掲載日:2022年11月02日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
KAWASAKI Z900
Z900を目の前にしたとき、まず注目したいのはその外観だ。まるでネコ科の大型野生動物が獲物に飛び掛からんとしているような躍動感あるスタイルは、カワサキがネイキッドのZシリーズに採用している“Sugomiデザイン”と呼ばれるもの。250から1000まで共通したイメージを持たせており、Zシリーズのアイデンティティとも言えるものだ。低く構えたヘッドライトからボリューム感のあるフューエルタンク、跳ね上がったテールセクションまで流れるように続くデザインは、いかにも俊敏な走りを楽しめそうで、見ているだけでテンションが上がってくる。
Zシリーズ自体はフルカウルを持つニンジャシリーズに対するネイキッドモデルという位置づけだが、大型モデルだけで1000、900、650と3機種もあり、しかも900だけフルカウルのニンジャがないという、少し特殊なものとなっている(900ニンジャという存在はレジェンドモデルのみに許される、ということなのかもしれない)。
このZ900はネオレトロモデルZ900RSのベースモデルであり先に発売されているのだが、RSが大ヒットしたために、その影であまり目立たない機種になってしまった感がある。しかし、同じ948㏄の水冷DOHC4バルブ並列4気筒エンジンを積むZ900RSよりも最高出力は14PS多い125PS、車両重量は2kg軽い213kgというスペックを見れば、動力性能ではかなりの差があることがわかる。デザインや感性を訴求するZ900RSに対して、Z900は純粋に走りを追及するマシン、という位置づけなのだろう。
その走りをサポートするのが、「インテグレーテッドライディングモード」と呼ばれる電子制御だ。これはフルパワーとローパワー、2つの出力特性を選択できるパワーモード(ローパワーはフルパワーの約55%の出力)と、様々な路面状況で安定した車体の挙動の維持を補助するKTRC(カワサキトラクションコントロール)を連携させた包括的なモードセレクト機能だ。「スポーツ」「ロード」「レイン」という3つのライディングモードではパワーとトラコンの介入度を最適な組み合わせとしてくれるほか、「ライダー」モードではパワーやトラコンを任意に設定することもできるという、簡単かつ選択幅の広いシステムとなっている。
メーターには4.3インチのフルデジタルTFTカラー液晶スクリーンを採用。燃料計や時計、ギアポジションなどのほか、瞬間/平均燃費や航続可能距離、平均速度、電圧など様々な情報を表示できる。また、Bluetoothによってスマホと接続でき、専用アプリ「RIDEOLOGY THE APP」を使うことで、各種車両情報やライディングログ、電話通知などの情報をスマホで閲覧できるようになっている。
この他にも前後ともに調整機能の付いたサスペンションを採用していたり、全灯火類のLED採用、ETC2.0車載器を標準で搭載するなど、現代のマシンに求められるものをひと通り搭載しており、ベーシックだが使い勝手のいいマシンといえるだろう。
Z900の実車は想像していたよりもかなりコンパクトだ。グッとせり上がったフューエルタンクのボリュームはあるものの、全体にギュッと詰まった印象で、600ccクラスと言われても違和感がないぐらいのサイズ感だ。ポジションはタンクを抱え込むような感じかなと想像していたが、実際に跨るとハンドル位置は上体から近めで思っていたより高く、自然でリラックスできるものだ。
東京都内の一般道を走り始めて最初に感じたのは、低速での安定感の良さだ。やや混雑気味で時おりダラダラとゴー&ストップを繰り返すような場面でも、車体のフラつきが少なく安定している。アシスト&スリッパークラッチを採用しているため左手の負担も少なく、細めの路地へと曲がる際なども難しく考えなくてもスッとマシンが動いてくれる。要は都市部や一般道を走るにあたり、とても楽で変に気負わなくても大丈夫、ということだ。
加速感は、兄貴分に当たるZ1000のワイルドで荒々しいものに比べると、少々マイルドで優しい感じに思える。それが遅いかと問われれば全くそんなことはなく、スロットルを回せば十分すぎるほどのパワーを見せてくれるのだが、性格がちょっとおっとり、というイメージだ。言葉を変えれば、それだけ制御しやすく乗りやすい、ということになるだろう。シティランでは「ロード」モードで4000回転も回せば、十分キビキビとした走りをしてくれる。
並列4気筒のエンジンは素直で伸びのある特性で、ストレスなく高回転まで吹け上がる。高速道路では6000回転ぐらい回せば900ccクラスの本領を発揮し、余裕のあるクルージングが可能だ。直線では矢のように、コーナーやレーンチェンジではヒラリと身軽に、状況に応じて安定性と機動性をバランスよく発揮してくれるので、乗っていて安心感がある。さらにその上までエンジンを回せば、荒々しい猛獣のような一面ものぞかせてくれるのだ。
高速での防風性が思ったより高いのは意外だった。もちろんフルカウルのニンジャシリーズやヴェルシスなどと比べれば風の当たりは強いのだが、ヘッドライト上の小さなスクリーンが効いているのか、少し上体を伏せ気味にすると胸や頭に当たる風はグッと弱まり、ハイスピードクルージングも意外と疲れず「なかなかいける!」という印象だ。
郊外のワインディングでは、少し広めでアップライトなハンドルのおかげでマシンのコントロールがとてもしやすく感じる。「スポーツ」モードに切り替えるとスロットルのピックアップがより鋭くなるので、コーナーのRの読みとギアの選択がうまくかみ合えば、スキーのスラロームのような、クイックでリズミカルにコーナーをクリアする走りが楽しめる。前後サスペンションともに伸側減衰力とプリロード調整が可能となっているので、路面状況や乗り方に応じたセッティングが手軽にできるのも魅力だ。さらに走りを追求したい人向けには、オーリンズ製リアショックとブレンボ製ブレーキキャリパーを装備した上級グレードのZ900SEも用意されている。
街中での扱いやすさと軽快でパワフルな走りを両立させたZ900は、高性能だが気軽に乗れるカジュアルな存在でもある。ビッグバイク初心者からベテランライダーまで満足させられる、オールマイティな1台と言えそうだ。
※Z900の2023年モデルはカラーリング変更のみで11月15日発売予定。Z900SEの2023年モデルは欧州で発表済み。