掲載日:2023年02月09日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚
YAMAHA JOG
ヤマハのJOGが初めて世に出たのは1983年のこと。つまり、JOGは今年で40周年を迎えたことになる。幾度ものモデルチェンジや派生モデルが誕生し、現在では125ccのJOG125と、50ccのJOG/JOG デラックスがラインナップされているが、本項では50ccのJOGを取り扱う。2016年に発表された本田技研工業との業務提携により、2018年に大きくモデルチェンジ。ホンダのスクーター タクトをベースモデルとし、フロントマスクやエンブレムを変更した「OEMモデル」として生まれ変わった。
2018年のフルモデルチェンジではそれまでと変わらず水冷4ストローク単気筒49ccのエンジンを搭載していたものの、バルブ数は3バルブから2バルブへ。ボア×ストロークを38×43.5mmから39.5×40.2mmとし、最高出力、最大トルクなどは微増。これまでよりも低回転でパワーが出るスクエアストローク型のエンジンとなった。
全長は少し短くなったもののホイールベースは20mm延長されており、これまでよりも直進安定性が向上。シート高も20mm低くなり利便性も良くなっていると言えるだろう。また車両重量も-6kgされており、より軽快かつスポーティーな走りを実現している。さらに前後連動コンビブレーキが標準装備されているため、リアブレーキレバーだけを握ると連動してフロントブレーキにも制動力がかかり、前後ブレーキがバランスよく機能してくれるのだ。
さらにデラックスモデルにはアイドリングストップ機能が付いており、信号待ちで停車した時に自動的にエンジンをストップ。再発進時には軽くスロットルを捻るだけで再びエンジンが始動し、走り出すことができる。燃費と環境に配慮したモデルとなっている。
実は50ccのスクーターに乗ったのはかなり久しぶりで、もしかしたら10年ぶりくらいかもしれない。それくらい、近年は50ccスクーターを見なくなった。アジア諸国から125ccのスクーターがたくさん逆輸入されてきて、その便利さに多くの日本人が虜になってしまったのだ。高速道路こそ乗れないものの、30km/h制限はなく、面倒な二段階右折もしなくていい、そして保険はファミリーバイク特約で賄える……。そんな125ccスクーターに一度乗ってしまうと、もう50ccには戻れないだろう。事実、現在のヤマハのラインナップを見ると125ccスクーターが5車種あるのに対し、50ccスクーターは3車種という状況だ。
しかし久しぶりに乗ってみると、50ccは50ccで実に面白い。速度が出ないからこそ味わえるゆとりから、街の景色や人々の流れに目がいく。それが安全運転に繋がる。とにかく全てに余裕があるのが、素晴らしい。近年では電動自転車や電動キックボードなどが街に溢れ、通勤・通学や買い物の足にも使われるようになってきているが、原動機付自転車はしっかりとした免許制度で守られているからこそ、安心して運転できるという考え方もできる。
そして歴史の浅い電動自転車や電動キックボードでは代替えできないのが、スクーターの利便性の高さだ。40年の長い歴史の中で培われてきたノウハウが、至る所に詰まっている。500mlのペットボトルが収納できるインナーボックス、エコバッグやコンビニ袋がひっかけられる大型フックが付いており、シートの下には19L(デラックスは20L)の収納スペースまで備えてある。さらには荷物を括り付けたり、ボックスを装着できるリアキャリアが標準装備されており、荷物を運ぶという視点から見ると電動モビリティがこの高みに追いつくにはまだまだ長い年月を要することが容易に想像できる。
盗難防止のシャッター付きキーシリンダーや左ブレーキレバーの前に付いている後輪ブレーキロック機能も実用的だ。そして不整地や坂でも安心して駐車できるセンタースタンドまである。125cc以上のモデルだとセンタースタンドをかける際には少しだけ気合が必要となるため、最初はセンタースタンドのみという設計に少し戸惑いを覚えたのだが、実際に使ってみると車体の軽さもあって、あまりにも手軽にセンタースタンドをかけることができた。
やもすれば「普通のスクーター」と一言で評してしまいそうになるが、こうして改めて分析してみると、驚くべき実用性と安全性を備えている。これが長い歴史の中で各メーカーが切磋琢磨して開発を続けて進化を続けてきたスクーターの完成形なのだろう。