掲載日:2022年10月25日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
HONDA GB350S
ネオクラシック系モデルがマーケットをにぎわすようになり久しいが、普通2輪免許クラスでブランニューモデルとなると意外と少なかった。そのような中2021年に登場したGB350は(インド市場では2020年)、普通2輪免許で乗ることができる新たなネオクラシックバイクとして脚光を浴びることとなる。
ふたを開けてみると、その人気は確かなものであり、新車では現在も納車待ちとされる場合があるほどのヒットモデルとなっている。GB350にはスタンダードモデルと、タイヤサイズやハンドルが変更されたスポーツ志向タイプのGB350Sがラインナップされている。今回は後者、GB350Sにスポットを当て、テストを行ってゆくことにする。
昨今のモーターサイクル業界事情を語る上で、ホンダGB350/350Sの存在を外すことはできないだろう。2021年に登場し、とたんに爆発的なヒットとなりスターダムを駆けあがった。それまで順調なセールスを記録していたレブル250の生産ラインをGB350系にスライドさせたという噂を耳にしたほどなので、かなりの売れ行きだということを容易に想像することができた。
折しもGB350の登場した時期は、シングルスタンダードスポーツモデルとして、43年もの長きに渡り愛されてきたヤマハSR400が生産終了をしたこととほぼ重なっていたことは確信犯的所業にも思えてしまうものだ。
今を一番大切に生きることを心掛けている私は、アンチとまではいかないものの、ネオクラシック系モデル全般に懐古主義的なイメージを抱いてしまう節がある。だからこそ逆にGB350には触れてみなければならないとも考えていた。
思い返せば高校生の時分、同級生の父親にGB250クラブマンを譲ってもらったことがある。それまでTZR125で峠を攻めるようなバイクライフを楽しんでいた私は、まず排気量的に高速道路に乗れることが嬉しかったことと、当時すでにクラシカルなスタイルであったにも関わらず、良く走ってくれたGB250クラブマンをとても気に入ったことをよく覚えている。それから約30年経った今、新たなイニシャルGBに触れた際に抱く印象は、いかなるものだろうか。
GB350スタンダードと比べてGB350Sは、全体的にブラックアウトされた部分が多く、デザイン面ではモダンでスポーティな印象が持たされているほか、ハンドル形状の変更で、ややライダーから遠くへセットされ、リアタイヤサイズが18インチから17インチへ変更されている。
スペック上で全長で5mm、全高で5mmGB350Sの方が短縮されており、最低地上高では2mm高く、車重は2kg軽い。長さに関しては誤差範囲とも思える数値であるが、実際に跨って比べてみると、シート高こそ800mmで同じであるものの、ハンドル形状などから結構ライディングポジションが違うと感じるだろう。身長177cmの私の場合だと、GB350Sの方がしっくりくる印象だ。
エンジンを始動しブリッピングを行うと、一発一発の爆発音が重く、しかも鋭く吹け上がるタイプではなく、低回転でググっと凝縮した密度のようなものを感じる。これだけでも結構意図的にロングストロークに振ってきたエンジンだということが伝わってくる。
操作感の軽いクラッチを繋いで走り出す。トルクフルなエンジンで扱いやすい。しかもギア比もロングなので、ストリートでは2速、3速を行き来するだけのイージーなライディングを楽しめる。一方で減速比的には高めの設定なので、シフトダウンをせずに急な上り坂に差し掛かった際には、エンジンがドッドッドッからドッ、、ドッ、、、ドッと息継ぎ間隔が広がることもあった。こういった部分もあえてクラシカルテイストを感じさせるための味付けと考えて良いだろう。
そもそも私がフロント19、リア17インチのタイヤセットを好んでいることもあるが、ハンドリングはとてもニュートラルであり、車体をバンクさせるとリアタイヤがスッと倒れ、それに応えてフロントタイヤが内側を向く。サスペンション自体はプアな印象だが、そもそもハイスピードでコーナーを攻めるようなモデルではないことを考えると十分なキャパシティであり、何よりも気持ちよく走ることができる。
タンデム時の乗り味も良く、テスト車両を借用中は9歳になる息子を後ろに乗せて走る機会も多かった。ハンドルが良く切れるのでUターンも楽、ついつい行き止まりになっているような細い路地へと入っていきたくなってしまう。息子は最終的に「このバイク買っちゃおうよ」というほど気に入っていた。
私自身が業界擦れをしてしまっているからかもしれないが、テスト当初はトップメーカーのホンダが『新車で買えるビンテージ』などをわざわざ新規開発する意味があるのだろうかと思っていた。はっきり言ってしまえば他社でも作れるようなものではないかとファーストテイクでは感じており、だからインプレも辛口になってしまうかもしれないと考えていたのだ。
だがしかし、乗れば乗るほどに良さが分かり、日々愛着が深まっていった。その裏には振動の少ないエンジンや、バネのようにボヨンボヨンした乗り味でいながらも、しっかりと仕事をする足まわりなど、ホンダならではの拘りと細部までしっかりと考えられた作りこみがなされているからである。GB350Sは買っても良い、いや今欲しいモデルリストに加えるべき一台だったのである。