掲載日:2023年11月07日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/増谷 茂樹
HONDA CL500
ホンダのスクランブラーに与えられる「CL」の名を冠した「CL500」。アップタイプのマフラーや、フロントフォークのインナーチューブを守るブーツ、幅の広いハンドルなどスクランブラーの文脈に沿ったパーツがアッセンブルされている。車体の基本設計は弟分モデルに当たる「CL250」と共通だが、250が単気筒エンジンであるのに対し、「CL500」は並列2気筒エンジンを搭載。パワートレインが変わることで、どれくらいフィーリングが異なるのかが気になるところだ。
”スクランブラー”スタイルのデザインが注目される「CL250」と「CL500」。車体の構成は基本的に同一だが、実車を目にすると軽快感のあるスクランブラーという印象だった250に比べて「CL500」はやや重厚なように見える。実際に車重も20kg重くなっているのだが、単気筒の250に比べて471ccの水冷2気筒エンジンを搭載するため、エンジンまわりの隙間がなくなり凝縮された感じが強くなっているのが要因だろう。車体サイズについてはほぼ同一だが、最低地上高が155mmと250より10mm低くなっている点も、スクランブラーっぽい軽快感の違いにつながっているのかもしれない。
2気筒エンジンのクランク角(位相角)は近年主流になりつつある270度ではなく180度とされている。270度クランクの方がトラクション性能に優れるとされ、スクランブラー的な使い方をするなら向いていそうだが、吹け上がりのシャープさが特徴とされる180度クランクを採用している点から、メーカーがこのマシンをどう位置付けているかが感じられる。未舗装路の走行を視野に入れたスクランブラーのスタイルだが、どちらかというと舗装路での走りを重視したマシンと言えそうだ。
実際に車体にまたがってみても250とは異なるマシンであることが伝わってくる。コックピットやタンクの形状は同一なのだが、250ではタンクで隠れていたエンジンが500では目に入るようになっているのに加えて、押し歩きやサイドスタンドから引き起こす際にも重量が増していることと、重心が低くなっていることが感じられた。エンジンをかけると、排気音の雰囲気もかなり異なる。単気筒らしいパルス感のある音の250に対して、ツインの500は2気筒らしくスムーズでジェントル。音だけでいえば250のほうが元気に感じるほどだ。
走り始めると、ジェントルな印象はさらに強まる。トルク変動の少ない180度クランクの2気筒エンジンらしく、アクセルを開けると滑らかに回転が上昇し、車体を加速させる。ホイールベースは1485mmで250と共通なのだが、直進安定性については500の方が上。エンジンが重く低重心となったことに加えて、クランクが2気筒分の重さとなり回転の慣性効果が高まっていることも影響しているのかもしれない。特に高速道路などスピードが乗るシーンでは安定感が強く感じられ、長距離ツーリングを快適にこなせそうだ。
ホイール径はフロント19、リア17インチで、タイヤサイズまで含めて250と同一。フロント19インチらしいハンドリングは250と共通だが、250がスクランブラーっぽい軽快さがあったのに比べると重厚さが増している。素直な挙動でバンクさせることができ、舵角の付き方も自然なので幅広のハンドルもあって街中でも扱いやすい。バンクさせてからの安定感の高さも大径ホイールらしいものだが、直進性と同じくその安心感がさらに高まっている。ハンドルの切れ角も大きめなのでUターンもしやすかった。
あまり向いていないとは感じながらも未舗装路を走ってみたが、フラットダートは予想していたよりずっと楽しむことができた。アクセル操作でリアタイヤを滑らせることもできるが、操作に対するレスポンスが鋭すぎないため、不安なくアクセルを開けられる。トルク変動のある単気筒と違って、180度クランクの2気筒エンジンはタイヤがスライドするとそのまま滑って行ってしまいそうだが、ラフなアクセル操作さえしなければスライドは自然に収束してくれるので楽しくてついつい走り過ぎてしまった。
スクランブラーテイストの強い250に対して、500は良質なネイキッドマシンという印象だったが、実際に走ってみるとオフロードでも意外な走破性を感じることができた。このクラスのネイキッドマシンは、輸入車も含めてライバルが多いが「CL500」の魅力はスクランブラーをイメージしたルックスと、素直なハンドリングにある。エンジン特性も穏やかで扱いやすいので、リターンライダーや初めて大型バイクに乗る人にもおすすめできる。