掲載日:2010年01月08日 特集記事 › バイクの足回りメンテナンス
記事提供/2009年4月1日発行 モトメンテナンス No.82
本誌新人スタッフの丸山編集部員が、入部とほぼ同時に通勤用快足バイクとして購入したのが1999年式カワサキW650初期型。
この、見た目からして明らかなメンテナンス不足な中古車のフロントフォークをオーバーホールしてみた。
素性が分かる車両なら安心だが、個人売買で流れ流れてきたような中古車の場合、いつどのタイミングでメンテナンスされてきたかがわからないケースが多い。今回フロントフォークの分解、メンテナンスを行った初期型、10年落ちのW650はまさにそんな中古車だった。外観から察するに、およそメンテナンスが行き届いているようには見えない。そこで「メンテは足元から」を実践してみた次第である。
作業は、片側のフォークずつ行ったのだが、最初のフォークのオイルを抜いたところ、まだ赤色が残るオイルが出てきた。2万キロ無交換のヘドロと化したオイルが排出されると予想(期待!?)していた我々は肩透かしを食った。その後、分解を進め、どこかに2万キロノーメンテの痕跡が残っていないか探したのだが、それは見つからなかった。内部の部品のコンディションは想像以上に良好だったのである。その理由を、現代バイクの実力なのかとのん気に考えていた。
しかし、もう片方のフォークからは、まさしく2万キロ10年無交換のオイルが排出されたのである。内部の部品も、決して良い状態のものではなかった。早急なメンテナンスが必要な状態だったのである。
このW650は、なんらかの理由で片側のみ、フロントフォークのオーバーホールを経験していたようだ。これで、最初に分解した側のみ、ボトムボルトが、インパクトでも緩まないほど大量のネジロックを使用し、高トルクで締め付けられていたのにも合点がいく。
中古車はミステリーに溢れている。
だからこそ、中古車を手に入れた直後は「喜んで走る」前に、要所のメンテナンスをぜひ実践しておきたい。イエス・ウイ・キャン!!それこそがわれわれサンメカです!!
W650のフロントフォークは一般的な二輪車が採用する、テレスコピック正立式。複雑な減衰調整機構は持たない分、部品点数は少ない部類に入ると言えるが、それでもこれだけの構成部品が内部に組み込まれている。作業前には、パーツリストを参照して、必要な交換部品を発注。部品の配列順序を確認しておこう。
今回、フロントフォークの分解、オーバーホール作業の実施にあたり、一番苦労した点は、シートパイプを緩めるときにボルトと供回りしてしまい、なかなか緩まなかったこと。今回はその場でシートパイプを固定する応急用工具を自作し、対処することができたが、大きく時間をロスすることとなった。W650に必要な純正特殊工具は24mmのヘキサゴンソケットで、工具ショップに代用できそうなものが販売されていた。分解前にあらかじめ、サービスマニュアルを参照して、必要な工具は揃えておきたい。
ヘキサゴンソケット撮影協力/エイビット
Phone 048-565-4052
フロントフォークを車体から外す前に、フォークブーツの水抜き穴の位置やワイヤーハーネス類の取り回しを必ず確認する。また、フロントフェンダーの取り付けやブレーキホースがどこを通っていたかなども、組み付けの際に困らないように、覚えておこう。今回の作業に際して用意した部品は、モトレックスのフォークオイル、オイルシール、ダストシール、上下のスライドメタル、トップキャップのOリング、ドレンボルトのガスケットの新品部品を左右のフォーク分(各2個ずつ)用意した。
フロントフォークを外したら、あらかじめ車体装着時に緩めておいたトップキャップを外して、中のオイルを排出させる。トップキャップを外すときは、スプリングの反力に注意。中古車の場合、この時出てくるオイルの状態で、前所有者のメンテナンス状況を推測することができる。
スプリングを抜き取ったら、サービスマニュアルを参照し、自由長を測っておく。車種により、不等ピッチスプリングを採用しているものがあるので、必ず向きを確認しておこう。その後、シートパイプ内のオイルを排出させるため、倒立状態で、何度かフォークをストロークさせる。
インナーチューブを傷付けないように注意し、ダストシールを取り外す。今回は四輪車の内張りはずしに使用する工具を使用した。この工具には適度なカーブが付いており、ボトムケースを支点に、テコの原理でダストシールをスムーズに外すことができた。スクレパーなどで代用も可能。
続いてオイルシールの抜けを防止する、スナップリングをピックアップツールや細いマイナスドライバーなどで取り外す。このスナップリングはダストシールで侵入を防ぎきれなかった雨水によって、錆びていることが多い。再使用することもできるが、今回は新品部品を用意した。
ここでボトムケースのブレーキキャリパーブラケット部分を卓上バイスに固定し、T型レンチを使用して、ボトムボルトを緩める。このボトムボルトは奥まったところにあるので、適した工具が必要だ。しかし、この時点ではシートパイプが供回りしてしまい、緩めることはできなかった。
そこでインパクトレンチを用意し再びトライ。まだ、シートパイプが供回りしてしまう。前回ボトムボルトを締め付けた時に、トルクをかけすぎたか、ネジロックを大量に使用したようだ。急遽、自作シートパイプ回り止めツールを製作し、インパクトを併用して緩めることに成功した。
ボトムボルトを完全に外したら、インナーチューブをしっかり握り、スライディングハンマーの要領で、ゴンゴンと力を加えて引き抜く。手元にバイスが無い場合は2名以上で作業するのが良いだろう。このゴンゴンを何度か繰り返していくと、だんだんとダストシールが浮き上がってくる。
インナーチューブが外れたら、組付け時に困らないように、パーツの配列順序を確認しておく。オイルシール、ワッシャー、ボトムケース固定のスライドメタル、インナーチューブ固定のスライドメタルの順番だ。スライドメタルのテフロンコーティングがはがれている場合は交換が必要。
ようやく白日の下に姿を現した、シートパイプの先端は、純正特殊工具(純正品番57001-1366)24mmのヘキサゴンレンチが噛み合う形となっていた。後日訪れた工具ショップでは、差込角1/2sqの24mmへキサゴンレンチが販売されており、これがあればW650用の特殊工具として、代用することができるかもしれない。
今回、急遽製作した自作工具は、24mm幅のM16ナットと長ナットを溶接して組み合わせたもの。これがしっかり特殊工具として機能し、シートパイプからボトムボルトを取り外すことができた。ちなみに、外れたボトムボルトには、固まったネジロックのカスが大量に付いていた。
ボトムケースの底には、スラッジ化したフォークオイルが沈殿しているので、パーツクリーナーでよく洗浄しておこう。また、中をのぞいて内側に凹みなどがないか点検する。スライドメタルとは、僅かなクリアランスで慴動しているため、小さな凹みでも作動性に大きく影響がでるからだ。
インナーチューブも曲がりや傷がないかよく確認する。オイル漏れに影響がない程度の軽度な点サビがあった場合は、オイルストーンやサンドペーパーで除去する。その際は、必ずフォークがストロークする方向と直角方向に磨かないと、オイル漏れの原因となることがあるので注意。
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