコントロール性に優れ、頻繁な減速をスムーズにこなせた。ただし、エンジンのパワーをフルに発揮するような場面だと、シングルディスクに不足を感じるかもしれない。
しかし、総じてワインディングが楽しいバイクである。トルクフルなエンジンと自由度の高いライポジ、そして軽い車体はスポーティーだけどライダーに過渡な負担を強いることはない。スポーツライディングを楽しむのに最適な1台といえそうだ。