掲載日:2023年10月06日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/伊井 覚 写真/伊澤 侑花
SUZUKI V-STROM 250SX
Vストローム250SXはロードスポーツモデルのジクサー250をベースに開発されたアドベンチャーモデルだ。そう聞くと見た目だけアドベンチャーのツーリングモデルのように捉えられがちだが、乗ってみれば一発でわかる。Vストローム250SXはほとんどオフロードモデルと言ってもいい、ちゃんとダートが走れるアドベンチャーバイクに仕上がっていた。フロントタイヤに19インチを採用していたり、オフロード寄りのタイヤを履いているだけでなく、ライディングポジションや車体設計が完全にアドベンチャーバイクになっているのだ。なお、SXは「スポーツクロスオーバー」を意味しており、オフロード性能だけでなくジクサー250の持つオンロードでのスポーツ性能も併せ持っていることから名付けられているという。
まずエンジンから触れていこう。従来のVストロームシリーズに採用されてきたのは2気筒エンジンなのに対し、ジクサー250でデビューしたスズキの新油冷システムSOCS(スズキ・オイル・クーリング・システム)を採用した単気筒SOHCエンジンを搭載している。ボア×ストロークは76.0×54.9mmのショートストローク。単気筒ながら高回転までしっかり回るエンジン特性となっている。SOHCとすることでエンジンの小型軽量化を実現し、カムシャフトの削減などによるフリクションロスの低減、さらにエアクリーナーインテークカバーを省略することで吸入空気量を増やしている。
フレームもベースはジクサー250としているものの、シートレールを延長した専用設計とし、リアキャリアへの大容量の積載にも対応。さらにスイングアームを延長し、フロントのアクスルシャフトをフロントフォークから30mm前方にシフトすることでホイールベースを長くし、未舗装路での安定感を増している。
数値で比較するとジクサー250が1,345mmなのに対し、Vストローム250SXは1,440mmと、約100mmも長くなっている。また、フットペグはバーとブラケットをアルミから鉄に変更し、強度を向上している。
Vストローム250が191kgなのに対してVストローム250SXは164kg。車体に跨ってみると、その違いは歴然だ。車体もスリムで、ハンドルバーもオフロードバイク然とした絞りが少ない形状で、スタンディングポジションが取りやすい。さらに加速感がVストローム250とはまるで異なっており、6,000回転から上の上昇の仕方が、驚くほどスムーズで、簡単に10,000回転まで回すことができる。これはジクサー250に試乗した時にも感じたことだが、全回転域でしっかりとした加速を感じられる実に楽しいエンジンに仕上がっている。
フロントサスペンションが正立フォークということもあり、ハイスピード走行時にフレーム含めヨレが生じることを懸念したのだが、ジクサー250のフレームをベースにしているため、剛性は十分で、舗装路での走行でもロードスポーツモデル並みの快適さを感じることができた。
試乗では未舗装路も走行することができた。まず気になっていたのがタイヤ。純正で採用されているのはマキシスのブロックタイヤだが、ブロックハイトは高くなく、どちらかというと舗装路を考慮したものだ。しかし、試乗した未舗装路には大小の石がゴロゴロした登りや降りもあったのだが、空転することなくしっかりとグリップしてくれたのには驚いた。なんと、スズキの開発陣は「走れない未舗装路があってはいけない」というポリシーの元、サンドコースでもテストをしてタイヤを選び、セッティングを行なったのだという。
タイトなコーナーや下り坂などではリアのABSがかなり積極的に働き、タイヤの横滑りを防いでくれたし、波状路のような凸凹道でもサスペンションが底付きすることなく、走ることができた。これならば、一般的な林道で遭遇する未舗装路で不足を感じることはないだろう。
先にリリースされた兄貴分のVストローム800DEと同様に、舗装路での走行はロードスポーツモデル並みの快適性を持っており、それでいて未舗装路での走破性も高い。まさに走る道を選ばないアドベンチャーモデルと呼ぶのに相応しい一台に仕上がっていると言える。