カワサキ ZZR1400 ABS
カワサキ ZZR1400 ABS

カワサキ ZZR1400 ABS – ZZRの符号を冠する最速マシン

掲載日:2010年10月07日 試乗インプレ・レビュー    

ZZRの符号を冠する最速マシン
進化の果てに見えたその実像とは…

1990年に登場した初代ZZ-R1100が最高速度300km/hを目指して以来、ZZRの符号は「最速マシン」の代名詞となった。その後、CBR1100XXやHAYABUSA1300、そして身内のライバルでもあったZX12Rなどとの熾烈な最速マシン開発競争が繰り広げられたが、それに終止符を打つべく満を持して2006年にブランニューモデルとしてデビューしたのがZZR1400である。

だが、ZZR1400の本当の顔は別にある。それは、トータルバランスにおける「最強」という目標を掲げて開発されたバイクだということだ。歴代ZZRシリーズで培ってきた高速巡航性能とZX-12Rの速さ、ZX-10Rの運動性能を併せ持つ、まさにカワサキの威信をかけて開発したフラッグシップモデルなのだ。

ZX12Rで熟成されたアルミモノコックフレームに直4スポーツモデルとしては最大級の1352ccという排気量を誇る水冷4バルブDOHCエンジンを搭載。カワサキ伝統のラムエアシステムによりピーク200psオーバーを実現する。注目すべきはその圧倒的なパワーだけではない。カワサキは航空機や新幹線を作っているメーカーである。つまり空力特性を知り尽くしたエキスパート集団ということ。ZZRの流れるような有機的なエアロダイナミクスフォルムにも当然そのノウハウは注ぎ込まれ、超高速域での卓越したハンドリングと直進安定性を実現している。さらにZX-10Rの基本設計を踏襲したというディメンションと充実した足回りによってスーパースポーツを追い回すスポーツ性能も与えられている。カテゴリーを超えた頂点“オープンクラスキング”を標榜したマシンの実像とは…。あらためて現在の立ち位置を探ってみたい。

カワサキ ZZR1400 ABSの試乗インプレッション

カワサキ ZZR1400 ABSの画像

実は心優しきモンスター
怪力にモノを言わせた余裕の走りが魅力

「世界最速」とか「200psオーバー」など、とかく過激な常套句とともに語られることが多い最速マシン。今やメガスポーツとして確立された感のあるこの手のカテゴリーには、いつも危険で暴力的なイメージがつきまとう。だが、本当にそうなのだろうか。そこを解明したいというのが今回の試乗におけるひとつのテーマでもある。

ZZR1400を目の前にすると、やはりデカい。カラーリングが黒系のせいもあるが、有機的なヌメッとしたシルエットはまるでマッコウクジラのようだ。顔も迫力満点。6灯もあるヘッドライトで追い回されたら、さぞかし怖いに違いない。存在自体が威圧的であることは確かだ。
相手の力量を値踏みした上で、集中力を高めてコックピットに乗り込むと、最初に感じるのが意外とソフトなサスペンション。スーパースポーツに比べると元々シートも低いが、それ以上に前後サスが沈み込んでくれるので足着きも悪くない。まずはひと安心だ。ただ、やはりポジションは大柄でハンドルは遠めだし、取り回しで少しでも車体を傾けると260kgの車重が顔を覗かせる。ライバルのハヤブサに比べるとやや腰高な感じだが、かつての12Rに比べれば乗りやすそうな印象。とはいえ、油断は禁物だ。

カワサキ ZZR1400 ABSの画像

エンジンを始動させてみると、サウンドは低く静かでクルマのよう。排気量からしてもまあそうだ。クラッチは軽く、発進のつながりもスムーズ。低回転から漲るトルクが出ていて、極低速での扱いはかなりいい。2008年モデルでユーロ3に対応するとともにインジェクションのマッピングもアップデート、これが効いているのだろう。その扱いやすさはアイドリングでのUターンなども楽々できてしまうほどで、極低速が細く半クラに神経を使った先代の12Rとは明らかに違う点だ。ビッグツアラー並みの巨体にスーパースポーツ並みの運動性能を与えてしまおうというのがメガスポーツの狙いだが、ZZR1400の走りは“豪快”と表現した方がしっくりとくる。たしかにFJR1300AやCB1300STなどのスポーツツアラーに比べれば軽快だが、やはりリッター・スーパースポーツと同じようにはいかない。ブレーキングや倒し込み、S字の切り返しなどあらゆるシーンで“質量”が顔を出す。車重だけではない、大排気量エンジンの回転慣性力も強く影響しているようだ。それをライダー側が先読みして、大きな身体のアクションとメリハリのあるスロットルワークでねじ伏せていくようなライディングができると楽しさが倍増する。しなやかな動きでストローク感たっぷりのサスペンションは、スロットルワークによって姿勢変化を作りやすい設定。スロットルを閉じながらフロント荷重を生かして初期旋回、スロットルを開けつつリヤ荷重に移してトラクション旋回で立ち上がる、といった一連の流れでコーナーを組み立てやすい。同じモノコックフレームを採用する12Rが時折見せた“鋼のような硬さ”は程よく修正されている。ただ、標準のサス設定ではかなり“立ち”が強い印象だったので、前後サスを調整したところかなり自然な旋回フィールを得られるようになった。サスセッティングによってハンドリングが激変するバイクであることをあらためて確認できたのは収穫だった。前後ともフルアジャスタブル式なので、いじり甲斐があるというものだ。

巨体の割りに思い切った走りもできてしまうのには、エンジンの出力特性も関係しているようだ。最高速付近のピーク域では200psかもしれないが、5,000rpm以下の常用域ではスロットルレスポンスは極めて穏やか。その回転域でたとえスロットルを急開したとしてもワンテンポ遅れてついてくる感じなのだ。近年のスーパースポーツも同様の傾向にあるが、急激なパワーの立ち上がりによるリスクを回避するためにレスポンスを意図的にマイルドにしているようだ。メガスポーツに過激さを求める一部のライダーには歯がゆい感じがするかもしれないが、これは悪いことではないと思う。雨の日に安心してスロットルを開けられたり、街乗りやロングツーリングを快適にこなせたり…。ほとんどのライダーにとってその扱いやすい怪力はメリットになるはずだ。だが、それも中速域までの話し。6,000rpm辺りから上は巨大なカタパルトに押し出されるジェット戦闘機のごとく加速するので要注意だ。試乗したのはABS仕様だったがこれは正解。元々強力でコントローラブルなブレーキではあるが、この膨大なエネルギーを制御するにはABSは必需品だと感じた。

20年前に初代ZZR1100が切り開いた夢の300km/hマシンの世界観も、欧州での最高速度規制やますます厳しくなる環境対応により、過去の遺物と化してしまった感がある。「そんなパワーを使う場所などどこにもない」と誰もが知っているはずだ。しかし、その世界に思いを馳せられるのは所有者だけに許されたある種のロマンだと言えるだろう。もしかしたら最後の「最速マシン」となるかもしれないZZR1400は、それだけで価値のある存在なのかもしれない。

カワサキ ZZR1400 ABSの特徴は次ページにて

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