掲載日:2022年11月12日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
MOTO GUZZI V7 STONE
モトグッツィはイタリアを代表するモーターサイクルブランドの一つである。とはいえ、規模的には小さく、生産台数も限られていることなどから、バイク乗りの中でもマニアックな人たちに好まれてきた傾向があることは否めない。モトグッツィの魅力はエンジンだ。縦置き90度Vツインエンジンという特殊なレイアウトは、世界中に無数にあるバイクの中で唯一の存在である。その縦置きVツインエンジンを初めて採用したのが、1966年に登場したV7というモデルだった。
V7というネーミングは一度消えることとなるが、2008年に再び使用され「V7 クラシック」が登場する。これが、今回取り上げるV7 ストーンをはじめとした現在まで続くV7シリーズとなっている。
2007年のEICMAにて発表されたV7クラシックは、当時ラインナップにあったブレヴァ750と基本構造を共通のものとしつつ、ネオクラシックモデルとして約40年ぶりにV7を現代に蘇らせた一台だった。この頃はまだ他のモーターサイクルブランドが、ネオクラシック系モデルを登場させる前だったので、その後到来するブームの先駆け的存在であったと言えよう。
発売後瞬く間にヒット作となったV7クラシックを発端に派生モデルを拡充させつつ、2011年にはモデルチェンジが施されたV7 IIが登場。さらに改良が加えられた2015年にはボバー系モデルに、より排気量の大きいV9が用意されるなどモデルレンジを広げてゆく。
モトグッツィのモデルを振り返ってみると、独創的でアクの強いデザインのモデルが多かった中において、オーソドックスなネイキッドスタイリングで纏められたV7シリーズは、モトグッツィの魅力を知るのに多くのライダーが手を出しやすい一台となったのだ。
そして2021年にはV85TTに搭載されるエンジンをベースとしたものを刷新搭載し、大幅に手が加えられたフルモデルチェンジが行われて今に至っている。
現在ラインナップされているV7シリーズは、スタンダードモデルという位置づけのV7ストーンと、よりレトロテイストを強調させたV7スペシャルの2モデルとなっている。今回はV7ストーンのインプレッションをお届けする。
年に数十台にも上る台数の試乗テストを行っているが、基本的にはすべて私にインプレッションの仕事をオーダーを行う担当者が決めた車両があてがわれる。そのような中、珍しく私から乗りたいと挙げたのがモトグッツィだった。
以前バイク総合雑誌を製作している頃には、新型車が出れば借りて乗っていたものだが、考えてみると10年近くモトグッツィに触れていないことが分かり、無性に縦置きVツインエンジンのフィーリングを味わいたくなったというわけだ。今回テストに選んだ車両は現行型V7ストーンだ。昨年フルモデルチェンジを受け850ccエンジンを搭載しているという点も興味があった。
実車を目の前にすると、スタイリングで受ける印象こそ従来通りの「V7」なのだが、モトグッツィのイーグルエンブレムを模したデイランプを備えたヘッドライトやフル液晶表示のメーターディスプレイなど、モダンなエッセンスも散りばめられている。
エンジンを始動し走り出すと、まず旧V7よりも低回転時のトルクが大幅に太くなっていることがすぐに伝わってきた。スペック上では旧モデルと比べて、最高出力で7馬力、最大トルクで約13Nmも引き上げられているのだ。それと縦置きVツインエンジン特有のアジでもある、スロットルワークに対して車体が傾くというトルクリアクションも大幅に軽減している。
ただし完全に打ち消しているのではなく、多少残されているところにむしろ安堵させられる。それは私が求めているのはモトグッツィだからである。
市街地を抜けて高速道路に乗る。エンジンのフィーリングは最高に心地が良い。しっかりとしたトルクがありながら、レブリミッターまで滑らかに上昇する。モトグッツィを愛してやまない人の気持ちは乗ればわかる。逆に乗ることで好きになれない人がいることも分かる。それほど癖のある乗り物なのだが、私は素晴らしいバイクだと思う方だ。
スポーティなエンジンと、軽くしなやかに路面を受け入れる足まわりのおかげでワインディングロードも楽しい。気持ちよくリーンさせて走らせていると、ステップを擦ってしまうこともしばしばあった。3000回転で最大トルクの80%を発生させるとされているが、どこを走らせても3000~5000回転程度が一番美味しく感じられるポイントだった。
ハンドリングに関しては最近のロードモデルよりもキャスターが寝ていることや、フロント18インチ、リア17インチというタイヤセットということなどから、リアタイヤをバンクさせフロントが切れていくフィーリングだ。ただ基本的には乗りやすいものの、タッチは良いものの奥でもう少し制動力が欲しくなるブレーキや、軽そうに見えて220キロ近くある車両重量のために、操作が難しい場面もある。乗りやすくも難しい、手厳しくも優しい。この上質なバランス感がなんとも人間味があるように感じられるのである。
あと一つ付け加えておきたいのは、テストを行ったのが空気が冷えてきた秋だったということだ。35℃を超える日も出てきた夏の季節は、エンジンがどのようなキャラクターになるのか気になるところだ。
この原稿を書いているまさに今日、日本からおよそ1万キロはなれたミラノの地でEICMA(ミラノショー)の開催が始まるが、以前私がそのEICMAに合わせイタリアのバイクメーカーなどの取材に行った時のこと。片田舎の地で利用した宿のオステリアに入ると、まだ太陽が高い時間にも関わらず、数人の地元男性が巨大なボールに入るアクアパッツァをつまみながらワイングラスを傾けていた。その人たちと仲良くなり、イタリアのバイクライフを取材していると告げると、「モトグッツィか? イタリアのバイクと言えばモトグッツィだぞ!」と口を揃えて言われたことを今でもよく覚えている。
実は同様の事を言われたのはその時だけでなく、しかも皆、特にバイク乗りというわけではない人の言葉だということから、本当にイタリアの心の中から愛されているブランドであるのだと私は思っている。V7 ストーンの車両価格は123万2000円で、同じ金額で手に入れられるものの中では、価値以上の魅力が詰め込められていると私は感じる。
さらに近々モトグッツィの故郷の地名が与えられたV100マンデッロというニューモデルも登場することになっており、今こそグッツィスト(モトグッツィ乗りの意)になる良いタイミングなのではないだろうか。