掲載日:2023年03月03日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚
Benelli TNT125
イタリアの老舗モーターサイクルメーカー、ベネリ。日本では2021年に愛知県を拠点とするパーツ販売店プロトが輸入代理店として販売を再開させ、注目を集めている。現在日本国内では125ccから400ccまで計6モデルをラインナップしており、僕はその中の3モデルに試乗しているが、このTNT125は「楽しい」という意味では一番高評価だった。「TNT」は「トルネード・ネイキッド」の意味らしく、スポーツモデルであることが窺えるが、125cc油冷単気筒エンジンはお世辞にもパワフルとは言い難い。それでも乗っていてとにかく楽しいのは圧倒的な車体の良さと軽さに秘密があった。
はじめにエンジンについて触れていきたい。油冷4ストローク単気筒125cc、SOHC4バルブ。最高出力は8.2kw/9500rpm、最大トルクは10.0Nm/7000rpm。パワーは排気量なり、いや、平均よりは少しだけ上だろうか。ボア×ストロークは54.0×54.5mm、圧縮比は9.8:1、ほぼスクエアストロークで、スロットル開度に合わせてとてもスムーズにエンジン回転数も上昇していく。いわゆる「トルクの谷」のような息をつくタイミングもなく、高回転まで気持ちよく回る。加えて車両重量124kgという軽さのため、グイグイとマシンが加速していくのが最高に気持ちいい。
さらにこれは兄弟モデルのTNT 249Sにも言えたことなのだが、トレリスフレームを中心に構成されたシャシーがとにかく高剛性で、どんなスポーティな動きも柔軟に受け止めてくれる安心感がある。ワインディングの道幅を広く使ってリーンウィズでバイクを寝かせて曲がるのも楽しいし、タイトなコーナーでリーンアウト気味にバイクだけ寝かせて小回りするのも容易で、都市部の街中から峠道のワインディングまで実にマッチした運動性能を持っていると言えるだろう。
125ccのネイキッドモデルといえば連想する現行モデルはKTMの125DUKE、ハスクバーナ・スヴァルトピレン125、ホンダCB125R、カワサキZ125あたりだろうか。その中でTNT125に一番近いのはZ125だろう。理由はどちらも前後12インチのタイヤを装備している点だ(125DUKE、スヴァルトピレン125、CB125Rは前後17インチで、250ccクラスとほぼ変わらないサイズ感となっている)。
ところがZ125は跨るとかなりコンパクトで、小柄なライダーなどにはそれが嬉しいモデルなのだが、身長173cmの僕のような成人男性には少しだけ窮屈な印象があった。比べてTNT125にはそれがなかったのだ。
実際、僕は走り始めて一つ目の交差点を曲がるときに、あまりにタイヤがスパンと切れ込んでいくことに驚き「そうだ前後12インチタイヤだった」と思い出したくらいだ。足は燃料タンクとステップの間にジャストフィットし、ニーグリップも思いのままにできたし、軽量なため寝かせた時も不安感がない。これでジムカーナとかやってみたい衝動に駆られる。
なお、車体に関しては「少し硬め」だ。兄貴分のTNT 249S然り、ベネリのモデルはとにかく車体の剛性が高い。オーバースペックと言うと言い過ぎだろうが、トレリスフレームだけでなく、ハンドルバー、サスペンションなど総じて125ccクラスとは思えない剛性を出している。フロントサスペンションだけは腕で押してみると、かなり沈み込み、少しだけ不安を覚えたのだが、実際に乗ってみるとフロントブレーキをしっかりかけても沈みすぎず、実に適度な動きをしてくれた。硬い車体というのはロングツーリングでは少し疲れやすかったりデメリットもあるが、125ccで想定される近〜中距離のツーリングやワインディングなどでは走りをしっかり支えてくれ、気持ちに余裕を与えてくれる。
125ccなのでスピードも出過ぎず、ガラガラの田舎道で気持ちよく加速を積み重ねてシフトアップしていくと、すぐにトップギヤに入ってしまう。それでも一番のライバルモデルであろうZ125が4速までなのに対し、TNT 125は5速まであるので、その点はとてもありがたかった。通勤・通学から高速道路を使わないツーリングまでカバーする、入門ライダーのメインマシンとしてもベテランライダーのサブマシンとしてかなり優秀なモデルと言えるのではないだろうか。
4つのLEDライトが内蔵されたヘッドライトは実にユニークなデザイン。メカメカしさが油冷エンジンやトレリスフレームとよくマッチしていて、全体的なバランスも良い。
ディスプレイは最近では珍しく、タコメーターのみアナログ式。速度、燃料残量、時刻、走行距離がデジタル表示の、シンプルなもの。左右非対称のデザインは兄弟モデルにも共通しているベネリのこだわりだ。
ハンドルバーはクランプ部分だけ太くなっているテーパー形状で、剛性が高く、入力をダイレクトに伝えてくれる。しなりも少なくなるため、疲労軽減にも繋がる。
エンジンは油冷4ストローク単気筒の125cc。最高出力は8.2kw/9500rpm、最大トルク10.0Nm/7000rpm。ボア×ストロークは54.0×54.5mmでほぼスクエアストローク。スロットルとエンジンがしっかり連動していて、初めて乗っても思いのままに操れるのが嬉しい。
兄弟分のTNT 249Sと同じ形状のトレリスフレームは高剛性で、どんなスポーティな走りもしっかりと受け止めてくれる。車体カラーは4色で赤・白・黒はレッドフレーム、緑だけがグリーンフレームとなっている。
燃料タンクは7.2Lとコンパクト。大排気量のネイキッドモデルにとっては大きく張り出したタンクも魅力の一つだが、この小さいタンクによる軽量化の恩恵は大きい。
ステップの位置はスタンダードより気持ち前だが、違和感はない。ペダルの高さは少し低めでスポーティなフォームにも対応するし、窮屈さの解消にも一役買っていると感じた。
サイレンサーのデザインは特徴的で目を引く。単気筒なのでエキパイは一本だが、途中で2叉に分かれており、2本の排気口はどちらからも排気していた。音は125ccなりに軽快で単気筒らしい小気味よいサウンドを奏でる。
リアショックは正立モノサスでリンクレス。沈みすぎず、しっかり踏ん張るイメージで、高速走行時でも安定感は抜群。
シートはフラットでライディングポジションが自由になるのが嬉しい。リア周りは驚くほどスリム。二人乗り用にタンデムベルトがついている。
ライセンスプレートホルダーはスイングアーム後端に装着されている。これにより、リアフェンダー周りは実にスッキリしていて、フェンダーレス化せずともスタイリッシュな外観に仕上がっている。
前後タイヤは12インチで切り返しは恐ろしいほどの切れ味を発揮する。ブレーキディスクはフロント210mm、リア190mm。エンジン性能に対して十分なスペックを備えている。
ナンバープレートがスイングアーム直結、ウィンカーも埋め込み式のため、実にスッキリとしたリアフェンダー下。リアタイヤの巻き上げる砂などが付着して汚れやすい部分だが、洗車も簡単そうだ。
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