【ヤマハ FJR1300A 試乗記】 20年以上の歳月を生き抜いたスポーツツアラーの新車が、今ならまだ買える

掲載日:2023年03月14日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦 写真/富樫 秀明

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YAMAHA FJR1300A

日本向けのFJR1300A/ASの生産は、すでに2022年に終了している。もっとも市場にはまだ新車の在庫が存在するので、約20年に及んだ歴史を振り返りつつ、“これが最後”という気持ちで、標準モデルのAをじっくり乗り込んでみることにした。

セローやSRに匹敵する人気

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近年のヤマハでは、ロングセラーモデルの販売終了が相次いでいる。具体的には、20年1月にセロー、21年1月にSR、そして21年12月にはFJR1300A/ASの販売終了がアナウンスされた(ただしいずれも、排出ガス規制が緩い一部の地域では継続販売)。ちなみに各車の販売期間は、セロー:35年、SR:45年、FJR:21年だが、1984~1997年に販売されたFJ1100/1200を含めると、FJ・FJRシリーズの販売期間はセローとほぼ互角になる。

もっとも日本では、セローとSRの販売終了がビッグニュースになった一方で、FJR1300の販売終了に対する世間の反応はあまり大きくなかった。その背景には、日本の道路事情では美点を実感しづらい、近年になって大排気量スポーツツアラーの主軸がオンロード系からアドベンチャー系に移行した、などという事情があるようだが、FJR1300はセローとSRよりはるかに短い期間で、10万台以上を販売したのだ(ヤマハが発表した日本向けの累計販売台数は、セロー:14万台以上、SR:12万台以上)。おそらく主要市場だったヨーロッパでは、FJR1300の退役を嘆くライダーが大勢いるのではないだろうか。

ヤマハ FJR1300A 特徴

スポーツツアラーの歴史を変えた画期的な存在

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2001年から発売が始まったFJR1300は、いろいろな意味で画期的な存在だった。まず当時の日本車では、ロングランに特化したスポーツアラーをゼロから新規&専用設計することが画期的だったし、2000年代初頭のツアラーの基準で考えれば143.5psの最高出力も画期的。そして初代から最終型に至るまで、並列4気筒エンジン+アルミダイヤモンドフレームの基本構成が変わらなかったことも、近年の常識では画期的と言っていいだろう。

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ただしFJR1300で最も注目するべき要素は、画期的な構造や手法ではない。“タンデムで10日間、3000kmを快適に走る”というコンセプトを具現化し、それでいてスポーツライディングが楽しい乗り味を構築したからこそ、このモデルは世界中で絶大な支持を獲得できたのだ。

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なおFJR1300への対抗意識を感じるシャフトドライブのハイパワースポーツツアラーとして、BMWは2004年に K1200S(同社初のアルミフレーム+クランク横置き並列4気筒車。2009年からは排気量を1300ccに拡大)、カワサキは2008年に1400GTR、ホンダは2010年にVFR1200F、トライアンフは2013年に第2世代のトライアンフ・トロフィー1200を発売している。とはいえ、ヤマハの牙城は崩せないと判断したのか、あるいは、前述したスポーツツアラー市場の変化を考慮したのか、いずれもFJR1300より先に市場から姿を消すこととなった。

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長きに渡った生産期間の中で、FJR1300は多種多様な改良を行っているが、大雑把に分類すると、2016年から発売が始まった最終型は第4世代になる。ただし第4世代の主な特徴は、ミッションの5→6速化、灯火類のフルLED化、バンク角に応じて照射方向が変わるコーナリングランプの採用(上級仕様のASのみ)などで、クラッチ操作が不要のYCC-S仕様を設定した第2世代や、ライドバイワイヤやライディングモード、トラコン、電子調整式サス(ASのみ)など、イッキにハイテク化を図った第3世代ほどのインパクトはない。逆に言うならその事実は、第4世代が熟成の極みに達したことの証明なのだろう。

ヤマハ FJR1300A 試乗インプレッション

刺激や主張が控えめだからこそ
ロングランでも心身の疲労を感じない

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やっぱりとっつきがいいとは言えない……。FJR1300Aで編集部を出発して十数分が経過した時点で、僕はそんなことを考えていた。装備重量は296kg、軸間距離は1545mmだから、それは当然なのかもしれない。同様の数値を採用していても、車高が低いクルーザーやハンドルが大アップタイプのアドベンチャーツアラーなら、印象はもうちょっとフレンドリーなのだが、このバイク車格とライポジは、一般的な体格の日本人と日本の道路事情にはちょっと馴染みづらいところがあるのだ。

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とはいえ、高速道路に乗り入れて巡航モードに入ると、印象はガラリと変化。改めて言うのも気が引けるが、このバイクは高速巡航がすこぶる快適なのである。もちろんツーリングを重視した今どきの大排気量車では、快適な高速巡航はごく普通のことになっているけれど、並列4気筒では珍しい2軸バランサーを採用したエンジンのジェントルなフィーリング、空気を切り裂きながら矢のように突き進んでいく直進安定性は、やっぱりFJR1300ならでは。高速道路での長距離移動が多いライダーにとって、このキャラクターは有効な武器になるだろう。

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そしてそこまで万全の高速直進安定性を実現していたら、旋回性のほうはいまひとつ……でも不思議ではないのだが、そうではないのがFJR1300の素晴らしいところ。端的に言うならこのバイクで走るワインディングロードは、ムチャクチャ楽しいのだ。まずコーナー進入時のフロントの舵角の付き方とバンクの仕方は、早すぎず遅すぎずの優しくてわかりやすい設定で、その気になれば任意の角度で止めることも容易。もちろん旋回中の車体に不安な気配は一切ないし、適度な車高の高さが功を奏しているようで、向き替えは至ってスムーズ。しかも立ち上がりでアクセルを開ければ、狙ったラインにきちんと乗りながら、滑らかにして豪快な加速が堪能できるのだ。

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ただし、各車各様の個性を身に着けた近年のヤマハ製スポーツバイクに慣れ親しんだライダーの中には、刺激や主張が控えめなFJR1300の特性に物足りなさを感じる人がいるかもしれない。とはいえ、他のモデルとは一線を画するFJR1300の包容力に、僕自身はヤマハの懐の深さを感じた。誤解を恐れずに言うなら、刺激や主張が控えめだからこそ、心身の疲労を感じることなく、このバイクは長距離を淡々と走り続けられるのだと思う。

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今回の試乗ではFJR1300の資質に改めて感心し、どうしてヤマハは後継車を作らないのかという疑問を抱いた僕だが、アドベンチャーツアラーが隆盛期を迎えている現状を考えると、今の時点でオンロードに特化した大排気量スポーツツアラーをゼロから新規&専用設計するのは難しいだろう。いずれにしても、セローとSRに続いて、ヤマハが長きに渡って熟成を続けて来た唯一無二の世界が無くなったことを実感した僕は、何だかしみじみした気持ちになってしまった。

ヤマハ FJR1300A 詳細写真

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電動調整式スクリーンの移動範囲は上下130mm。独創的な曲線2本レールを採用しているため、動きはスムーズでスピーディ。スクリーン下部には、快適性に貢献するエアダクトを装備。

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ハンドルは3段階の位置調整が可能。インナーカウル左側の小物入れはメインキーと連動しているので、キーをオフにすれば自動でロック。標準装備のグリップヒーターは温度調整機能付き。

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TFTカラーディスプレイが一般的となった現在では、アナログ式回転計+液晶ディスプレイ×2のメーターには古さを感じなくもない。エンジンモードはTとSの2種類。

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フィット感抜群のガソリンタンクは、25Lの大容量を確保。定置燃費は24.6km/ℓ、WMTCモードは16.6km/ℓで、ツーリングでの実質燃費はほぼ中間の20km/ℓ前後のようだ。

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シートは前後分割式で、メイン座面の高さは805mm/825mm。ちらりと見える純正タイヤは、ブリヂストンBT-023。

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テールまわりはスッキリした印象。テールランプとウインカーはコンビネーションタイプで、グラブバーとリアキャリアは一体型。

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2軸バランサーを採用する並列4気筒エンジンの基本構成は、初代から不変。5→6速化が行われた4代目のミッションは、セパレートドッグ構造とヘリカル式ギアを新規採用している。

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フロントフォークは、AS:倒立式、A:正立式。F:φ292mmディスク+対向式4ピストン/R:φ282mmディスク+片押し式1ピストンのブレーキは前後連動式で、フロント→リアだけではなく、状況に応じてリア→フロントへの伝達も行う。

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タンデムステップはメインステップと同様の構成。そのステーにはパニアケース用ブラケットという役割も与えられている。

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リアショックはボトムリンク式。なおASの前後ショックが電動調整式であるのに対して、Aはオーソドックスな手動調整式。

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マフラーは左右出し。後輪駆動はシャフト+ギア式で、ファイナルケースは固定式だが、リアまわりの挙動は至ってナチュラル。

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