掲載日:2022年07月05日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
HONDA CB400SF
バイクに限らずファッションや音楽など幅広いジャンルに言えることだが、時代の移り変わりは止まることはなく、世代によって目を通して感じられることが異なるものだ。その中には流行り廃りもあり、後出したものに淘汰されるような場面も多くみてきた。しかしCB400SFは違った。
1992年に初代モデルが登場したCB400SFは、当時のネイキッドブームを牽引する大ヒットモデルとなった。ツーリングユーザーの声に応えハーフカウルモデルCB400SB(スーパーボルドール)が登場し、さらにファン層は拡大。普通自動二輪免許を取得する際の教習バイクとして長く使用されてきたこともあり、ファーストバイクにCB400SFを選ぶライダーも多かった。
扱いやすさ、高いパフォーマンス、スタイリッシュなデザインなど、惹きつけられる要素は多く、30年もの長き間、愛され続けてきたCB400SFだが、先日、ついに生産を終了するアナウンスが届いた。とても残念なことだが、時代の移り変わりには敵わなかったということかもしれない。
1977年生まれの私が、中型自動二輪免許(現・普通自動二輪免許)を取得したのは1993年の夏のこと。バイク雑誌に広告が掲載されていた茨城にある合宿教習所に1週間滞在したことを今でも鮮明に覚えている。その際の教習バイクはVFR400Kがほとんどで、その中に数台、まだおろしたてのCB400SFが混ざっていた。長く使われてきたVFRがだいぶくたびれていたせいもあったが、CB400SFの乗りやすさは、まだ無免許の卵ライダーでも分かるもので、今思い返せば台風が直撃した暴風雨の中行われた卒検において、VFR400Kがあてがわれていたら落ちていたかもしれない、運よくCB400SFに乗れたから合格したのかもしれないと考えている。ライダーが通ってきた青春の1ページにCB400SFは刻まれているのだ。
しかし実を言うと、当時の私はCB400SFの魅力がイマイチ分かっていなかったことを告白しておく。すでにブームは下火に入っていたレーサーレプリカモデルに興味を示していたので、あの頃人気だったネイキッドモデルやアメリカンタイプのバイクはなんとなく触手が伸びなかったのである。ただ、不動車を譲ってもらったり、わらしべ長者のごとくバイクを交換し入れ替えるなどをし、高校時代だけでも10数台のバイクを乗り継いだ結果、CB400SFはとても良くできたバイクであることを身を持って知ることができた。
その後、バイク雑誌を手掛けるようになり、モデルチェンジを重ねていったCB400SFに触れるたびに、究極の一台と太鼓判を捺し続けてきた。何といってもパワー感、ハンドル幅をはじめとしたサイズ、取り回しの良さなどなど、日本の交通事情にベストマッチしているからだ。
今回約3年ぶりに触れることとなったCB400SF。日本人が日本人のために作り上げた車体は、見た目以上にコンパクトで、シート高も抑えられており、足つきが気になる小柄なライダーでも問題ない。イグニッションキーをオンにすると、デュアルアナログメーターの針がキャリブレーションを行うのだが、回転計の方はVTECが作動する6500回転付近から針の回転速度が上がるという、細かい演出が施されている。
エンジンを始動し走り出す。2バルブを使用する低回転域では力強いトルクを感じさせてくれ、シグナルスタートを繰り返す市街地でも快適だ。テスト車両は初年度登録から1年を超え、総走行距離も1万キロ以上の個体であるが、それを感じさせない元気の良さは、ホンダがエンジン屋と呼ばれる所以を強く感じさせる。
それにVTECが作動し4バルブとなる回転まで引っ張った際のサウンド、フィーリングが堪らなく気持ち良い。基本的には1速から5速までは6300回転で、6速では6750回転で4バルブに切り替わるのだが、スロットルの操作も感知し、それに応じて2バルブ、4バルブと切り替わる。これがとても自然に作動することに感動すら覚える。革新的な技術を兼ね備え、現在販売されている400ccクラスの中で唯一4気筒エンジンを採用しているCB400SFが無くなることはとても残念なことだと、少し走らせただけでも強く思わせられる。
高速道路にステージを変えると、安定した走りに完成度の高さを感じさせてくれる。ハーフカウルが備わるCB400SBの方が快適性は勝るものの、風を受けながら快走を楽しめるCB400SFのオーソドックスなパッケージングも捨てがたい。
ワインディングでは手足のように車体をコントロールすることができ、しかもスポーツライディングを楽しむ際の許容範囲も広い。最近のモデルでは当たり前となりつつあるスリッパークラッチなどは装備していないため、シフトダウン時に回転数を合わせるようなことを求めてくるが、むしろそうして操ることが楽しいと思わせてくれる。
CBR400Rなどがニュースタンダード的なものと言うならば、乗り味自体は古さを感じさせるものの、エキサイティングであり、何にでも使える利便性の高さを備えるCB400SFは最高の一台だ。
その昔、スペックを追いかけた時代があった。しかしそれは永遠に続くものではなく、フィーリングを求める風潮へシフトしていった。400cc、並列4気筒、VTECを搭載し最高出力は56馬力。世界中を見渡してみるとこんなにも贅沢なバイクはCB400SFしかなくなってしまっていた。”兵どもが夢の跡”、世の中というものは移ろいやすいことを例えた松尾芭蕉の一句だが、CB400SFが現在置かれている状況も、それに近いものなのかと思えてくる。
昨今のようにツインエンジン全盛の時代が来るとは思ってもいなかったし、今もなおCB400SFの生産終了を信じられないような心境であり、新車インプレッションを行う機会もこれで最後になるかもしれないと思うと、書きたいことも多くどのように纏めれば良いか本当に悩むところだ。
それでも、CF400SFとCB400SBは令和2年排出ガス規制が適用されることに伴い、2022年10月生産分を持って生産終了となることは事実だ。いずれCB400SFにとって代わる名機が現れることに期待すると共に、今年を持って有終の美を飾る名車を新車で手に入れるのは、きっと長い目で見ても良き選択となることだろう。