『バイク乗りの勘所』

レースが教えてくれたこと(その3)

掲載日:2014年10月27日 タメになるショートコラム集バイク乗りの勘所    

Text/Nobuya YOSHIMURA

私の本業は、雑誌のライター兼ウェブサイトの製作・管理である。前者は26年、後者は18年続いている。が、それでもなお、仕事の流儀は、かつてレースメカだった頃のものを引きずっているし、これまでいろんな仕事をしてきた中で、レースメカこそ自分に最適の職業だったと思っている。で、今なお引きずっているレースメカ風の流儀の典型的なものは“1人でできる仕事は2人がかりでしない”あるいは“人の仕事は頼まれるまで手伝わない”である。

上に書いた2つは、2つとも、整備ミスをなくすための重要事項である。1人でできる仕事を2人がかりでした場合は、注意力が散漫になるだけでなく、2人が2人とも“ここは相手がやったはず”と思い込んだ結果、2人ともやっていないという最悪の事態が生じやすい。頼まれるまでは手伝わないのも、手伝ったがために、相手がミスを犯しやすくなるのが嫌だったからだ。もちろん自分も、頼みもしないのに手伝われるのは、不快でたまらなかった。

しかし、2人のメカのうちひとりは担当マシンの整備を終えているのに、もうひとりは担当ライダーが転倒し、全バラ~組み立てをしなければならない…などというイレギュラーな事態に直面したときは、手伝ったり手伝ってもらったりした。これは“2人がかり”とは違い、本来の担当メカが主人で、お手伝いは奴隷のようなものだ。奴隷のほうは、ご主人さまがこれから使う工具を手渡したり、使い終わった工具を片づけたり、交換部品を用意したりする。

お互い、プロのメカニック同士だから、仕事の手順は知りつくしている。が、上に書いたような“サポート”は、したりしてもらったりしても、マシンに触るのは担当者のみ。他人のマシンを触りたくないというよりも、他人にマシンを触らせたくないという気持ちが強かった。メカニックというのは、設計ミスや操作ミスを除き、マシンに関する全責任を負う仕事だから、すべての作業を自分でしなければ、責任など負えないといった考えが根底にある。

こちらの記事もおすすめです

この記事に関連するキーワード

新着記事

タグで検索