掲載日:2023年11月14日 試乗インプレ・レビュー
取材・写真・文/伊井 覚
Surron Ultra Bee
Surron(サーロン)は2017年に中国で誕生した電動オフロードバイクメーカーだ。電動スクーターが当たり前のように街中に溢れている中国で、遊べる電動オフロードバイクを作りたいというのが始まりだった。最初に発売したLight Bee(ライトビー)シリーズが大きな反響を生み、「もう少しパワーのあるモデルを」という思いから、このUltra Bee(ウルトラビー)が登場した。前後19インチタイヤを装着しており成人男性でも窮屈さを感じさせず、まるで普通のフルサイズオフロードバイクと同じ感覚で楽しむことができる。ナンバーを取得して公道を走れるモデルとそうでないモデルがラインナップされているが、基本的に違いは保安部品の有無だけで、車体やバッテリー、モーターなどは共通である。
電動と聞いて誰もが気になるのが、航続距離だろう。Ultra Beeのバッテリーは74V55Ah、メーカーの掲示する最大走行距離は40km/h走行で140kmとなっている。もちろんスピードの出し方によって航続距離は変わってくる。スロットルを開ければ開けるほど電費(燃費に相当するもの)は悪くなるため、快適なツーリングでの現実的な走行可能距離は100kmくらいと想定しておくのが良いだろう。
最高速度は100km/h弱。日本の免許制度に当てはめると250ccに相当するため、一応高速道路にも乗ることができる。つまり、通勤・通学には十分使える。バッテリーの満充電にかかる時間はおよそ4時間30分。ツーリング中の食事休憩で満タンというわけにはいかないが、授業を受けたり仕事をしている間に満タンにすることは可能だ。さらにサーロン社のモデルはどれもバッテリー交換が非常に容易な設計になっており、1分程度で完了できるため、例えば職場などの行き先に予備バッテリーを用意しておけば安心だろう。
Ultra Beeの一番の魅力はその軽さだ。保安部品をつけた公道版で88kg。ライバルとなるエンジン式のCRF250LやKLX230Sなどと比べると50kg近く軽い。公道を走れるエンデューロモデルと比べても、20kg近く軽いのだ。さらに車体が恐ろしくスリムなため、まるでMTBに乗っているような感覚を味わうことができる。操作もスクーターと同じで、シフトチェンジの必要がなく、リアブレーキは左手レバーを使うため、足で何かを操作する必要がない。いよいよMTBと同じだ。
一度でも林道を走ったことがある人なら、軽さが林道においてどれだけアドバンテージになるかはわかるだろう。また、シフトチェンジと右足のリアブレーキ操作が不要となれば、それだけハンドルやステップの操作に集中することができるため、景色を楽しむ余裕が生まれるし、対向車や路面の状態に気を配ることもできる。さらに嬉しいのはエンジン音がしないため、インカムを使わずとも隣を走る仲間と会話を楽しむことができるのだ。
また、サーロンは本格的に遊べる電動オフロードバイクとして開発されているため、シート高は910mmある。これは日本のオフロードバイクの中でもかなり飛び抜けて高いのだが、先述した通り車体がスリムなため、数値ほど足つきの悪さは感じないことはお伝えしておこう。
また、オフロードレース業界でもサーロンは急速に普及してきており、全国規模のエンデューロ選手権やクロスカントリー選手権、ハードエンデューロ選手権にも出場することができる。レースによっては電動バイクだけのクラスを設定していることすらある。さらにすごいのは、エンジン式の本格的なモトクロスマシンやエンデューロマシンと対等に戦える性能を持っていて、それを誰もが容易に引き出すことができるという点だ。例えばコーナー。ブレーキングではシフトダウンの必要がなく、リアブレーキも左手操作のため、余裕を持ったブレーキングが可能だ。次にバイクを寝かせる時には軽さとスリムさが恐怖心を軽減してくれるし、立ち上がりではクラッチ操作やシフトアップが不要なため、ただスロットルを捻るだけでスムースに加速してくれる。エンジン式だとスロットル操作が雑だとリアタイヤがグリップを失って滑ってしまうが、トラクションコントロールを搭載しているためスライドの心配もない。
サスペンションもよく動き、体重76〜80kgくらいの男性がモトクロスコースでジャンプしても底付きすることはなかった。車体の剛性もしっかりしていてハイスピードでもヨレを感じず、初心者でも安心してスピードを出すことができる。
ことオフロード遊びという点において、サーロンは煩わしい部分を全て排除し、楽しさに全振りしているマシンと言える。とにかく体験試乗できる機会があれば絶対に乗ってみてほしい。