【Page7】Zには他のバイクに無いカワサキイズムが生きている。

掲載日:2009年11月03日 特集記事「今・時・Z」    

記事提供/2008年11月27日発行 絶版バイクス Vol.2

「気持ち良く走らなきゃもったいない。」

Zには他のバイクに無いカワサキイズムが生きている。

ひとりのユーザーとして、Zとの付き合いは30年以上になるという、ビトーR&D社長の美藤定さん。過去のバイクとしてでなく、今を楽しむためのバイクとして、Zのカスタマイズを行っている。その行為はZの本質を正しく理解した上で、未来に通用するパフォーマンスの体得=カワサキイズムの継承となる。

美藤 定(Jyo Bito)
Z2でのアメリカ旅行がきっかけで、ヨシムラR&D、USホンダのメ力ニック、チューナーとしてのキャリアを積んだ美藤社長。ビ卜ーR&Dを設立したのはその後のことだから、まさにZがこの世界に導いたようなもの。

 

マグ鍛の企画開発と製造を行い、ケーヒン代理店やコスワースの総輸入元などを務めるビトーR&D。それ以外にも数々のスペシャルパーツをプロデュースするコンストラクターでもある同社は、一方で16ページで紹介したようなコンプリートカスタムを製作している。

 

バイクショップというより、メーカー的な存在である同社が、カスタムマシンを製作するのはなぜか。

 

代表の美藤定さんによれば

 

「Zは、パーツの選択を間違えなければ良いバイクに仕上がります。ですが、押さえておくべきツボのようなものがあるのも事実です。パーツを開発する立場だからこそ、それらを理想的なかたちで使っていただきたいという思いがあって」コンプリート車を手がけるのだという。

 

いわゆる商売のネタとしてだけでなく、美藤さんとZには浅からぬ関わりがある。1976年、青年だった美藤さんは自分探しの旅とばかりに、日本で乗っていたZ2とともに北米一周の旅に出た。それ以前にCB72、CL72、CB450、CB750にも乗ったが、Zにはそのどれとも違い「これなら絶対に壊れない」という安心感があって、さらにハンドリングを含めた走行性能でも、比較にならないほど魅力的だった。

 

だからZ2を相棒にアメリカに旅立ったわけで、結果的にその後の人生をバイク業界に投じるきっかけとなった。Zとの出会いがなければ、現在のビトーR&Dも存在しなかったかもしれないほどの、人生における重要な鍵なのである。

 

その後、Zについての見識を深め、さらにZ1開発当時のカワサキ技術陣を交流が生まれたことで、強い意志を持って世界一を目指して開発されたというエピソードに胸を打たれたそうだ。

 

「そういう思いが詰まっているから、40年近く経ってもZは古びていないし、今でも世界中で楽しまれているのでしょう。ナンバー1クラスの人気を40年も継続できる工業製品は、そうそうないはずですよ」と美藤さん。

 

確かに、これからZ1に乗りたい、所有したいと考えている人々にとって、これが35年以上前に生産された製品だという認識は小さいのではないだろうか。

 

使い続けられる愛される、製品には明確なコンセプトがあり、惜しみない技術の投入がある。美藤さんが思うに、そのコンセプトとは“徹底的に良い道具となろう”という信念だと捉えている。良い道具とは、どんな場合でもユーザーを裏切らず、思いのままに使えるということだ。機械が出しゃばりすぎるのではなく、かといって無機質に徹するでもない。Zにはそういうムードがあって、それはユーザーにも直感的に伝わる。

 

そのZを美藤さんがカスタムすると、こうなる。Zが発売されていた当時には存在しなかった軽量ホイールやラジアルタイヤなど、現代の高性能パーツを組み合わせることで、さらに魅力を向上させるのがコンセプトである。

 

スタンダード状態からどこかをいじれば、必ずオリンジナルが持つバランスは崩れる。だから次にバランスするポイントを探す。それがカスタムの必然である。

 

吸排気系やエンジン本体に手を加えて馬力が上がれば、ブレーキを貧弱に感じるだろう。それを解消したら、細いバイアスタイヤの性能では頼りなくなり、サスペンションが気になるはずだ。そして最終的には、スタンダードのフレームにも手を付けたくなる。

 

ギンギンに尖った性能を求めるからそうするのではない。素晴らしい素質を持つZを最新技術でチューニングすることで、現代流の“良い道具”としての解釈を成立させたいのだ。基本が良いのは百も承知で、技術と魂を込めたカスタムを行うことで、さらに10年、20年と楽しめるバイクに仕上がる。

 

それはまた、モノ作りも通じている。芯の通ったコンセプトで責任を持ってやらなければ、賢いユーザーはそれを見抜く。技術力が上がっても、志や魂の希薄な、小手先から生まれた商品には魅力を感じない。美藤さんはそう考えて、真面目に気持ちよく走るためのカスタマイズを追求している。

 

  • ケーヒン製キャブレダーも、コスワースのピストンも“世の中には素晴らしい製品がある"ことをユーザーに知って欲しくて取り扱いを始めた。自社開発のマグ鍛も、海外製品に触れて“自分ならもっと優れた製品ができるはず”という思いで開発に着手。地道にノウハウを蓄積して、メーカーワークスに採用される性能を獲得した。

  • 上の写真を見ての通り、美藤さん自身もカスタムマシンに乗る。自らがライディングすることで、マシンとパーツがマッチしているか、どんな方向性で開発を進めれば良いのかが見えてくる。高性能な工作機械で精密な加工ができても、生み出された製品が効果を発揮しなければ意味がない。結果が求められるレースの世界に身を置いていたから、カスタムの本質を見極める目は確か。
    左のマシンはKZ1000がベースで、コスワースφ71mmピストンにより排気量は1045cc、ビッグバルブにポーティング、ヨシムラST-1カムを装備。ホイールは18インチのマグ鍛JB2。サイズはフロント3.00-18、リア4.00-18と太すぎず、ラジアルタイヤを装着してもネガティブな要素はなにもないという。バックステップは、スタンダードのブレーキピボットを残したアップタイプ。

 

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