掲載日:2022年08月19日 試乗インプレ・レビュー
取材協力/KTM JAPAN 取材・文/佐川 健太郎 写真/星野 耕作
KTM RC 390
新型RC390が全面刷新して登場した。2014年のデビュー以来、初のフルモデルチェンジとなる。大きく変わったのは見た目で、MotoGPマシン「RC16」にインスパイアされたレーシーなデザインを採用。フロントカウルは大型化されて空力とエアプロテクションを向上。フューエルタンクも容量を拡大するとともに、ニーグリップしやすい形状へと見直された。
最高出力44psを発揮する水冷4スト単気筒DOHC4バルブ373ccエンジンは従来モデルを踏襲するが、エアボックス容量を40%拡大することで低中速トルクが増えて最大トルクも2Nm向上。スポーツ走行に対応したクロスレシオの6速ミッションにスリッパークラッチも搭載、クイックシフター+もオプション設定されている。
レースに由来するシャーシもストリート向けに最適化されて路面追従性を向上。サブフレームもボルトオンタイプとすることで交換も容易となり、フレーム単体で1.5kg軽量化されている。足まわりも進化した。WP製前後サスペンションはアジャスタブル機構を装備した新型APEXを採用。BYBRE製ブレーキもインナーディスクをホイールに直接マウントする方式とすることで960g軽量化され、加えて新設計の前後ホイールの採用でバネ下重量はトータル3.4kg軽量化。さらに電子機器をシート前方に移動することで重心バランスも最適化しハンドリングも向上させている。
また、新たに3軸IMUの採用によりコーナリング対応のABS&トラクションコントロールも標準装備とするなど電子制御も最新化。ABSはブレーキ性能を最大限引き出すスポーツ設定で、切り替え式の「スーパーモト」モードも新たに設定するなど、安全性を高めつつサーキット初心者から上級者まで幅広いレベルに対応したモデルとなっている。
デザインが大きく変わった。従来モデルはフロントが尖った独特の形状をしていたが、新型では正統派スーパースポーツルックへ。特にフロントカウルはボリューム感が増して、サイド部分もパネルを立体的に組み合わせた現代的なスタイルへと進化した。
ライディングポジションも比較的大柄で、ハンドル位置も低すぎずステップ位置も高すぎない自然な感じ。シートまわりがスリム化されて足着きも良くなった。感心したのがスクリーン。大型化されて防風効果も高いし、カウルと一体化され下側まで透明なので伏せていても視界が広い。これは斬新で実用的なアイデアだ。
エンジンは低中速トルクがあって扱いやすく、しかも高回転までスムーズに伸びていく。レッドゾーンに入る10000rpmまで一気に吹けるので、ついつい回しすぎてしまうが、サーキットでちゃんと走ろうしたら最大トルク7000rpmから最高出力9000rpmの間でパワーバンドをきっちり使ってギヤチェンジしていく必要がある。そういうピーキーさもまたレーシングマシン的な面白さで、上体を伏せて点滅するタコメーター越しの景色を見ているとMotoGPマシン的な没入感が味わえる。その意味でも素早くスムーズにシフト操作ができるクイックシフター+は必要不可欠と思う。
WP製サスペンションは意外にもソフトで乗り心地も良い。ストローク感もあって加速・減速での姿勢変化も分かりやすく標準セッティングでも十分走りやすい。ただ、ペースを上げていくと少し動きすぎる感じも出てきたので、前後ともダンパーを少し効かせるとさらに走りやすくなると思う。ちなみにWP製リプレイスサス(WP APEX PRO)装着車にも試乗してみたが、旋回中の車体の安定感やタイヤの接地感もさらに増して乗り心地も上質に。荒れた路面で倒し込まなくてはならない場面でも、ノーマルに比べて安心してアプローチすることができた。オプションパーツで走りの性能が目に見えて変わるのもKTMの魅力。前後セットで交換すると20万円ちょっとかかるそうだが、その価値は十分ありそうだ。
ハンドリングもより洗練された。従来モデルは剛性が勝っている感じで、フロントまわりに固さを感じた記憶があるが、新型はよりしなやかに曲がりやすくなった。切り返しでも頑固さがなくなり、右から左へとスパっと軽快に倒し込める。これは足まわりの軽量化が明らかに効いている。また、スリムな車体と改良されたタンク&シート形状により、外ヒザで車体をホールドしやすくなった。これによりコーナリング中のマシンとの一体感が濃厚になり安心感もアップ。結果として上体から力が抜けてリラックスしてコーナリングが楽しめた。
BYBRE製ブレーキも車格とパワーに見合って扱いやすい。初採用のコーナリングABS&トラクションコントロールも積極的に試さないまでも、それがあるというだけで安心感が違う。
KTMらしいレーシーなカラーとデザインはサーキットに映えるのはもちろん、ストリートでも注目を集めるはず。前傾ながら比較的平和なライディングポジションは街乗りも守備範囲だし、400ccクラスの余裕のパワーを生かした高速ツーリングも楽しめると思う。過激に見えて幅広く楽しめるスポーツモデルだ。