スズキ GSR250
スズキ GSR250

スズキ GSR250 – 世界展開を見据えたグローバルモデル

掲載日:2012年10月11日 試乗インプレ・レビュー    

取材・撮影・文/淺倉 恵介

スズキ GSR250の試乗インプレッション

スズキ GSR250の画像

真面目に作りこまれたことが伝わってくる完成度の高さが光る
なにより走りの楽しさは多くの人に味わってもらいたい

展示会のディスプレイや写真などではなく、実際に実車と対面すると GSR250 は思った以上に大きい。もちろん 250cc クラスなのでリッタークラスのように大きいわけではないのだが、パッと見の印象は 400cc ネイキッドのそれに近い。実際に同クラスのライバルと比べても、CBR250R より全長で 100mm 以上も長いのだ。だが、マシンに跨がってみるとハンドル位置は手元の自然な位置にあるし、大柄な燃料タンクも膝の位置はかなり絞り込まれており、乗車感覚はスリム。この “大柄に見える” ということはデザイン上でひとつのキーポイントだ。車格も大きめではあるが、タンクカバーやテールカウルなど、かなりの部分が “大きく見える” ようにデザインされているのは明らかだ。大柄に見せるデザインワークが性能要件的に本当に必要だろうか? と思わせる2本出しマフラーは、豪華でシンメトリーなデザインが好まれる中国市場からの要求で採用されたと聞く。確かに解りやすいゴージャス感はあり、グローバルモデルとしての狙いを考えれば理解できる。しかし個人的に 250cc クラスは手軽さが身上だと考えているので、疑問を感じなくもないところだ。

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各部の仕上げは丁寧で安っぽさも感じられない。とくにメーター周りは装備も含めて質感が高い。ハンドル周りを含め、乗車時常に視界に入る部分なので仕上げの良さは嬉しい。中国生産ということで質感が気になっている人も多いだろうが、心配は無用と言っていいだろう。そもそも世界企業であれば、もはや海外生産は当たり前だ。国内メーカーの商品で海外生産された製品は、我々の身の回りにいくらでもあるのだ。そうは言っても、自分自身「日本製バイクの品質は最高」を確信する一人であるため、海外生産という要素をネガティブに捉えていたのは事実だ。だが走り出したところ、即座にその意識が吹っ飛んだ。

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まず感じたのが、フラットなトルク感と車体の安定感。エンジンパワーは強力というレベルではないが、実にフラットで、素晴らしく扱いやすい。実用域は 4,000 回転から上、元気に走りたいのなら 7,000~9,500 回転辺りを使うと楽しい。高回転をキープして走るのは難しいと考えるかもしれないが、パワー特性がフラットなので簡単にピークパワーを駆使できるのだ。更に言うと、低回転域も実に粘る。アイドリングのままスロットルを開かずとも、丁寧にクラッチを繋げばマシンはスルスルと進み出すほどだ。ロングストロークタイプのエンジンでスペック上の最高出力も高くはないのだが、ピークパワーを自在に引き出せるので想像以上に速い。というより “速く走らせる” ことが出来る。過大なパワーに振り回されるよりずっと面白い。また特筆すべきは振動の少なさ。グリップにはわずかに振動が伝わってくるものの、あくまでエンジンが稼働しているのを確認出来るレベル。高回転になると少しだけ振動は増えるが、それでも気になるレベルではない。もちろん走り終えた後に手足が痒くなったり痺れたりもしない。回転のスムーズさはマルチエンジン的で「ツインは振動があるもの」という固定概念が嘘であったかと感じる程だ。ツインやシングルのエンジンでは “味” とされる鼓動感を否定はしないが、こういうツインもあるのかと驚かされた。

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またコーナリングが良い。実に良い。荷重コントロールとか1次旋回とか難しいことを考えずにクルクル曲がってくれる。旋回中も接地感があり、安定している。ギャップを拾っても一瞬身震いしただけでキレイに挙動が収束するので、安心してコーナリングを楽しめる。サスペンションがしなやかに動くのがまた好印象。スプリングは柔らかめの設定で、ピッチングも起こしやすいから旋回のきっかけが作りやすい。その動こうとするアシを、しっかりとダンピングを効かせて不要な動きを規制しているようだ。奥での踏ん張りもほどほどで、ワインディングを楽しむには丁度良い設定だ。一番気持ち良い部分は、ライダーの曲がろうとする意識と、マシンの挙動がシンクロしているところ。コーナーの入り口で思った通りのバンク角が決まる。この感覚は走りを楽しむ上でとても重要なことだ。スーパースポーツのように大きな荷重をかけた走りをしようとすると、さすがに荷が重いようだが、それでも破綻しない懐の広い車体なのだ。高速道路の直進安定性も十分。見た目の重さに反してドッシリとした安定感は無いが、フラフラせず安定性と軽快感のバランスが丁度良い。ブレーキの制動力も十分だ。初期制動力は弱めだが、絶対制動力は必要なレベルを備えており、万人向けのセッティングと考えれば納得。この自由度の高さ、キャパシティの大きさは素晴らしい。本当に走るのが楽しいバイクだ。

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そうなると批判的に見ていた大柄なデザインも「これはこれで良い」と思えるようになるのだから現金なものだ。もっとも、大きめの車体が安定性の高さに寄与しているのは事実だろう。グローバルモデルである以上、仕向地別の仕様変更はあるものの、基本的に様々な交通事情、道路状況、使用用途に対応できる骨格が必要となる。GSR250 の開発においては未舗装路などの悪路走行まで考えての開発が行われたという。おそらくは東南アジア方面で見られる、4人や5人という通常バイクのキャパシティを超えた大人数での乗車までも想定しているのではないだろうか? そういった厳しい条件の中、これだけの車体性能にまとめ上げたスズキの開発陣には拍手を送りたい。とある技術者に海外生産の難しさについて聞いたことがある。一番難しいのはモラルの徹底だという。海外スタッフに日本式の丁寧なモノヅクリ思想を理解してもらうのは、なかなかに困難な仕事だということだった。その点 GSR250 のクオリティは国産品に勝るとも劣らない。国や民族の違いを超え、海外生産においても “ジャパンクオリティ” を貫いたスズキの努力には感嘆させられる。

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コミューターとして日常使用用途も求められるバイクだから、取り回しについても触れておこう。GSR250 の足着き性は、実は意外と悪い。スペック上のシート高は 780mm と、さほど高いわけではなく実際に跨がっても腰高な印象は無いのだが、停止時に足を下ろすと、ちょうどステップに当たってしまうので足をまっすぐに延ばすことが出来ない。また、シート幅も広めなので足が広がってしまう傾向がある。とは言うものの、車体の重心位置が低く、またハンドルが自然な位置にあるので取り回しは良好だ。足着き性が良くないのは事実だが、女性や小柄なライダーであっても、つま先だけでも接地すれば不安は小さいはずだ。重量がライバルに比べて重いという声も聞くが、実際の取り回しではその差を感じない。大柄な車格から受ける視覚情報に影響されているのではないか、と思う。

もし小柄であったり体力に自信が無く、足着き性を良くしたいと考えた際に、シートを削るなどして安易にシート高を下げるのは感心しない。これ以上着座位置を下げると、相対的にハンドル位置が上がり、グリップが遠くなってライディングポジションがおかしくなるだろう。なによりライダーの乗車位置が変わってハンドリングが変化してしまうと予想されるからだ。どうしても足着き性を良くしたいのなら、シート幅を狭める加工のみを行うか、いずれ登場するであろう社外パーツのバックステップを装着して、ステップ位置を後退させることをお勧めする。

ここまで力説するのも、ビギナーには是非こういったハンドリングの良いバイクに乗ってもらいたいからだ。素のままの GSR250 を味わい尽くして欲しい。GSR250 は走るのが抜群に楽しい。いとも簡単にコーナリングの喜びを感じさせてくれる。イージー過ぎると批判する向きもあるかもしれないが、そういうベテラン層は、ストイックなスーパースポーツで己を磨く修行に専心してもらえばいい。バイクは楽しいのが一番だ。GSR250 にはそれがある。自分がビギナーだと自覚するライダーは、まずたくさん走って、バイクの楽しさを感じて欲しい。バイクで走る喜びを知り、その奥深さを感じる。GSR250 は、その入り口に相応しいモデルだ。また、ベテラン層にも是非味わってもらいたい。バイクを自由自在に操れるということがこれほど楽しいものだったのかと、再認識させてくれるはずだ。

スズキ GSR250の詳細写真は次ページにて

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