カワサキ 1400GTR
カワサキ 1400GTR

カワサキ 1400GTR – “大陸横断スーパースポーツ”

掲載日:2010年10月21日 試乗インプレ・レビュー    

“大陸横断スーパースポーツ”
そのコンセプトの意義を問う

初代1400GTRが「クロスコンチネンタルスーパースポーツ」のコンセプトを掲げてデビューしたのが2007年。荷物を満載していかに快適に長距離を高速移動できるかを追求した“大陸横断ツアラー”としての資質と、ワインディングでのエキサイティングな走りを楽しめるスーパースポーツ並みの性能を兼ね備えた新たなジャンルへの挑戦だった。狙いは欧州。BMWの直4系ツアラーの代表格であった当時のK1200GTをライバル視して開発されたのは誰の目にも明らかである。ただし、ネーミングを見ても分かるとおり、GT(グラントゥーリスモ)にあえてRを加えているところにメガスポーツ、ZZRシリーズを世に送り出してきたカワサキとしての自信が垣間見えるようだ。

実際のところ、エンジンと車体は世界最速を誇るZZR1400そのものである。低中速寄りにリセッティングされた直4水冷1,352ccユニットを同じアルミモノコックフレームに搭載し、ツアラーとしての快適装備を付加したのがGTRといっていい。しかしながら、ディテールをつぶさに観察するほどにこのマシンの独自性が際立ってくる。大型のフルカウルや電動スクリーン、パニアケースを標準装備し、駆動方式はシャフトドライブに変更。さらに今回の2010年モデルではマイナーチェンジが施され、空力フォルムを改良するとともにトラクションコントロール(KTRC)や前後連動ABSシステム(K-ACT)といった、電子制御技術を駆使した先進のセーフティデバイスを新たに投入している点に注目したい。それでは、より洗練され快適性と安全性を高めたニューGTRの素顔に迫っていこう。

カワサキ 1400GTRの試乗インプレッション

カワサキ 1400GTRの画像

驚異のスーパークルーズ性能を
安全・快適に楽しめる

“大陸横断ツアラー”をカワサキが作るとこうなる、といった見本のようなマシンである。とにかく主張が激しい。大きく見開いたような2灯に、尖がった耳のように張り出したバックミラー、そして新型モデルでより強調されたエアアウトレットなど、まるで翼を広げた巨大な猛禽類のようだ。それが陳腐にならず、機能美としてデザインと融合しているところがいい。マフラーのデザイン変更も含めて、サイドビューも先代よりスタイリッシュになった。

マイナーチェンジを受けた2010年モデルは見た目以上に中身の進化が著しい。特に注目すべきは電子化されたセーフティデバイス類だ。ひとつはトラクションコントロール。後輪のスリップ率を計算してエンジン出力を制御するシステムで、最近ではリッタークラスのスーパースポーツなどを中心に導入されつつあるが、パワーと重量のあるGTRのようなハイパフォーマンスツアラーにこそ積極的に装備すべきと思う。大雨の中、ときには荒れた山岳路を走破しなければならないこともあるだろう。強大なパワーだけでなく300㎏を超える車重をも制御しなければならないライダーにとって、トラコンはまさに必需品と言えるものだ。試しに直線でローギヤからフル加速してみたが、滑りやすい鉄板などに乗ると「キュキュ」と一瞬タイヤが鳴いた直後にトラコンが作動してグリップを取り戻すのが分かる。次にコーナー立ち上がりでわざとラフにスロットルを開けてみたが、こちらは本能に逆らってかなり本気でトライしないと作動するまでに持ち込めない。それでも意を決してバンクした状態からガツンと開けてみると、「ズルルッ」と後輪から滑り出したと思った次の瞬間、スパッと燃料カットされたようにトルクが抜けてスリップが収まった。トラコンの効きはやや唐突でタイムラグがあるため、深いバンク角で滑った場合には間に合わないだろう、というのが正直な感想。トラコンがあるからといって、調子に乗りすぎると足元をすくわれるかもしれない。あくまでも、エマージェンシー用として考えるべきだろう。ちなみにトラコンは手元のスイッチで解除もできる。

カワサキ 1400GTRの画像

もうひとつが進化したABS。従来モデルからABSは標準装備だったが、これに前後連動システムが追加された。前後連動ブレーキはホンダのD-CBSやBMWのインテグラルABSなどが有名だが、GTRが画期的なのはその連動比率を変えられること。STDモードではリヤブレーキを使うと軽くフロントを引き摺る感じだが、ハイコンバインドモードではかなり強くフロントも効く。ハイコンバインドは高速域や荷物満載時、タンデム時での急制動でいち早く安全に止まるためには有効だが、コーナー入口での減速などでは効き過ぎて逆に姿勢が乱れることもあった。ワインディングでスポーティに走りたいときなどはSTDモードで十分だと思う。安全に加速するためのトラコンと確実に減速するための前後連動ABS。4輪由来の技術だが、より不安定な乗り物であるバイクにとっていずれも欲しかった装備である。今回のGTRにはそれが両方とも導入されたことは歓迎すべきだ。こうしたテクノロジーの進歩のおかげで、GTRはより安全で快適なツアラーとなった。動力性能は以前から申し分ないが、いらぬ神経を使わずに「速さ」を享受できるようになったのだ。精神的、肉体的に疲れにくくなれば長く乗れるので結果的に距離も稼げる。ムリしてペースを上げなくても済むのだ。

空力特性も改良されて高速クルーズもより快適さを増した。クリアな後方視界を確保してくれる特大サイズのバックミラーは従来よりも上方にセットされて、手から腕へかけてのウインドプロテクターの役目を明確に果たすようになった。電動タイプのウインドスクリーンも相変わらず便利。上部がワイドなスポイラー形状になり防風効果もさらに高まっていて、日本の速度域なら標準位置で十分なほど。逆にフルリフトしてしまうと、かえって風の巻き込みで後頭部を押される違和感がある。走りながら速度に応じて高さを調整するといいだろう。長距離を移動するツアラーにとって大事な燃費を知らせてくれるインジケータも気が利いている。省燃費走行、つまり地球に優しい運転だとメーター内にエコマークが表示される仕組み。ゲーム感覚でトライすると楽しいし、財布にも優しいというわけだ。

ハンドリングはこの巨体からは想像できないほど軽快で、特に左右への切り返しが軽いのが特徴。カッチリとした剛性感にはZZR譲りのモノコックフレームらしさが出ている。“コンチネンタルスーパースポーツ”というコンセプティングをしているだけのことはあるが、さすがにパニアケースに荷物を満載しているときは要注意。慣性力が増して振り回されるのでコーナーでの倒し込みは慎重にしたいところ。取り回しやUターンもさすがに場所を選ぶことになる。GTRはシャフトドライブ化されているが、シャフト特有の加速時のリフト感などは皆無。チェーンドライブに比べて静かだしこまめなメンテが必要ない点もいい。ただ、渋滞路などのストップ&ゴーが繰り返される場面では大きめに出るバックラッシュが気になることも。また、標準装備のパニアケースは使い勝手もよく容量も十分なのだが、BMWなどに比べると張り出しがやや大きめで、擦り抜けなどは苦手だ。というよりも、欧州をメインマーケットとして狙ったモデルなので、そもそも渋滞路での使い勝手などは考慮していないと見るべきだろう。そういうモデルなのだ。

ZZR譲りの動力性能と進化したセーフティデバイスを駆使したスーパークルーズ性能は、このジャンルでもトップレベルにあることは間違いないだろう。日の出とともに「東京」を出れば、日暮れまでに「札幌」で道産子ラーメンにありつける。そんな幻想を現実のものとして夢に抱かせてくれる数少ないバイク。それが1400GTRなのだ。

カワサキ 1400GTRの特徴は次ページにて

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