【ロイヤルエンフィールド ヒマラヤ 試乗記】 懐かしくて新しい、空冷単気筒アドベンチャーツアラー

掲載日:2020年12月25日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦 写真/伊勢 悟

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ROYAL ENFIELD HIMALAYAN

新時代の並列2気筒の前に生まれた
初めての全面新設計車

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ロイヤルエンフィールドに関して、現時点で多くのライダーが知りたい情報は、新時代の並列2気筒車、INT/コンチネンタルGT650の乗り味だろう。とはいえ当記事で取り上げるのは、2016年に公開され、2018年から日本での販売が始まったヒマラヤ(ヒマラヤンの名称から2020年よりヒマラヤに変更)である。パッと見では既存のバレット/クラシック路線の延長?……と思えるものの、同社の歴史を語るうえで、この単気筒アドベンチャーツアラーは非常に重要なのだ。何と言ってもヒマラヤは、インドに拠点を置く現在のロイヤルエンフィールドが、初めてゼロから手がけたモデルなのだから。

もっとも同社は、2008年に既存のバレット/クラシック系の大幅刷新を行っているし、2013年には後に傘下に収めるイギリスのハリスパフォーマンスがシャシーを設計した、単気筒カフェレーサーのコンチネンタルGT535を発売している。ただしそれらが、1950年代に設計したエンジンの基本を踏襲していたのに対して、ヒマラヤの411cc空冷単気筒は全面新設計で、シャシーにも既存のバレット/クラシック系との共通点は皆無。言ってみればロイヤルエンフィールドは、INT/コンチネンタルGTを開発する前に、新しいステップに進んでいたのだ。

ロイヤルエンフィールド ヒマラヤ 特徴

冒険ラリーで培ったノウハウで
既存のモデルとは異なる特性を構築

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ヒマラヤが搭載する411cc空冷単気筒は、同社初のOHC2バルブヘッドやローラーロッカーアーム、1軸バランサーを採用している。ただし、最高出力:24.3bhp(24.6ps)/6500rpm、ボア×ストローク:78×86mmという数値は、なかなか牧歌的にして旧車的。もっとも今の時代なら、全面新設計でありつつも、安易に現代の潮流に乗らない同社の姿勢に、好感を持つ人は少なくないだろう。ちなみに、市場でライバルになりそうな車両の数値は、KTM 390アドベンチャー:44ps/9000rpm・89×60mm、BMW G310GS:34ps・80×62.1mm、ヤマハSR400:24ps/6500rpm・87×67.2mmである。

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一方のシャシーに目を移すと、こちらもすべてが新規開発。ハリスパフォーマンスが設計したスチールフレームは、ダウンチューブを分割式としたセミダブルクレードルタイプで、足まわりにはF:21/R:17インチのスポークホイールやリーディングアクスル式φ41mm正立フォーク、リンク式リアショック(ホイールトラベルはF:200/R:180mm)など、悪路走破性を念頭に置いた装備を採用。もっともヒマラヤは、ロイヤルエンフィールドにとって初のアドベンチャーツアラーだから、運動性能に期待を抱かない人がいるかもしれないが……。

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2003年以降の同社は、インドのニューデリーを起点とし、約半月をかけてバレット/クラシック系でヒマラヤ山脈を走破する(ルートには標高が5600m以上の超高地が含まれる)、ヒマラヤン・オデッセイという過酷な冒険ラリーイベントを開催しているのだ。おそらくこのモデルには、そこで培ったノウハウが活かされているのだろう。

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ロイヤルエンフィールド ヒマラヤ 試乗インプレッション

穏やかで優しい乗り味と
必定にして十分以上の悪路走破性

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普段はあまり公言しないものの、実は僕は昨今のアドベンチャーツアラーのハイパワー&電脳化路線に対して、そこはかとない疑問を抱いている。と言っても、技術の進化を否定するつもりは毛頭ないし、驚異的な快適性と悪路走破性にはいつも感心させられるのだが、普段の自分のツーリングを考えると、ここまで至れり尽くせりでなくても……と感じることが少なくない。その一方で最近は、BMW R80G/Sや100GS、ヤマハXT600、ホンダXL500Rなど、黎明期のアドベンチャーツアラーに思いを馳せる機会が増えているのだが、そんな僕にとって、ヒマラヤはかなりグッと来る特性だった。

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などと書くと、“やっぱり旧車っぽいのかよ!”というツッコミが入りそうだが、既存のバレット/クラシック系と比較するなら、ヒマラヤは相当に現代寄りである。バランサーの効果で高回転域の振動は程よく抑えられているし、その気になれば100km/h+αの巡航ができるし(公称最高速度は128km/h)、豊富なサスストロークのおかげで乗り心地は至って快適。また、既存のバレット/クラシック系がある種の慣れを必要としたのに対して、ヒマラヤは現行車しか経験がないライダーでも、最初からごく普通に走らせることができるだろう。

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そう考えるとヒマラヤは、ロイヤルエンフィールド製単気筒車のモダイナズを、イッキに推し進めたモデルなのだ。では肝心の悪路走破性はどうかと言うと、個人的には予想をはるかに上回る出来栄えで、少なくとも前述した黎明期のアドベンチャーツアラーは凌駕していると思う。中でも印象的だったのは、フロント21インチとリンク式リアショック、ロングストロークの前後サスなどを、きっちりモノにしていることで、同社にとって初の機構であるにもかかわらず、違和感はまったくなかった。

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もっとも絶対的な悪路走破性は、日欧の最新アドベンチャーツアラー勢には及ばないだろう。例えば、無造作なジャンプをするとそれ相応の衝撃が身体に入るし、乗り手によってはスロットルレスポンスに物足りなさを感じるかもしれない。でも僕はヒマラヤの悪路走破性に、必要にして十分以上という印象を抱いたのだ。と言うのも、普段の自分のツーリングに当てはめて考えれば、このバイクは一般的なフラットダートを余裕でこなせるし、景色を眺めながらまったり走行をすると、最新アドベンチャーツアラー勢とは一線を画する、極低回転域の粘りを披露してくれる。そういった感触は、ちょっとヤマハ・セローに似ているけれど、エンジンの鼓動感やロングランでの快適性という面では、ヒマラヤが上だと思う。

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試乗後に輸入元のウェブサイトを見てビックリしたのは、ヤマハSR400より少々高いものの、KTM 390アドベンチャーやBMW G310GSを大幅に下回る、62万5000円という価格である。僕のように、昨今のアドベンチャーツアラーに何らかの疑問を抱いているライダー、そして近年になって中古車相場が高騰している、黎明期のアドベンチャーツアラーに興味を抱いているライダーにとって、この価格は歓迎するべき要素になるに違いない。

ロイヤルエンフィールド ヒマラヤ 詳細写真

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ヘッドライトはオーソドックスなハロゲンバルブ。スクリーンは高速巡航で程よい防風性能を発揮してくれるものの、このパーツとスチールパイプ製タンクガードを撤去すれば、車両全体のイメージはもっと軽快になりそう。

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3種のアナログメーターと2つの液晶画面を組み合わせた計器の構成は、現在の基準で考えるとかなり斬新。速度計下の液晶画面には気温やギア段数、時計などを表示。右下はコンパスで、矢印が北、英字が進行方向を示している。

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ガソリンタンク容量は15Lで、キャップはエアプレーンタイプ。燃費については、海外では40km/L以上という説があるようだが、日本人のリポートでは30km/L前後が多く、その数値から算出する無給油での最大航続距離は450km。

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フラットな座面を確保したシートの座り心地はなかなか良好。800mmのシート高はスズキVストローム250と同じで、KTM 390アドベンチャーより55mm、BMW G310GSより35mm低い。

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テールランプはLED。片側2ヶ所ずつの荷かけフックを備えるリアキャリアは、タンデムライダー用グラブバーとしての機能も備えている。シートレザーはスウェード調。

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既存のバレット/クラシック系と比較すると、ヒマラヤのクランクケースはコンパクト。シリンダー+シリンダーヘッドの冷却は昔ながらの空冷だが、気化器は電子制御式インジェクションで、始動方式はセルのみ。

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ダウンチューブ左側には、冷却性能を促進するオイルクーラーを装備。ちなみに、純正指定オイルは半化学合成の15W-50。

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エンジン下部にはアンダーガードを設置。なおインド本国では純正アクセサリーパーツとして、パイプ製エンジンガードやツーリングシート、アルミ製パニアケース+ステーなどが販売されている。

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既存のバレット/クラシック系や並列2気筒のINT/コンチネンタルGTでは、昔ながらのマフラーを採用しているロイヤルエンフィールドだが、ヒマラヤは現代的なデザインを選択。

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フロントフェンダーはアップとダウンの2段構え。F:90/90-21、R:120/90-17のブロックパターンタイヤは、ピレリにとってはオンオフ兼用という位置づけになるMT60。フロントフォークはφ41mm正立式。

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ブレーキは、F:φ300mmディスク+片押し式2ピストン、R:φ240mmディスク+片押し式1ピストンで(キャリパー+マスターはバイブレ)、リアのABSは解除することが可能。リアサスはボトムリンク式モノショック。

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