掲載日:2022年10月03日 試乗インプレ・レビュー
車両協力/2輪の店よしい 取材・文・写真/伊井 覚
SYM NH T 200
比較的近いモデルはいくつかある。しかし、このNH T 200、乗ってみると、そのどれとも違うなんとも言えない面白さがあるのだ。一番声を大にして言いたいのは、その軽さだ。装備重量は約150kgとの発表で、一般的なオフロードタイプの250ccよりも重いはずなのだが、ハンドルを持って車体を起こした時から明らかにセローよりも軽い印象を受けた。そしてアドベンチャーモデルとは思えないコンパクトさが相まって、驚くほど気楽に跨がれるマシンになっている。そしてそれはエンジンを切って取り回す時でも同様に大きなメリットになっていた。
軽さの次はエンジンについて触れていこう。エンジンは183cc水冷単気筒4ストロークで、ボアストロークは63.5mm×57.8mmなので、ちょっとショートストローク気味。つまりどちらかと言えば高回転寄りのエンジン特性なワケだが、実際に乗ってみるとまた少し数値とは違った印象を受けた。
確かに低回転のトルクはあるとは言えない。とはいえ今時のバイクなので、スタートでエンストしてしまったりすることもなく、2速発進だって全く問題はない。そして回転を上げていくと4000回転前後だろうか。トトトト……と小気味良いエンジン音が実に気持ちよく、トルクもしっかり出ているのがわかる。そこから6000回転くらいまでの実用域が、実に面白い印象を受けた。
また、125cc以上なので高速道路に乗れるのだが、6速5000〜6000回転くらいで100km/hに達し、気持ちよく巡航が可能だ。似たような条件のモデルでは高速道路で100km/hを超えるとフロントタイヤがガクガクと揺れ出す現象が起きるものがあったが、果たしてNH T 200はというと、全く問題なかった。東名高速の120km/h制限区間で120kmまで出しても車体はしっかり安定しているし、風もそこまで気にならない。回転数は7000回転ほどで、まだまだ余裕がある。
サスペンションはフロントに正立フォークを採用していて、正直に言ってこれはコストダウンを意識してのことだと思うのだが、逆にフロントタイヤの接地感覚がしっかりハンドルを握る両手に伝わってくる。ハンドルバーの太さも一般的な22.2mmのものだったので、外車のアドベンチャーモデルなどに採用されているファットバーに慣れてしまっている僕などは、正立フォーク+ノーマルハンドルバーという組み合わせに若干の剛性不足を感じるかと思ったのだが、特にデメリットを感じられずにかえって困惑してしまった。
次にシート。少し幅があって、スタンディングすると太ももでしっかりニーグリップできる。シートのサイド部分は硬め。上部は柔らかめで、おかげで座っていてお尻が痛くなるようなことはないのだが、コーナリングしている時にお尻でトラクションを感じていると少しぼやけた印象を受けることがあり、若干硬めのリアショックとともに、リア周りは少しインフォメーションの少なさを感じたのだが、スポーツバイクのように深くバンクさせるわけでもなく、モトクロスバイクのようにリアタイヤを滑らせるわけでもないので、これも問題はない。
それとブレーキはCBS(前後連動ブレーキ)を採用している。これは後輪ブレーキだけをかけた時に前輪ブレーキも自動的に介入し、前後のバランスを取ってくれるという機能だが、車種によっては大きな違和感を感じることがあるこのCBSなのに、僕は乗っていてもこの機能に気づかず、後で調べて驚いたくらいだ。つまり、それほど違和感がないのである。
そんなわけで細かい気になる点はあるものの、僕はこの200ccのアドベンチャーをすっかり気に入ってしまった。最初にも書いた通り、一番はやはり軽さだ。圧倒的に、ストレスを感じずに乗ることができて、大袈裟に言うと最近流行りの電動モデルに近い印象すら受けた。エンジンも実に素直でクセがなく、燃費も40km/L以上出る。11Lタンクを搭載しているため、航続距離はクラス随一と言えるだろう。価格はなんと39万9300円(税込)。バイクがことごとく高騰しているこの時代に、実にありがたい。「台湾メーカーだから」というだけで敬遠してしまうのはあまりにももったいないというものだろう。