掲載日:2023年07月14日 試乗インプレ・レビュー
写真/ピアッジオグループジャパン 取材・文/佐川 健太郎 衣装協力/KUSHITANI
MOTO GUZZI V100 Mandello S
V100 マンデッロは、モトグッツィ創業100周年を記念して開発された渾身のブランニューモデルである。縦置き90度Vツイン+シャフトドライブという伝統のレイアウトは守りつつも、エンジンは完全新設計の「コンパクトブロック」と呼ばれる水冷DOHC4バルブタイプを採用。 排気量1042ccから最高出力115ps とパフォーマンス的にも一気に現代的レベルへと飛躍した。ル・マン 850や ル・マンIII をオマージュした流麗な車体フォルムやLEDヘッドライトにイーグルを象ったDRLを採用するなどモトグッツィらしさが随所に織り込まれているのも特徴だ。
V100マンデッロには2つのタイプが用意されている。ひとつはKYB製サスペンションを採用するスタンダードタイプ。もうひとつはオーリンズ製セミアクティブ・サスペンションやクイックシフター、グリップヒーターなどを装備した上級版の「S」である。双方とも4種類のライディングモード(スポーツ、ロード、ツーリング、レイン)と6軸慣性プラットフォームによるコーナリングABS&MGTC(トラクションコントロール)が組み込まれて安全性も最新レベル。
また、電動調整式スクリーンや2輪初となる可変式エアロフラップ、クルーズコントロールを標準装備するなど高速走行での快適性も万全。モトグッツィ史上最も進化した“オールラウンド”スポーツツアラーとなっている。
今回はアジアン・パシフィック向けのローンチということでマレーシアの首都、クアラルンプール近郊でメディア向け発表会&試乗会が開催された。
実車を見ての第一印象は“美しいマシン”。防風面積の大きいハーフカウルやタンクからテールへと流れる流麗なフォルムは、空気の壁を切り裂いて進む航空機のイメージと重なる。モトグッツィの出自がイタリア海軍航空隊に由来することを知っていれば、なお感慨深いはずだ。ライポジは海外製スポーツツアラーらしく大柄で、ロングタンクにアップハンドルで上体が起きた楽な姿勢がとれる。見た目はシュッとしているのに乗ると快適というのがポイントだ。電制サスなのにエンジンを始動しなくても体重で自然に沈み込んでくれるので跨りやすい。取り回しはイメージより軽く、足着きの良さ(シート高815mm)は空冷のV7とまではいかないものの標準的だろう。
注目すべきは新型エンジンだ。吸排気系のレイアウトを90度外側に捻ったことでエキパイは前出しから横出しになり、スロットルボディは燃料タンク下に隠れる形となった。その結果、エンジン搭載位置を前に寄せてハンドリングが向上し、従来の空冷エンジンのようにブレーキングでヒザがシリンダーヘッドに当たらなくなった。
興味深いのはスロットルを空吹かしたときにブルンと車体が右側に傾ぐ独特の動きが従来と逆の左側になったこと。トルクリアクションの反動も少なくなった。また、加速時にリア側がリフトするシャフトドライブ特有の動きなど、今までにモトグッツィの代名詞になっていたこれらの「クセ」がほとんど出なくなっている。ドライブシャフトを兼ねた片持ち式スイングアームが従来のモトグッツィとは反対の車体左側に配されていることも含め、すべてが新しい基準で設計されていることが分かる。
エンジンはスムーズでスロットルを開け閉めしたときのギクシャク感もなく、バランサー内蔵により不快な振動はほとんど感じない。Sに標準装備のクイックシフターは操作も滑らかでワインディングでの頻繁なギアチェンジでもストレス無し。従来の空冷縦置きVツインの図太い鼓動感や味わいを上手く残しつつ一気に洗練された感じだ。水冷4バルブDOHCと最新化されたVツインのパフォーマンスは「素晴らしい!」のひと言。郊外の幹線道路でも3000rpmも回していれば十分で、スロットを半分開けるだけで図太く重厚なトルクが大柄な車体を押し出していく。ちなみに高速道路では6速固定からでも楽々追い越し可能。高回転型4気筒とは異なるミッドレンジが美味しいトルク型の加速力で、神経質にならずに済むから疲れにくく、結果として長距離を楽に走れる。強力なエンジンと優れた空力、電制サスによる快適性も含め、高速道路は気持ち良く走れる得意なステージだ。
ハンドリングはどちらかというとスタビリティ重視。俊敏すぎず適度などっしり感が安心感につながっている。それでいて、街の交差点も素直に曲がるし、タイトな峠道のコーナリングも軽快にこなす。シャーシは外からあまり見えないが、スチールチューブ製フレームでエンジンを吊り下げたシンプルな構造で、乗っていてもエンジンの存在感を大きく感じるハンドリングになっている。これは他のモトグッツィにも共通したフィーリングなので持ち味として楽しみたい。
4種類のライディングモードも試してみたが全体的に穏やかセッティングだ。「スポーツ」モードでもいきなりガツンとパワーが出たりしないし、「レイン」だからといって極端にトラコンが効いたりパワーを削ったりせず自然なフィーリングになっている。言葉を変えれば、どのモードでも馴染みやすいということだ。印象的だったのがモード毎に電制サスペンションの動きも変化すること。たとえば、「ロード」と「ツーリング」はパワー感が似ているのだが、ツーリングのほうが足も柔らかくなり海外の荒れた路面でも突き上げが緩和されて疲れにくい。なので、試乗会でもほとんどのセクションを「ツーリング」でカバーできた。やはりツアラー要素をメインにシステムも組み立てていると思われた。
注目の可変式エアロフラップだが、基本設定としてツーリングモード時に70km/h以上で作動する仕組み。スーッと羽を広げるようなアクションは航空機のエアブレーキのようで演出効果は満点だが、100km/h巡行程度では明確な整流効果は感じられず、もっと速度を上げるとどうなのか。一方で電動スクリーンは高さをマックスにすると明らかにヘルメットに受ける風圧とノイズを低減してくれた。ちなみにマンデッロSに標準装備されているオーリンズ製セミアクティブ・サスペンションは、スタンダードモデルに比べても明らかに乗り心地が良く、荒れた路面でも安心感があり走りやすかった。一方で、自分好みに細かくセッティングを煮詰めたい人にはスタンダードのマニュアル調整タイプもおすすめかもしれない。
伝統の縦置きVツインを最先端テクノロジーで再定義してみせたV100マンデッロ。昔からのモトグッツィのファンはもちろん、今まで色々なバイクを何台も乗り継いだ熟練ライダーにこそ乗ってもらいたいモデルと思う。