掲載日:2023年12月08日 試乗インプレ・レビュー
取材協力・写真/ロイヤルエンフィールド 取材・文・写真/伊井 覚 走行写真/高島 秀吉
ROYAL ENFIELD HIMALAYAN 450
オリジナルのHIMALAYAN(ヒマラヤ)は、411cc空冷単気筒のエンジンを搭載し、ロイヤルエンフィールド初のアドベンチャーバイクとして2016年に登場した。ロイヤルエンフィールドというメーカーには、どうしてもクラシックなイメージが先行するが、このHIMALAYANもシンプルかつアナログなモデルだった。ところが近年ロイヤルエンフィールドでは、クラシック350やメテオ350といった、古き良きデザインを生かしながらも近代的な装備を搭載した高性能かつ信頼性の高いモデルを多く輩出しており、フルモデルチェンジを遂げたHIMALAYAN 450もその例に漏れなかった。
HIMALAYAN 450のために作られた新型エンジン「シェルパ450」にはロイヤルエンフィールド初採用の機構が満載されている。水冷、DOHC、完全アルミ製のシリンダー、ドライサンプ、DLCコーティングなどだ。ショートストロークながら5,500回転で最大トルク40Nmを発揮し、さらに3,000回転でその90%を引き出すことができるほどトルクフルなエンジンに仕上がっている。
さらにスロットルバルブの開閉を電子制御で行うスロットルバイワイヤを採用。それによってライドモードの選択が可能になっており、「パフォーマンス/ABS ON」「パフォーマンス/ABS OFF」「エコ/ABS ON」「エコ/ABS OFF」の4つのモードが用意されている。
前後サスペンションはSHOWA製で、フロントサスペンションには倒立フォークを採用、ホイールやフレーム、ハンドルバーと合わさって高剛性を実現。オンロードでの安定性に繋がっている。
その名前の由来にもなっているインド北部に広がるヒマラヤ山脈を使ってファイナルテストが行われており、時には標高5,000mを超える過酷なシチュエーションにも耐えうるタフさを備えた正真正銘のアドベンチャーバイクだと言えるだろう。
跨って最初に感じたのが、その足つきの良さだ。スペックではシート高は825mmあるはずなのだが、その数字からは想像もつかないほどシートが低く感じる。聞けばシート高はシートの取り付け方法を変えることで2段階の調整が可能で、純正シートでも845mmまで上げることができるという。オンロード・オフロード問わず、スポーツ走行をするときは高めに、ツーリングするときは低めに設定することでメリハリをつけることができるだろう。
今回は開発テストにも使われたヒマラヤ山脈での試乗ということで、標高2,000〜3,000mの高地を走ったのだが、エンジンはかなり元気よくレスポンシブ。4速4,000回転で60km/h巡航が可能で、低回転・高回転問わずスロットル開度にリニアに反応してくれるのが実に気持ちよかった。また、エンジンの解説通りにトルクが太く、例えばワインディングの途中に現れるちょっとタイトな登りコーナーなどに一つ高いギヤで進入してしまっても、失速せずに立ち上がることができる懐の深さを味わうことができた。それでも標高によってエンジンの最大トルクは約30%ダウンしていると言われたから驚いた。
車体は全体的に少しリア重心に作られているような印象を受けた。そのおかげでオフロード走行ではフロントタイヤの接地感が薄く、路面の凸凹にフロントを取られてヒヤリとするような場面は皆無。フロントタイヤが細いこともあってラインも選びやすく、妙な安心感があった。さらにリアタイヤに重心が乗っているため、タイヤがしっかりグリップを発揮し、トルクを地面に伝えてくれる。一見滑りやすそうな砂や濡れた石でもスリップすることなく走れてしまうのだ。
車重は196kgで、排気量の近いアドベンチャーマシンの中では決して軽い方ではない。しかしエンジン搭載位置が低いため低重心になっており、全体のバランスが良く、低速で走っていても安定感は抜群に良い。
HIMALAYANの開発コンセプトは旧モデルから一貫して変わらず「インドの街でスクーターに乗っているバイク乗りが、ヒマラヤを旅することができるアドベンチャーバイク」だ。どんな初心者も包み込み、それでいて上級者も楽しませてくれる。旧HIMALAYANの乗り味を知っている人も知らない人も、この新型HIMALAYAN 450に乗れば、きっと現在のインドを牽引するロイヤルエンフィールドの技術力の高さを実感することだろう。