ホンダ NC700X
ホンダ NC700X

ホンダ NC700X – 今の時代に求められるバイクとは…

掲載日:2012年04月12日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/佐川 健太郎  撮影/渡邉 英夫(MOTOBASIC

ホンダ NC700Xの試乗インプレッション

ホンダ NC700Xの画像

従来のバイクの常識を覆した
開発コンセプトが素晴らしい

ホンダは本当に凄いことをやってくれたと思う。その理由は後でまた触れるとして、最初に NC700X の開発責任者から「燃費世界一をカタチにしました!」とそのコンセプトを伝えられたとき、失礼ながらあまりピンとこなかった、というのが正直なところ。たぶんそう思った人が多かったのではないか。

今までホンダと言えば、F1にしろ MotoGP にしろ、モータースポーツ界では言わずと知れた “パワーの象徴” であり、数々の独創的なマシンを世に送り出してきた “夢の工場” というイメージが強かった。それがここにきて、ついに4輪コンパクトカーのような低燃費競争に足を踏み入れてしまったのかと…。

ホンダ NC700Xの画像

だが、実車を目の前にしてまず驚いたのがグレード感の高さ。ホンダがクロスオーバーコンセプトと謳うデザインは、一見デュアルパーパスモデルのようでもあるが、よく見ると前後17インチキャストホイールだし、タイヤもシート形状も完全なオンロード向き。フロントのピーク(くちばし)からラゲッジコンパートメント、そしてシートからテールへと流れるシルエットは、じつに洗練されていて美しい。ヘッドライトとテールライトの造形も凝っているし、ニューミッドコンセプトの3兄弟車であり、共通の車体を使って外装だけ変えている(失礼!)とはとても思えないほどだ。アラ探しをすれば、ラジエターまわりやスイングアームの作り、ハプレスのディスクなどにコストダウンの跡は見え隠れするのだが、目立つところだけに割り切ってデコレートしている賢さには、逆に脱帽する。

乗ってみるとさらに驚く。エンジンフィールが普通のバイクと違うからだ。最初は「4輪コンパクトカー、フィットの4気筒エンジンをブッタ斬って並列2気筒にした」などと噂されていたこともあり、低燃費だけのつまらないエンジンなのかと思っていたが、そうではなかった。たしかに1速だと 60km/h でレブリミッターが効いてしまうほどの低回転型エンジン。ハーレーなどの巨大排気量クルーザーは別として、国産でこのスタイルのモデルでは見たことがない。エンジンは “もっさり” しているのだが遅いわけではなく、回転は低くても加速は結構鋭い。このアンバランスさが面白いのだ。270度位相クランクのビート感がまたいい。あまり引っ張りすぎず、3,000~4,000rpm あたりでテンポよくシフトアップしていったときの、心地よい振動が連続する感じがとても気持ちいい。ただ、あっという間にレッドゾーンが近づいてくるので、ワインディングなどではシフトワークが忙しいことは事実だ。

ホンダ NC700Xの画像

ハンドリングは軽快なのだが、これも従来のスポーツモデルとは異なる軽さを感じる。たとえば、スーパースポーツモデルは重心位置を高く設定し、倒し込みではその “位置エネルギー” を利用して俊敏さを出しているが、NC700X に関してはその逆。前傾エンジンやシート下燃料タンク、本来ガソリンで満たされているはずのラゲッジスペースは空っぽという状態なので、極端に低重心になっている。その結果、速度域にかかわらず、どこにもマスがないような自然な軽さでバンクし、曲がっていく。この感覚に慣れてくると、バイクの重心バランスは本来こうあるべきものなのかも、と思ってしまうほど。低速域でも、燃料タンク満タン時のあの “グラッ” とくる感じがないのだ。ちなみにUターンは、ハンドル切れ角も大きくエンジンも極低速がそこそこ粘るので楽なほうだ。ただし、前後連動のコンバインド ABS のため、リアブレーキを強く入力し過ぎると極低速ではフロントが切れ込みやすいので注意したい。それ以外では、コンバインド ABS は頼もしい限りで、コーナー手前での速度コントロールもしやすいし、万が一のときはシングルディスクであることを忘れるぐらい、強烈に ABS が作動してくれる。

ホンダ NC700Xの画像

高速クルーズも得意で、コンパクトなフロントスクリーンは期待以上に整流してくれるし、足長、アップライトなライディングポジションのおかげで見晴らしもいい。ソフトな足回りに加えて、シート形状とウレタンの材質がいいのか、とても座り心地が良く、快適に距離を伸ばせる点も魅力だ。そして特筆すべきは、容量21リットルのラゲッジスペースだ。バイクを離れるときはヘルメットを保管しておけるのはもちろん、ツーリングなら1泊分ぐらいの荷物、取材ならカメラなど撮影道具一式を収納できる。そのうち愛犬を載せて一緒に旅をできるキットが出ても楽しいと思う。アイデア次第で使い方はいろいろと広がるだろう。

NC700X は超低燃費によって時代が求めるエコを実現しただけでなく、「バイクは荷物を積めなくて当たり前」という常識を覆し、モビリティとしての可能性を広げつつ、所有したくなるデザイン性とライディングの楽しさをぐっと凝縮し、65万円という驚きのプライスを実現した。これは拍手を持って迎えられるべきだと、心から思う。

ホンダ NC700Xの詳細写真は次ページにて

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