【Page2】What is Power? パワーって何だ?!

掲載日:2010年01月15日 特集記事ザ・パワーチューニング    

記事提供/2009年7月1日発行 月刊ロードライダー 7月号


エンジン特性について話すとき、誰もが使うトルクとパワーという言葉。低中回転域で力強いときはトルクフル、高回転域で元気だったらパワフルと表現するって? 確かに外れてはいない。でも、力学的にはっきり意味合いが違うのだ。まず、トルクとパワーを科学してみよう。

 

ここでは、トルクとパワーを理解するため、それらを自分の身体で体感できる自転車で考えてみよう。トルクというのは物体を回転させる“ちから”の大きさを表していて、単位はkg.mだ。力とアームの長さをかけたもので、ペダルを10kgの力で踏み下ろし、ペダルのクランク長が170mmだとしたら、クランク軸トルクは10X0.17=1.7kg.mになる(昨今、トルクはN.mという単位で表されるが、Nは力の単位として日常生活に馴染みがないので、あえてkg.mとする)。

 

そして、クランク側のスプロケットが36Tで後輪側が18Tだとしたら、減速比は0.5(自転車ではクランクよりも後輪を増速するケースが多く、その場合、減速比は1よりも小さくなる)になり、後輪回転数は2倍になる半面、後輪トルクは半分の0.85kg.mとなる。で、タイヤの外径が700mmだったら、後輪駆動力は0.85÷0.35=2.43kgとなり、その力で自転車は前方に押し出されていくことになる。

 

また、変速して、後輪側スプロケを12Tにしたら、減速比は0.333で、後輪トルクは0.566kg.m、駆動力は1.62kgとなる。

逆に言えば、同じ後輪駆動力を得るためには、減速比が大きいほうがペダルを踏む力は軽くて済むことになる。自転車が上り坂に差し掛かって、大きい駆動力が必要になったときも、減速比を大きくしたほうがこなしやすいわけである。

 

まずここで確認しておきたいのは、トルクはバイクを前方に押し出す力の大きさを表していても、そのときクランクを何回転で回しているか、車速が何km/hであるかには関係ないということだ。後輪トルク(後輪駆動力)を大きくするだけなら、減速比を大きくすれば事は済む。でも、それでは車速は遅くなってしまう。自転車で言えば、減速比が大きくなってペダルが軽くなっても、車速を同じに保つには、それだけペダルを速く踏まないといけないわけだ。

 

そこで、ペダルを回す速さをも含めて“ちから”というものを表したのがパワーである。回転力の大きさだけでなく、時間当たりにどれだけ仕事をしたかを考えてやるのだ。自転車のペダルを10kgで踏み、クランク毎秒1回転させるとする。1秒当たりの仕事量は、踏力の大きさ×毎秒のペダルの移動距離だから、10×0.17×2×π=10.68kg.m/sec。75kg.m/secが1psに換算され、そのとき人間は約0.14psを発揮している勘定になる。これを後輪側で考えたとしても、減速比18/36=0.5の状態で、毎秒の仕事量は後輪駆動力×タイヤ外周の移動距離だから、2.43×0.7×π×2=10.68kg.m/sec。つまり、発生馬力に変わりはないのだ。また、後輪駆動力と後輪回転数を同じまま、減速比を12/36=0.333としても、ペダルが重くなった分、回転数は遅くなり、人間が発生している馬力に変わりはない。

 

このことをバイクに当て嵌めると、100km/hの巡航を6速でこなそうが4速でこなそうが、エンジンの発生している馬力に変わりはないことになる。また後輪トルクにも変わりはない。ただ、そのときのクランク軸トルクは、低段位側のほうが小さくなっている。乗り物が何であれ、狙った速度で走らせるには、駆動輪をその速度で回転させるとともに、駆動輪に走行抵抗に見合っただけの駆動力を与え続けないといけない。つまり、パワーが必要になるのだ。

 

さて、先ほどの自転車の場合だが、車速は、計算式は省くが約15km/hである。車速を2倍に高めるには、ペダルを2倍の速さで踏み下げないといけない。当然大きい踏力も必要になる。人間は2倍以上のパワーを発生すべく、仕事をしないといけないわけだ。時間当たりにより多くの熱量を発生せねばならず、その分、酸素量も必要になり、汗をかき、息切れしやすくなるというわけだ。

 

和歌山利宏(わかやまとしひろ):本誌特約ライダー。数々のハイパワーモデルにも試乗、それを乗り方も含めて分かりやすく教えてくれる

おさらいをすると、トルクは軸を回転させる“ちから”の大きさで、そのときの回転数には無関係。そして、パワ一“ちから”の大きさを回転数も含めて考えたものである。だから最高速を高めるには、大きい駆動力を高回転で発生させなくてはならず、結局のところパワーが必要になるというわけだ。当然、トルクが大きければ、パワーも大きくなる。同じ回転数でトルクが2倍になったら、パワーも2倍になる。換算式を紹介すると、トルク値(kg.m)に毎分の回転数をかけて716.2で割ったものがパワー値(ps)となる。先の自転車のクランクに当て嵌めても、1.7kg.mのトルクを60rpmで発生しているから、どっちにしてもパワーは0.14psなのである。実際のエンジンでは、性能力ーブに示される通り、トルクカーブとパワーカーブは違った曲線が描かれる。

 

卜ルクは、燃焼圧がピストンを押し下げる力で決まり、新気が燃焼室に最も濃密に充填され、燃焼圧が最高になる回転数においてトルクがピークを迎える。でも、トルクがピーク回転数を過ぎて下降を始めても、トルクに回転数をかけた値(つまりパワー)は、しばらくは上昇を続けることになる。そんなわけで、パワーピークの発生回転数は、トルクピークよりも高回転側にあるのだ。

 

こちらの記事もおすすめです

この記事に関連するキーワード

車種情報
新着記事

タグで検索