掲載日:2019年12月23日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
INDIAN FTR1200S Race Replica
インディアンは2017年からアメリカのフラットトラックレースに復帰、ワークスマシンFTR750でいきなり初年度からチャンピオンをもぎ取った。その後18、19年と3連覇を達成するという快進撃を見せた。そのFTR750をモチーフにしたのがFTR1200シリーズだ。しかしこの2つのマシン、スタイルは似通っているものの、その中身は大きく異なっている。750のエンジンは挟角53°のVツインでフレームはダブルクレードルだが、1200のエンジンはスカウト系の60°Vツインを1203ccまでボアアップ、フレームも鋼管トレリスフレームとなっている。つまりFTR1200は単なる750のレプリカではなく、ストリートロードスポーツとしてのキャラクターをきちんと与えられた、全く別のモデルなのである。
FTR1200はフロント19、リア18インチのタイヤサイズと1,524mmというホイールベースに加え、最低地上高は183mm、シート高は840mmと、見かけはかなり大柄だ。しかし、燃料タンクはシート下に設置され、低重心化とマスの集中化が図られている。
上級モデルとなるFTR1200Sはタッチパネル式のLCDディスプレイを備えたメーターやプリロード&ダンピング調整が可能なフルアジャスタブルサスペンション、IMU(慣性計測ユニット)を搭載したトラクションコントロール&ウイリーコントロール、スポーツ/スタンダード/レインが切り替え可能なエンジンモード機能などの専用装備を備える。また、最上級モデルとなるレースレプリカには、これらに加えてアクラポヴィッチ製のスリップオンマフラーを装備している。
FTR1200Sのシート高は840mmで、シート幅もあることから足つき性はいいとは言えない。ところが、跨るとアップライトなハンドルは意外と体に近いし、燃料タンクがシート下にあって重心が低いこともあるのか、見かけは大柄なのにコンパクトなイメージで、ポジションもごく自然なものとなっている。エンジンを始動すると、アクラポヴィッチのマフラーからは元気のいいエキゾーストノートが聞こえてくる。その音は低く、迫力あるものだが、リプレイスマフラーにありがちなただうるさいだけのサウンドと違って、アクセルをブリッピングしても耳障りでないジェントルなもの。「なかなかやるな」と思わせてくれるサウンドチューニングだ。
アシスト&スリッパークラッチは軽く、シフトの入りも上質なもの。しかし、いざ走り出すとそのパワフルさには驚かされる。シティランでは2,000回転も回せば十分なトルクとパワーが得られ、普通に走ることが可能。そして不用意に3,000回転を超えるまでアクセルを開けると、スタンダードモードにもかかわらず体が置いて行かれそうな暴力的な加速を見せる。高速道路の合流で6,000回転付近まで引っ張ってみたら、トルクの塊で押し出すような豪快なダッシュを見せ、あっという間に法定速度に達してしまった。スポーツモードを試してみると、街中では過剰とも思えるほど、ピックアップの鋭い加速を味わうことができる。
だからといって直線番長的なマシンかと思えば、そんなことはない。オフロードバイクにも通じるアップライトなポジションと低重心、車体バランスの良さもあって、コーナーリングはとても素直でよく曲がる印象だ。そして前後150mmのトラベルを持つサスペンションのおかげか、乗り心地がとてもいいのである。
ちなみに、ほんの遊びのつもりでフラットダートにも乗り入れてみた。ホイールベースが長く車体重量もかなりあるので、自在に振り回すような走りはできなかった(筆者にそんな腕がないだけだが……)が、ABSとトラクションコントロールをオフにしてブレーキターンを試みた際など、体を中心にリアタイヤが気持ちよく弧を描いて回り、とてもコントローラブルで安定していた。これはまさに、車体バランスの良さからくるもので、マシンの挙動が素直で不安感が全くなかったのには正直驚いた。
峠でキビキビと元気よくも走れるし、クルーズコントロールも装備しているからツーリングで長めの距離を走っても疲れづらい。また、キャンプツーリングなどでダートに乗り入れるのも、案外楽々とこなしてくれるはずだ。見かけはスパルタンだがオールマイティで懐の深さを持っている、FTR1200Sはそんなマシンだと感じた。