掲載日:2023年04月12日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/伊井 覚 写真/伊澤 侑花
Benelli TNT 249S
ベネリはイタリアのバイクメーカーで、その歴史は1911年まで遡る。日本ではあまり知られていないが、ロイヤルエンフィールドやハスクバーナ、トライアンフに次いで歴史あるメーカーなのだ。2021年にプロトが代理店として日本での販売を再開させ、現在日本で販売されているラインナップは全部で6種類。そのうち5種類は単気筒エンジンを搭載しており、唯一このTNT 249Sだけが二気筒、パラレルツインエンジンを搭載しているモデルとなっている。海外で販売されている752Sや302Sの兄弟モデルで「TNT」は「トルネード・ネイキッド」を意味している。なお、国内では他にTNT125も販売中だ。
跨った時の第一印象は「デカい!」というものだった。250ccとは思えない車格だが足つきは悪くなく、まるで400ccか600ccくらいのモデルに乗っているような充足感があった。セルスイッチでエンジンを始動したら、さらに驚かされた。まるで4気筒のような重く低い排気音に「本当に二気筒!?」と思わずエンジンを再確認してしまった。なるほど「トルネード・ネイキッド」という名称は伊達じゃない。エンジンだけでなく、極端に短く作られたマフラーが一役買っているのだろう。
DOHC4バルブで圧縮比は12.0:1、かなり高回転型のエンジンで、スタートする時はいつもより少しだけ余計に半クラッチで引っ張ってあげるといいだろう。最初は回転の上がり具合に鈍重な印象を受けたのだが、加速しながらシフトアップしていくと、6速7200回転くらいで100km/hに到達した。しかしスペックを見ると最高出力は11000回転となっていたので、敢えて4速で引っ張ってみると驚くことに8000回転から上でエンジンフィーリングが化けた。
太く、重い排気音と共に11000回転までジワジワと伸び続ける加速に、ついヘルメットの中でニヤリと笑みが浮かんでしまう。「凶暴」というのとは少し違うが、かなりの「力強さ」を感じた。それでもフロントが浮いたり暴れたりする気配は一切なく、不安を感じずに走り続けることができたのは、高剛性の車体によるところが大きい。見た目にも美しいトレリスフレームと、太いスイングアームにしっかりと支えられており、前後サスペンションは倒立で動きは初期はしなやかで中程からしっかり粘り、動きすぎることはない。そしてハンドルバーにはテーパーハンドルを採用している。総じて全体から伝わってくる「硬さ」から、本気のスポーツバイクであることがわかる。
204kgという車両重量も安定感に寄与していると感じた。他メーカーの250ccネイキッド、例えばカワサキのZ250は164kgなのだが、それで11000回転まで回したらちょっと怖いくらいの加速感がある。しかしこのTNT 249Sならば、安心して開けていけるのだ。サーキットを走ってレースをするのなら、軽さは圧倒的な武器になるのだが、公道でツーリングをするのならば重さも安定感という武器になるのだと感じた。
「重い」を少し強調してしまったので誤解のないように補足しておきたいのだが、乗っていて重さを感じることは少なかった。例えばステアリングはすごく軽くてハンドル操作はストレスフリーだったし、リアタイヤのサイズは太く、160/60サイズを採用しているのだが、コーナーでバイクを寝かせたい時には左右に長く設計されたステップの先端を踏み込めば、軽々とバイクが寝てくれる。ステップについてもう少し言うと、最初から少しバックステップ気味になっているが、ペダルは高めで、若干窮屈な印象を受ける。しかしこれは高さ調整機構が備わっていたので、体格に合わせてセッティングが可能だ。
実は撮影で使用したコーナーにはちょうどクリッピングポイントのあたりにアスファルトの凸凹があって、コーナリング中にバイクが跳ねてしまうようなこともあったのだが、それでもバイクが暴れたり、転倒しそうな感覚は全くなかった。これこそ、フレーム、サスペンションなどが高剛性にバランスされていることと、車重があることによる恩恵なのだろう。なお、250ccクラスにしてフロントブレーキにデュアルディスク(260mm×2)を採用している点も安心感を増幅させている。
そんなわけでクラスを超えた車体に支えられ力強いエンジンを搭載したTNT 249Sに乗って感じたのは、もの凄い安心感と包容力だったのだ。