【Page5】“魔法のオムスビ”カムがエンジンを変えてきた

掲載日:2010年01月15日 特集記事ザ・パワーチューニング    

記事提供/2009年7月1日発行 月刊ロードライダー 7月号
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Photo & Text/石橋知也

パワーを引き出すための考えと最前線

“魔法のオムスビ”カムがエンジンを変えてきた

1.2.最新技術で作ったZ用中空削り出しカム(2.左)。従来品より1本約400g軽い。エンジン回転数の半分で回る高回転部分だけに効果大
3.JSBレーサーGSX-R1000用カムもSTDの素材カムから研磨 4.ドゥカティ用カムは削り出し。デスモだけに形状も独持


ヨシムラがチューニングカムを作り始めたのは'56、'57年頃だった。POP吉村(秀雄さん)が福岡の雑餉隈でバイク屋を始めたのが'54年だから、創業直後からハイカムを作っていた。ベース円を小さくすれば、バルブのリフト量が増える。そういう発想だった。そして'70年代、CB750FourやZ1のハイカムを発売し、世界に名を知られるようになる。

 

「基本は変わってませんよ。リフト量、作用角、タイミングを、エンジンの性格や目的に合わせて変えていけば、パワーも出るし良いエンジンになる。最新スーパースポーツがベースのスーパーバイクだってパワーが上がりますよ、カムで。STDが完成形ではないし、限界でもない。チューニングしろは、必ずある」

 

そう言う吉村不二雄さん(現ヨシムラジャパン代表)は父POPがカムを手削りするのを見ながら育った。POPは手削りカムの頃から充填効率、吸入抵抗/流速アップなどの理論を元にチューンしていたという。

 

「カムが変わったのは、2バルブから4バルブになった頃。油冷からでしょう。それまでとエンジンの設計がまるで違う。大きさも各部の精度も。材質は昔から鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)で、それはあまり変わらないけれど、後処理が格段に進歩した」

 

最初はSTDに肉盛りしてリグラインドした。ヨシムラはカム研磨機を導入したのも早く、'70年代にはSTDの素材カム(未加工品)を手に入れ、加工し、ハイカムを製作。'99年にはNCカム研磨機を導入。カムの設計も早くからコンピュータに独自のソフトを入れて行っていた。

 

「2バルブはロブセンター(作用角中心)が2、3度ずれても大した問題じゃなかった。でも油冷以降はそうはいかない。もちろんどんなエンジンも精度は高い方がいい。ノリックのお父さんの阿部光雄さんからは、オートレーサーはバルブのオーバーラップを0.5度単位まで調整するって聞きました。シンプルな競技だから、こんな小さな差が勝負を決める。なるほどと思いました。我々のレースも、まだヤレることはある」 

 

不思議なオムスビは、4ス卜にパワーを与える。それは、昔から研究されてきて、もちろんヨシムラも車両メーカーも豊富なデータがある。

 

「モータリングといって、エンジンにカムを入れ、回し、データを取るのが一般的な基礎実験。でも、モータリングは圧縮をかけずに回すから実際とは違う。バルブは圧縮の影響を受ける。オーバーラップ時には閉じようとする排気バルブを圧縮がさらに押す。2バルブはバルブも大きく重く、バルブ挟み角が広い。最新4バルブはチタンで軽く、燃焼室が浅いから2バルブより圧縮の影響を受けやすい。そういうことも合わせてカムを考えないといけない。だからエンジンダイナモにかけて回し、さらに実走しないと分からない。レースで言ったら一番パワーが出て、最後まで壊れなければいい。メーカー等の既存のデータと、我々が考えるチューニングにズレがあることも珍しくない」

 

理論だけではない、優れたチューナーだけが持つ経験と独特のヒラメキが、限界を超えていく。

 

「現在のスーパースポーツはレーサーベースという宿命があって、必ずしも一般路で乗りやすくない。もっと下があってスムーズに走れるカムはできる。上はSTDと同じか、少し下がっても乗って面白いヤツが。個人的には、こういうカムもアリだと思う。現在の技術や経験があればZ1だってGSX-R1000だって、カムでもっともっと楽しいエンジンにできるんですよ」

 

  • 全日本JSBはヨシムラチューンで#39酒井大作を走らせている。他のサテライトチームとは一線を画す独自性と情熱か魅力だ

 

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