掲載日:2023年03月06日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚
Royal Alloy GP125
ロイヤルアロイはイギリスの新興スクーターブランドだ。イギリスでは1950年代後半から1960年代中頃にかけて音楽やファッションを中心としたユース・カルチャー「モッズ(MODS)」が大流行し、同時にランブレッタやベスパといったモノコック構造・鉄フレームのイタリア製スクーターの一大ブームが巻き起こった。ロイヤルアロイはまさにそのモッズブーム時代のランブレッタをリスペクトしており、可能な限り当時のままの姿で現代に甦らせたブランドなのだ。今回試乗したGP125にも、現在のスクーターでは感じることのできないクラシック・スクーターの魅力が詰まっていた。
現在、日本輸入代理店となるモータリストでは、125ccモデルの直線的かつスポーティなデザインのGPシリーズと、流線型でクラシカルなデザインのTGシリーズ、空冷エンジンを搭載したGP125/TG125と水冷エンジンを搭載したGP125S/TG125Sの4車種を販売している。
今回試乗したのは空冷エンジンのGP125だったわけだが、スペックを見比べてみると水冷エンジンの10.5kw/9,500rpmという最高出力に対し、空冷エンジンは7.2kw/7,500rpmと低くなっている。しかし、車両重量は空冷が130kgであるのに対し水冷は148kgと、空冷に分があるため、パワー感の違いは一概には言い難い。また、ボア×ストロークは空冷が52.4×57.8mmと低回転型であるのに対し、水冷は58.0×47.0mmと高回転を重視したキャラクターの違いが見えてくる。さらに最低地上高も空冷330mmに対し水冷160mmと大きな違いがあることも付け加えておく。
まずエンジンパワーについて補足したい。先ほど空冷の方が非力であると書いたが、はっきり言って、僕が今まで試乗した125ccスクーターの中では一番スピードを出しやすかった。「パワーがあった」ではなく敢えて「スピードが出しやすかった」と書いたのは、こういう理由だ。
国産の最新125ccスクーターに比べればパワーは同程度なのに重量はあるので、開けはじめのスピードの乗りはどうしたって遅く感じる。とはいえスポーツスクーターではないので、そこは気にならない。秀逸なのは走り出して、ある程度速度が乗ってきた時だ。125ccクラスなので高速道路は乗れないが、スペック的には何も問題なく走れてしまうのではないかと思える。その理由は鉄フレームによる高い剛性が生み出す高速走行時の安定感だろう。正直、実際に乗るまではこんなに違うものだとは思わなかった。僕は国産メーカーだけでなくベスパやランブレッタの最新モデルにも試乗したことがあるが、こんなにも安定感のあるスクーターはちょっと覚えがない。さらに言うとこの安定感は低速走行時も同様で、信号待ちで一度完全に止まったものの、数秒後にまたすぐ再発進するようなタイミングの時は、足をつかずに静止していられるほどだった。
では重さがデメリットになっているかと言われると、走り出してしまえば特に気にならない。非力な女性だと、取り回しの時やセンタースタンドをかけるときに少し注意が必要かもしれないが、130kgならば許容範囲だろう。ただシートは少し高めに設計されているので、身長173cmの僕でも両足を下ろすとつま先しか接地せず、停車する時はお尻を少しずらして片足をべったり着く方法を取っていた。
心配だったのは鉄フレームの硬さによる衝撃や振動だったのだが、これも驚くほど少なかった。前後サスペンションの減衰がとてもしっかり効いていて、ちょっとくらいの段差やアスファルトの凸凹のショックは吸収してくれるため、体に衝撃はほとんど伝わってこない。さらにシートも優秀だ。シート下収納がないのは残念だが、その分厚みを持たせてあるのか、お尻をしっかり包み込んでくれる感覚があり、3時間ほどの試乗を終えても痛みや疲労は感じなかった。また、クラシックらしい樽型のグリップは柔らかく、手に伝わる振動をしっかり吸収してくれていると感じた。
最後にお伝えしたいのは、ロイヤルアロイ一番の魅力はその美しいデザインと仕上がりだ。試乗中にコンビニに立ち寄ったのだが、買い物を終えて何気なく店を出て、ふと目にしたその姿に思わず感動してしまった。細かく見ていくほどにディティールの作り込みが美しく、ロイヤルアロイのこだわりが感じられる。さらに単色で17色、2トーンで5色の合計22色ものカラーラインナップがあるという。この所有満足度は、ちょっと他のスクーターでは得られないものではないだろうか。実際に60-70年代のランブレッタを3Dスキャンすることで成形したというボディを持つロイヤルアロイは、半世紀の時を経て現代に蘇った本物のクラシック・スクーターと言えるのかもしれない。