【Page9】怒濤の200馬力超はいかに乗るのか

掲載日:2010年01月15日 特集記事ザ・パワーチューニング    

記事提供/2009年7月1日発行 月刊ロードライダー 7月号
Text/和歌山利宏

パワーとトルクの持つ理論的な意味については、18~19ページで説明した通りだが、一体これらの特性は、実際の走りにはどのように反映されるのだろうか。それに注目すれば、2002年に4スト化し'06年までを990ccで戦ったモトGPマシンの進化と速さと秘密も見えてくる。


  • RC211V初期型への試乗は、モトGP初年度である2002年の暮れ、鈴鹿サーキットで実現。写真は2006年のもので、'02年チャンピオンマシン、バレンティーノ・ロッシの'02年型#46車と、'03年からレプソル・ホンダに加わるニッキー・ヘイデンの歴代#69車が並ぶ

  • 和歌山が鈴鹿で試乗した2002年型RC211Vは、故・加藤大治郎選手の乗るフォルトゥナ・ホンダ・グレシーニの#74車。パワーのあまりの強烈さに、これを乗りこなすライダーに畏敬の念を抱かざるを得なかった

RC211Vは'06年型が最終型。N・へイデンの#69ニュージェネレーション車だけでなく、ダニ・ぺドロサの#26オリジナル車にも試乗


ビッグパワーには調教が必要

僕は試乗インプレで、「トルクがピークに向かって立ち上がり始め・・・・・・」などと書くことがある。実は、走ればトルクカーブを頭にイメージできるのだ。別に難しいことではなく、ただスロットル全開でフル加速するだけのことである。

 

トルクの大きさは燃焼圧でピストンを押し下げる力次第だし、また燃焼圧は新気の充填率で決まってくる。その充填具合は、流体の流れに左右され、回転数によって変化。車両性格に合わせて、充填率が高まる回転域が調整されているわけだ。

 

エンジンを低回転で全開。トルクが増大し後輪駆動力が高まる。一定速で走るなら、そのときの走行抵抗に見合うだけの駆動力を与えるべく、スロットルを開いていればいいが、全開にすれば走行抵抗よりも大きい余剰の駆動力が生まれ、その余裕駆動力によってバイクは加速。生じる加速度は余裕駆動力の大きさに比例する。そのとき僕は、五感で加速Gの変化を感じ続けるのだ。

 

トルクが上昇すれば加速Gは増し、トルク谷では加速が鈍る。加速Gが最大になるのはトルクピークのところだ。トルクの上昇が二次曲線的だったら、筋肉への緊張感も同様に高まってくるし、カーブが膨らんでくる特性だったら、止めどなく緊張感がかかり続ける。それらの変化をタコメーターを見つめながら把握し続け、レッドゾーンに達したときは、カーブがイメージできる。ダイノマシンでのシャシーテストを実走でやるようなものである。

 

僕は多くの場合、2速でこれをやる。1速は強烈過ぎて短時間で終わるので把握しにくく、3速以上では速度が上がりすぎるし、高速側で空気抵抗が大きくなって、余裕駆動力が小さくなり、トルクカーブを読み取りにくくなるからだ。

 

加速Gがピークを過ぎても、回転が上昇し速度が増していくほど、パワーが出ていることになる。加速感を取り出しやすいというニュアンスでトルクが出ていると表現し、高回転域で速度が乗りやすい特性をパワーが出ているというのは、あながち間違っていないわけである。

 

トルク値が同じであっても、それが高回転で発生されるほど高出力なわけで、そうした特性が高回転高出力型である。また、トルクがピークを過ぎても急激に低下せず、パワーがどんどん上乗せされていく特性だと、トルクカーブの下降した領域でパワーを搾り出していくことになり、それを回転馬力型と呼んでいる。

 

600ccのスーパースポーツは回転馬力型のきらいがあるとは言え、CBR600RR(特に輸出用)は、中高速域のトルクの立ち上がり領域で走れる特性。またリッタークラスの中でも、'09年型YZF‐R1は回転馬力型っ気のある特性だ。

 

さて、パワーの強烈さを最も強く感じたマシンは? と聞かれたら、僕は躊躇なく、2002年型モ卜GPマシン、ホンダRC211Vだと答える。高出力なほど高い回転数で高トルクを発揮しているわけで、高速度で高い加速度を発揮。また、加速力は車重が軽いほど高く、車重を最高出力で割ったパワーウエイトレシオが小さいほど、高速域に短時間で達する能力が高いことになる。

 

最高出力220psを超えるとされた211Vは、鈴鹿の裏のストレートで5速に入り車速が300km/hに近づいても、加速力は緩まることなく、上り坂を登り切った辺りでフロントが浮き、そのままバック転しそうな勢いであった。経験したことのない強烈さに、その日は身体の震えが止まらなかったものだ。

 

ところが、同じ211Vでも、990ccマシンの最終型となる'06年型になると、最高出力はさらに高出力化されているのに、驚くほど扱いやすくなっていた。電子制御スロットルの採用も含め、電子制御の進歩によって、パワーカーブもレスポンスもスムーズになり、パワーカーブは各ギヤそれぞれに調教されていたのだ。低段位でトルクが出たところでサオ立ちになって前ヘ進めるわけでなく、必要な性能だけを出すように制御されたのだ。

 

しかも、それぞれの特性は自然。安心してスロットルを全開にでき、コーナーを脱出したら、上限回転数でシフトアップさえしていけば、最高の加速度が発揮され続ける。リッタースポーツを1~2速でフル加速させる加速度が持続し、そのまま300km/hに達する凄さだが、スーパースポーツで普通にサーキット走行できる人なら、誰にでも乗れそうなぐらいの乗りやすさだったのである。現在の技術は、人聞が使いきれなかったはずの高出力も、コントロール下に置くことを可能にしているのだ。

 

RC211Vは、前3/後2のV型5気筒エンジンを搭載し、燃料の積載位置を重心に近づけるためリヤにユニットプロリンクサスを採用した画期的なマシンだ。素のままのパワーをそのまま発揮させ、今から思えば凶暴でもあった

 

ニュージェネレーションはスイングアームが長く、形状も微妙に異なる。マフラーは、前側の左右気筒が集合して右から、前側中央気筒が左(オリジナルは右下)から、後側気筒は左右が集合してシート出しとなる

 

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