【Page2】What’s “Hayabusa”? ~ハヤブサとは何か~

掲載日:2010年02月24日 特集記事スズキGSX1300R隼    

記事提供/2009年11月1日発行 月刊ロードライダー 11月号

標準にして究極を成功させた
セレブリティ・スポーツ

1998年のミュンヘンショーで発表されたスズキ・ハヤブサ。そのとき人々の注目は、300㎞/hを超す最速性能にあまりにも強く傾いていた。しかし、その本質はあらゆる状況で楽しめる究極のスーパースポーツであり、最速性能もその結果に過ぎなかったのだ。

最速を視野に入れ万能性を追求した究極形スポーツ

●ハヤブサは、一般公道で性能を取り出すことのできる「究極のスーパースポーツ」をコンセプトに生まれた。排気量1298㏄、燃料噴射式、ラムエア吸気の新設計エンジンを、アルミツインスパーフレームに搭載。搭載位置を低く前方にすることで、低重心化を図るとともに前輪分布荷重を稼いでいる。また、徹底した空力の追求などによって、従来の常識を越えた性能を得た。動力性能だけでなく、ハンドリング、快適性、扱いやすさ、所有できる悦びまでが高水準で作り込まれた超高性能マシンである。

 

ハヤブサは、10年も前の1999年、「究極のスーパースポーツ」として鳴り物入りでデビュー。その前年に、“スーパースポーツ”というカテゴリーをメジャーにした立役者であるヤマハYZF-R1が登場したばかりの当時、1300㏄の高性能エンジンをスーパースポーツの車体にパッケージングしたハヤブサは、人々に大きなインパクトを与えた。
ただ、'98年秋のミュンヘンショーで大々的に発表されたとき、人々の注目は300㎞/hを超す最速性能に向き過ぎていた。いや、そのことは'99年初頭にジャーナリスト向けの試乗会が行われても変わることはなかったのかも知れない。

世界の専門誌はこぞって、サーキットだけでなく公道で300㎞/hオーバーを指すスピードメーターを捉えた写真を掲載。そればかりか、アウトバーンで元GPライダーをハヤブサに乗せ、300㎞/h走行の様子をヘリコプターで追跡空撮するという暴挙まで敢行された。さすがにそこまでいくと、スピードに寛容な欧州諸国でも、余りの高速ぶりが反社会的であるとの物議を醸し、ハヤブサはバッシングに晒されることになってしまった。

 

和歌山利宏

ハヤブサには'98年秋のショー発表、'99年初頭のカタルニアでの試乗会に立ち会い、その後も競合機種との比較試乗など多くの機会で接してきた。今後のバイクの進化への興味が尽きない国際派2輪ジャーナリストだ

 

基本理念をそのままに、全てを高次元化させた現行型

●第二世代に生まれ変わった新ハヤブサは、エンジンも車体も、基本こそ初代から引き継がれる。しかし、動力性能、ハンドリング、ブレーキのすべてにおいて今日的に高次元化するため、1299㏄から1340㏄に排気量を拡大。フレームの基本を引き継ぎながら、車両姿勢を後ろ上がりとしキャスター角を24度10分から23度25分に立たせ、スイングアームを剛性アップするなど、全てが見直された。空力特性の追求から生まれたユニークなスタイリングも、基本イメージを踏襲しながらより個性を際立たせたものとなった。

現在のリッタースーパースポーツははるかに高い動力性能を備えてしまっているから、今となっては大騒ぎするほどのこともなかったとも思える(現在、300㎞/hの速度リミッターが各車に備えられるのは、このハヤブサの一件があったからだ)が、ともかくハヤブサにとっては、破格の動力性能を備えるがばかりの不運に見舞われたのである。

ところが、このことがハヤブサの名声を台無しにしてしまったのかというと、決してそんなことはない。実際、バイク乗りが速いものを追い求めるのは当然のことであり、そうしたアピールが潜在的に憧れを高めていったことも否めない。しかし、そのことよりも注目すべきは、公道でスポーツできる究極形として支持されてきたことである。

ハヤブサは、怒涛の動力性能を生かすために、重心を低く、ホイールベースは長く設計された。でないと、いとも簡単にフロントが舞い上がってしまうからだ。でも、そのことが取っ付きやすさと安定感を与えてくれることになった。足着き性は悪くないし、しかもドシッとした低重心感があって、取り回しでも安心感がある。

また、ハンドルは少々遠めでも、ライポジの前傾度は強くなく、シートの座り心地さえ良い。ハンドル切れ角は比較的大きく、ホイールベースは大きくても、結構小回りできる。スポーツツアラーとしても使えそうな快適さを備えていた。加えて、エンジンは柔軟で、スロットルワークにもスムーズに反応。濡れた路面でも、ビギナーを不安にさせることがない。高速性能に目を向けなければ、ごく普通のストリートバイクのような扱いやすさだ。それでいて、しなやかなサスを生かして小気味良く姿勢変化させていけば、スポーティに向きを変え、低回転域から発生される極太のトルクを生かせば、猛然とダッシュしていく。スポーティに楽しめるのだ。

現在のリッタースポーツと比べれば、明らかに重く大柄で、絶対的なハンドリング性能で見るべきところはないだろう。ところがワインディングでは、むしろ安全に走りを楽しむことができる。感性に合った運動性能を備え、ライダーへの依存度も高いからだ。それに僕自身、登場時の試乗会では、スペインのカタルニアサーキットで、思う存分スポーツ走行を楽しんだものである。とは言え、ここ近年の技術革新と高性能化は著しく、古さを感じさせないまでも、もっと今日的にリファインさせることが可能。というわけで、2008年型として生まれ変わったのが、現行型というわけである。

フレームやエンジンの基本を共用し、ライポジも3点の位置関係は変わらず、現行型もハヤブサ以外の何者でもない。新型になっても、初代が提唱した“究極のスーパースポーツの世界”は変わらないと言える。しかし現行型には、初代登場から9年の間のバイクの進歩というものが、しっかり具現化されている。まず印象的なのが、FIのスロットルレスポンスである。初代にしてもスムーズさが秀でていたが、新型はGSX-Rシリーズと同じデュアルインジェクター・デュアルバルブ方式を採用、フィーリングはシルキーと表現していいほど上質である。加えて、2㎜のストロークアップで排気量が拡大されたエンジンは、これまでにも増して強力でリニアなトルク特性を実現。怒涛の勢いで超高速域へ誘ってくれるものの、あくまでもジェントルで洗練されている。エンジン同様、ハンドリングも、特にサスの動きも上質になっている。スムーズにストロークし、路面の不整を滑らかにいなしながら、あらゆる場面において忠実に曲がっていく。コーナーでの身のこなしもしなやかそのものなのである。ただ、高出力を受け止めるためもあって、車両姿勢がやや後ろ上がりになり、サスも高荷重設定になったことで、足着き性はやや劣る(シート高の諸元値は同じだが)。ややもするとドシッとした低重心感は損なわれ、操る面白さは初代のほうに分があったと言えなくもない。

しかし、これだけの高速性能を誇りながら、同時にここまで身近に感じられるキャラクターを持ったバイクがほかにあるだろうか。そもそも“スーパースポーツ”とは公道でのスポーツ性を徹底追及したマシンのことであり、その意味でも、このハヤブサは究極形である。

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