掲載日:2023年12月13日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
YAMAHA MT-125
排気量90cc超125cc以下のピンクナンバーモデルが活況だ。筆者がバイクの免許を取得した90年代初頭は、はっきり言って見向きもされていなかったゾーンで、2000年代に入ると電動アシスト自転車の台頭や2ストエンジンの廃止などから多少その存在が見直されてはいたが、シティコミューターとしてのスクーターモデルが主戦場だった。それがここ数年はリバイバル系モデルのヒットなどにより、ホビーバイクとしてしっかりと根付いたように見えていた。そんな中、ヤマハが先だって欧州で発表していたYZF-R125/15、MT-125、XSR125という3種のワンツーファイブモデルの日本国内での販売を始めた。フルカウルスポーツであるYZF-R、スポーツネイキッドのMT、ネオクラシックシリーズのXSR、ヤマハを代表する3シリーズそれぞれの末弟モデルが登場したのである。
今回はその中からストリートでのスポーツライディングに長けたMT-125をフューチャー。エンジンやフレームをはじめとした構成や実際に走らせて分かる乗り味などを探っていきたいと思う。
今回はMT-125のインプレッション記事を紹介するのだが、その前に簡単に世界的に見たワンツーファイブマーケットのことを考えていきたいと思う。それと言うのも、先述したようにヤマハではMT-125を含む3種類のワンツーファイブを欧州で先だって登場させているし、他の国産ブランドもワンツーファイブに力を入れて始めている。日本には入ってきていないものの、実は欧州やアジア、南米地域などでは数多くのワンツーファイブモデルが販売されているのである。
そもそも日本のレギュレーションでは50cc超~125cc以下は原付二種という区分とされ、原動機付自転車(原付)でありながらも、時速30キロの速度規制が無く、二段階右折が不要、さらに保険料や税金をはじめとしたランニングコストも安く抑えることができる。そんなわけで通勤通学など日常生活で使用するユーザーに支持されてきた。それはつまり”道具”としての利便性などを意味することでもある。
一方で海外に目を向けると、EUでは125cc以下のバイクはA1と呼ばれる区分にあたり17歳で取得できるバイク免許の最大排気量となっている(50cc以下はAMという区分で16歳で免許取得可能)。アジア圏でのレギュレーションはまちまちだが、基本的には125~150ccモデルがマスマーケットとなっており、それ以上は一気に税金が高くなる場合がほとんど。ちなみにアメリカでは150ccを境に免許が分けられている。
そこで日本と世界の事情を照らし合わせてみると、ワンツーファイブモデルがグローバルビジネス的に適しているということが見えてくるのだ。カスタムを楽しめるホビー的要素の強さや維持費を抑えられることなどから、日本でも昔からコアなファン層は存在したのだが、ここ数年ではスクーターに止まらず様々なモデルが登場したこともあり、すっかり市民権を得た感じである。そのような背景を踏まえつつ、ヤマハが満を持して投入してきたMT-125の完成度を探っていくとしよう。
Master of TorqueからつけられたMTシリーズの初代モデルにあたるのはMT-01だ。排気量1670ccの空冷Vツインエンジンによる強い鼓動感に驚かされたものであり、欧米でヒットモデルとなった。それに続いて登場したのがトリプルエンジンを採用したMT-09だった。手足感覚で操れるファンライドバイクとして爆発的なヒットを遂げ、さらにそれに続く形で誕生したMT-07はよりフレンドリーでありながらも飽きの来ないスポーツモデルとして多くのライダーに支持された。この頃になると、もはやMTシリーズはヤマハスポーツバイクの中核を担う存在となっており、さらに裾野を広げるべく、MT-25/30が追加されていった。
MT-125はシリーズ最小排気量モデルだ。個人的なイメージとして受け止めてもらえるならば、MT-01から始まったMTシリーズはエンジンに注目するべきだと考えてしまう。鼓動感であったり従順でありながらも強いパンチ力であったりという個性を持つエンジンキャラクターに期待をしてしまうのは、その名がマスター・オブ・トルクに由来していることも一因だ。そんな中、4スト125ccシングルエンジンはどのような感触をもたらしてくれるのだろうか。
今春開催されたモーターサイクルショー以来となる実車を目の前にしたが、以前の印象よりも車格が大きいと思えた。スペックをMT-25と比べても全長こそ90mm短いが、全高は同じ、全幅では5mm広い。シート高にいたっては、30mm高い810mmとなっているので、立派に見えることが当たり前だとも言える。ただし跨り車体を引き起こしてみると、ものすごく軽量であることがすぐに分かる。車両重量は僅か138kgしかないのだ。MT-25が2気筒エンジンを採用しているのに対して、MT-125はシングルエンジンとなっていることも大きな要因だろう。
操作感の軽いクラッチレバーを握り、ミッションを1速に入れて走り出す。低速域から想像以上にパワフルなことに驚かされる。ストリートファイターやモタードライクといったキャラクターを助長するために、低回転域からパワー感を得られるようなギアレシオを用いているからとも取れ、テンポ良くシフトアップダウンを繰り返してパワーバンドを上手く使って走らせれば、爽快なスポーツライディングを楽しむことができる。
最高出力の15馬力は10,000回転という高回転で発生し、そこまで引っ張るような走らせ方をしてもチープさが無い。ブレーキの制動力やサスペンションの動きも秀逸だ。恥ずかしながら、少々舐めてかかっていた私は、走り始めて数分でノックアウトさせられてしまった。
走れば走るほどMT-125の良さは伝わってくる。アップライトなライディングポジションは上体の自由度が高く、前後左右体を大きく動かして果敢なスポーツランを楽しめる物であるが、特筆すべきはその逆で、さほどしっかりとした入力をせずとも軽量な車体を活かして自在に操ることができるのである。細身のタイヤは車体をあまり寝かさずとも舵角を捉えて回頭しはじめ、一気にラインをトレースしてゆく。ライトウエイトスポーツの真骨頂であり、これはストリートでも大いに効いてくるセッティングである。
基本的なディメンションはYZF-R125やXSR125と共通としているものの、モタードライクなライディングポジションをもたらすために燃料タンクおよびタンクカバーを専用の物としたり、後端部をショートにしたMT-125専用のリアフレームによりマスの集中化を図ったりと、ディテールにも余念がない。倒立フロントフォークやアシスト&スリッパ―クラッチ、トラクションコントロールなど上位モデルに勝るとも劣らない数々の装備が奢られながらも、車両価格は消費税抜き45万円。税込みでも50万円を割る49万5000円で抑えてきたのはあっぱれと言えよう。
円安傾向が続き、ビジネス的にも世界に後れを取っていると言わざるを得ない日本において、ワンツーファイブモデルは次世代を躍進させるのに期待されている分野でもある。現在の原付二種区分をより広めるため普通自動車免許に付帯させるという法改正を促す取り組みも長いこと繰り返されてきたが、最近ではその動きも活発になってきた。
YZF-R125やXSR125などプラットフォームを共通するモデルとのパーツスワッピングをするなどカスタムの幅も広がり、オリジナリティの表現も可能で、ランニングコストも抑えられる。MT-125は未来志向の一台であり、老若男女問わず楽しむことができるモデルに仕上がっていると言える。