掲載日:2008年10月02日 試乗インプレ・レビュー
構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
日本からはるか遠く離れたヨーロッパ、イタリア・スイス・オーストリア三国の国境線近くに、「ステルビオ峠」がある。アルプス山脈の東に位置するこの峠は、標高2,758メートルにもなる急峻な斜面に九十九折れのワインディング・ロードを持ち、周辺地域はもちろんヨーロッパ各地からライダーが集まる高名な場所。モトグッツィは伝統的にこの峠を試験走行用のルートとしており、この厳しい山岳路で鍛えられたマシンたちが、マンデーロから世界の市場へと飛び出してく。今回試乗する「ステルビオ」は、まさにこの峠から名前をとったモデルで、モトグッツィにとっては1989年に発売されたクォータ以来の大型エンデューロモデルだ。ここ最近、ヨーロッパだけでなく世界のバイクシーンにおいて、冒険心をくすぐるデュアルパーパス・ツアラーの人気が高まっており、各社からさまざまなモデルが発売されている。
ツーリングマシンを得意とするモトグッツィだけにこの状況に手をこまねいているだけでなく、他社から新たなモデルが次々とデビューする中、着々と「モトグッツィとしての解答」を準備していたのは想像に難くない。同社のグリーゾ8Vに採用したばかりの「クワトロバルボーレ」空冷V90°2気筒エンジンを、新型のツインスパーフレームに搭載し、モトグッツィの歴史を刻み込んだステルビオ峠の名前を与えられたこのアドベンチャーマシンが、どのような解答を我々に提示してくれるのか早速確認してみることにしよう。
ステルビオは、オンロードだけでなくオフロード走行も視野にいれたデュアルパーパスモデルだ。高速道路における余裕のハイスピードクルージングを実現するフェアリングと大型のスクリーンを備える一方、ダート走行に対応するフロント19インチ、リア17インチのスポークホイールとブロックパターンタイヤ、車体を飛び石などから守るアンダーガードなどを備えている。これに組み合わされるのは、片側4バルブを採用した空冷OHC90°Vツインエンジン、通称「オットーバルボーレ(8バルブの意)」エンジンと伝統のシャフトドライブ。また、スロットルオープン時に車体がリフトするシャフトドライブの特性を抑制する「Ca.R.C(カルダーノ・リアッティーボ・コンパット)」も採用しており、現モトグッツィのラインアップにおいて、最上のスペックを与えられている。
もちろん、基本的なスペックだけでなく、ツアラーとしての装備も充実している。手元でコントロールできるメーターは、速度やトリップだけでなく平均燃費なども表示可能な多機能なもので、ツーリング時の状況判断が容易だ。ツアラーモデルのお約束ともいえるハードケース装着にも対応するほか、タンク上部には電動スイッチで開錠できるコンパートメントも備えており、十分な積載能力を確保している。個性的な2眼ヘッドライトはマルチリフレクタータイプとなっており、夜間の光量も十分。同カテゴリのライバルたちと比較しても、不足ない充実装備と言えるだろう。そして、これらを包み込むのが、個性的でグラマラスなステルビオ独特のフォルム。曲線的なラインを持つバイクが増える中、スピード感と鋭さを持つ直線基調のスタイルは新鮮だ。伝統的な車体構成から個性的なスタイルまで、やはり「モトグッツィは一味違う」哲学を感じさせてくれる。