掲載日:2023年05月11日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
Royal Enfield Hunter350
ロイヤルエンフィールドはイギリス発祥の2輪メーカーで創業は1901年と長い歴史を誇る。現在は拠点をインドに置き、商用車大手であるアイシャーグループの一員となってグローバルモデルを手がける企業へと成長している。日本国内においてはまだ知名度はそれほど高くはないが、車両のラインナップが充実するにつれて販売数も伸び続け、今とても勢いを感じさせるブランドだ。
今回試乗したハンター350はクラシックロードスポーツと呼ぶにふさわしいスタイルで、発売以来半年で10万台以上売れたという、世界的な大ヒットモデルなのだ。パワーユニットには空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブの349ccエンジンを搭載し、最高出力は14.9kW(20PS)/6,100rpm、最大トルクは27Nm/4,000rpmとなっている。他に同じエンジンを使用したモデルとしてクルーザータイプのメテオ350、トラディショナルタイプのクラシック350というマシンがすでに発売されており、ハンター350を含めて、キャラクターの異なる3種のラインナップが揃ったことになる。
ハンター350の外観は、丸目のハロゲンヘッドライトに美しい曲線を持つティアドロップ形状のフューエルタンク、フロントフォークにはフォークブーツ、ツインショックのリアサス、繊細なフィンを持つ空冷エンジンなど、極めてオーソドックスな「これぞバイク」といったイメージだ。
空冷単気筒のエンジンもそうだが、他のアイテムも極めてシンプル。走りに関しては前後ブレーキにABSを装備しているぐらいで、トラクションコントロールやライディングモードなどの電子制御は一切搭載していない。ユーティリティ面ではメーターに液晶の表示部があるのと、左側ハンドルスイッチボックスにUSBポートを設置してあるぐらいで、とてもあっさりとした作りとなっている。余計なものを搭載しない「引き算の美学」が逆に魅力を増していると感じる。スタイル自体はスタンダードで、構造もシンプル。なのに抜群の存在感とオリジナリティを感じさせるのは、国産車ではまず思いつかないような大胆なグラフィックの効果もあるのかもしれない。果たしてどんな走りを見せてくれるのか、期待を胸に試乗へと臨んだ。
ハンター350の全長は2,100mm、シート高は790mmで重量は181kgとなっている。大型バイクやフルカウルのミドルクラスのマシンに比べると当然ながら小ぶりで、身構えることなく乗れそうだ。押したり引いたりの取り回しも重くないので、体力に自信のないライダーでも心配はいらないだろう。跨ると体勢はほんの少しだけ前傾する程度で、ハンドルバーの高さや幅もちょうどよく、ごく自然なポジションを取ることができる。シートも高くないので走らせる前から安心感があり、気持ちがふわっと軽くなるようなマシンだ。
走りのキャラクターもきっとおとなしいのかな……などと勝手なイメージを抱いていたら、エンジンをかけてまず驚いた。排気音が350ccとは思えないほど元気がよく、迫力のある音色なのだ。音自体は大きいわけではないが、走り出しても歯切れのいい、小気味よいサウンドが追いかけてくる。スロットルのレスポンスもよく一般道ならグイグイと力強い走りを見せてくれるから、混雑した都心の道路でもキビキビと小回りのきいた走りができて、ストレスが少ない。というよりむしろ、泳ぐような走りが逆に楽しかったりする。前後17インチというホイールサイズの効果なのか、クラシカルな外観とは違って、走りのテイストは現代的でかなりスポーティなものだ。
低めのギアで引っ張ってみたり、逆に早めにシフトアップして「シュパパパッ」という鼓動感と音をあえて味わってみたりと、さまざまな走りを試してみるのも面白い。中でも特に40~60km/hぐらいのスピードで流している時が「あぁ、バイクってシンプルでいいんだ、電子制御なんかなくてもこれだけで楽しいんだよなぁ」という気持ちを思い出させてくれて、心が躍るのだ。
高速道路では追い越し加速の時などにもうちょっとパワーがあれば、と感じることがあるし、振動も一般道を走る時よりも多くなる。とはいえ100km/h前後で十分に巡航できるし、シートは肉厚で座り心地もよく、車体の安定感もあるので、少々距離の長いツーリングに出かけてもストレスを感じる場面は少ないはず。ライバルとして思い浮かぶのはスペックも非常に似通ったホンダのGB350だと思うが、ハンター350はGBよりも少し野性的で個性が強めかもしれない。扱いやすくて気軽に乗れるマシンが欲しいけど、他人とはちょっと違うものがいい……ハンター350はそんなライダーにちょうどいい1台と言えそうだ。