掲載日:2022年11月09日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚
GASGAS ES700
GASGASは1980年代にスペインで誕生したメーカーで、FIMトライアル世界選手権でチャンピオンを獲っていた時代が長かったことからトライアルのイメージが強い人も多いだろう。そんなGASGASだが、実は日本のエンデューロレースでもチャンピオンを獲っていた時代があり、2005〜2007年にJNCC、2008年にJECで年間チャンピオンに輝いている。ライダーはレジェンド石井正美氏と澤木千敏氏だった。そして2019年、GASGASはKTMグループの一員になり、2022年にはなんとダカールラリーで初優勝まで果たしているのだ。
このマシンの一番面白いところは、フューエルタンクだろう。通常のバイクであれば、シートとハンドルの間に置かれるタンクを、思い切ってシートの後ろに配置している。この構造によって、オフロードバイクに重要なフロント周りの重量を驚くほど軽減することに成功している。自然とリア荷重気味になるため、障害物を乗り越えやすい。林道を走っていると道にたくさん落ちている木の枝や小石はもちろん、途中で道を塞ぐように横たわっている倒木ですらも、フロントタイヤは易々と超えていくだろう。
またもう一つの恩恵としてシュラウドがとてもスリムで、シートに跨っているライダー目線だと、まるで250ccのトレールモデルに乗っているような錯覚に陥る。コーナリングなどで足を出す際に足がタンクに阻害されて横に膨らむことがなく、シュラウドに添わせて前方に出すことが可能だ。倒れ込むバイクをしっかり抑え、バンク角を維持することができる。
つまりこのリアフューエルタンクはただ珍しいデザインというだけでなく、オフロードの走破力を意識した上でしっかりと理にかなった構造になっているのだ。
エンジンはかなりパワフルだ。692.7ccという排気量だけ見るとさほど大きく思えないが、最大出力74PS/8000rpm、最高トルク73.5Nm/6500rpmと乾燥重量146kgという車体の軽さを両立しているのは、もはや凶暴と言っても過言ではない。それでは街乗りなどで乗りにくいのではないか、と思われるかもしれないが、そのために電子制御で走行モードを切り替えることができるようになっている。
走行モード1は「STREET」、つまりストップ&ゴーが多い街乗りでもパワーを持て余さないようにスロットルレスポンスがマイルドに設定されている。街中を抜けて高速道路や峠に入ったら走行モード2「SPORT」に切り替えるとスロットル操作にダイレクトに反応するエンジンを思い切り楽しむことができるだろう。さらにいえばこの走行モード1「STREET」は雨で濡れたアスファルトや土など、滑りやすい路面でも効果を発揮してくれそうだ。なお、トラクションコントロールとABSも走行モードによってその特性を変え、トラクションコントロールはカットすることも可能になっている。
また、アップ/ダウン両方向へのクイックシフターが搭載されている。ある程度オートバイに慣れたライダーならばクラッチレバーの操作は既にクセになってしまい無意識に行うことができるため、クイックシフター自体にはさほど魅力を感じないかもしれない。しかし実はシフトダウン時にエンジンの回転数を気にしなくてもエンジンブレーキが非常にスムーズになるというメリットがある。これはツーリング時の疲労軽減に繋がることだろう。
そして前後WP XPLORサスペンションである。世界中で活躍するGASGASのレースモデルに搭載されているサスペンションと同等のものが使われていて、オフロード走行時には非常に高い安定感を提供してくれる。試乗でも実際にオフロードに入って、少し大きな根っこを超えるようなアクションをしてみたが、フロントサスペンションは全く破綻しなかった。さらに少しラインを外して斜めに根っこに進入してしまってもフロント/リアともに大きく暴れることなく、吸収してくれたことには驚いた。
このモデルはアドベンチャーよりももっと自由にオフロードを駆け巡りたいというライダーに向けられた、究極の冒険バイクなのではないだろうか。