掲載日:2022年10月13日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐賀山 敏行 写真/渡辺 昌彦
HONDA DAX125
ここ数年、ホンダの原付二種のラインナップが賑わっている。
モンキー125からはじまり、スーパーカブC125、空前の大ヒットとなったCT125・ハンターカブと続き、ダックス125である。みごとなリバイバル路線。いや、リバイバルだけではなく、クロスカブ110やグロム、PCX、CB125Rの人気も高い。とにかくホンダの原付二種が盛り上がっているのだ。
そんななかでのダックス125の登場は、同クラスにおけるホンダの人気にダメ押しを与えたといえる。その素晴らしい出来栄えを掘り下げていきたい。
長らく出るのではないかと噂されつつ、ベールに包まれた真相が明らかになったのが今年の大阪モーターサイクルショー直前の3月24日。
発表されたダックス125は、どこからどう見ても、あの往年のスタイルそのまま。特に取材陣を驚かせたのは、新設計のT字型プレス鋼板フレームである。
じつは発表前に飛び交った噂のひとつに「パイプフレームにカバーを被せて、それっぽく見せる」なんてものがあったのだが、実際に登場したダックス125は、かつてのダックスシリーズ同様のフレームを採用していたのだ。
少し乱暴な言い方をすれば、このフレームさえあれば、誰がなんと言おうとこのモデルはダックスである! こういうリバイバルシリーズに対しては、「昔のモデルは……」や「●●というものは……」なんて、少なからず否定的な声が聞こえてくるものだが、ダックス125はT字型プレス鋼板フレームに横型単気筒エンジンを搭載しているのだ。これをダックスと言わずして、何をダックスを言うのか!
……と、いささか興奮気味に書いてきたが、それくらいの衝撃度を持ってダックス125は(少なくとも僕の前には)現れたのである。
で、このフレームをよくよくみてみると、メーカーの素晴らしい努力が見えてくる。
現行モデルでは燃料タンクやECU、燃料ポンプなど、昔のモデルに比べるとそのパーツ点数は比べるべくもない。そして、センサーなどの増加に比例して、配線類も多くなってしまう。
ダックス125ではそれらのパーツをみごとにフレーム内に収め、配線はメインフレーム下に凹みを作ることで見た目のスッキリ感を実現している。そう、T字型プレス鋼板フレームとひとくちに言っても、当然ながらかつてのダックスシリーズの焼き直しではなく、現代に合わせたもの。となれば、走りの方はどうなのかと、期待が高まる。
しかしエンジンを始動させる前に、もう少し各部を見ていきたい。
そのエンジンだが、こちらはスーパーカブC125などに採用されている123cc新型ロングストロークエンジン(内径50.0mm×行程63.1mm)。自動遠心クラッチを採用しているので、クラッチ操作は不要。トランスミッションは4速だ。
前後ホイールはグロムやモンキーと同じ前後12インチである。
スーパーカブC125のエンジン周りにグロム、モンキーと同じ足周り……この組み合わせがどういった走りを生み出すのかも非常に興味深いところである。
期待に胸を膨らませて、試乗してみることにした。
またがって、エンジンを始動する。小気味良い振動が心地よいが、ハンドルは高めのため、意外と振れる。
それでいて、ハンドルを握ると微妙に低く感じた。ダックス125のほんわかしたイメージからすると、もう少しハンドルが高くても良さそうに感じたのだが、そんな感想は走り出すとともに消えてしまった。
新型ロングストロークエンジンは低速トルクが十分で、それでいて4速ミッションは回しても楽しい味付け。ただし頭打ちはC125に比べると早く感じた。実際に最高出力の発生回転数はC125の7500rpmに対し、ダックス125は7000rpmである。
ともあれ、エンジン回転を引っ張っていってギアチェンジをしても、そもそもが最高出力9.4PSのバイクである。そのパフォーマンスは十分に手の内にあり、コントロールしている感覚が楽しい。
そして、そんなコントロール感を増幅させてくれるのが、前後12インチホイールである。
小径ホイールは軽快で、ワインディングを自在に曲がる。ここで「もう少し高くても良かったのでは?」と思ったハンドルバーの高さが完全にしっくりきたのだ。
ダックス125の開発コンセプトは「家族に一員として愛され、すれ違う人までも笑顔にするハッピーな一匹」……だから当然ながら、目を三角にして曲がるコーナリングマシンなんかではない。でも、この絶妙なほんの少しの前傾と、小径12ホイールの組み合わせが、本当に楽しくコーナーを曲がるマシンに仕立て上げているのだ。
自動遠心クラッチなので、操作は基本的にイージーなもの。5速+クラッチを装備したモンキー125やグロムに比べれば、ギアチェンジという面ではスポーツ性に欠けるのかもしれないが、これはこれで独自の操作性が楽しい。
コーナーは楽しいのだけど、全体的にはのんびりしている……そんな不思議な感覚が「他のどんなバイクでもない。自分はいまダックス125に乗っているんだ!」と思わせてくれる。
リアサスペンションもシンプルなものだが、動きは上々。コーナーリングはもちろんのこと、街中でもしっかり動き、その働きが良くわかる。前後ディスクブレーキの効きも申し分なしだ。
他に気に入ったのが、シートだ。硬さが絶妙で、今回200km超を走ったのだが、座り心地が良かったのは特筆すべきポイント。さらにフラット形状で前後に長いため、ライディングポジションの自由度が高く、また乗車中のポジション変化も容易で、これがまた走りの楽しさを増幅させてくれた。
ここまでは褒めてばかりだが、もちろん気になった点もある。
これはダックス125で褒めた点と表裏一体なのだが、前後12インチホイールの軽快感が、安定感と引き換えになっているということ。つまり長距離を走ると、C125などの17インチホイール車にくらべて、ほんのわずかだが疲れやすいのではないかと思ったのだ。
これは実際に2台を連続して乗り比べたわけではないのだが、昨年、C125で山中湖へツーリングに行ったとき(300km超)よりも疲労感があったことや、実際に12インチと17インチの特性を考慮すれば、十分に考えられることだと思う。
とは言っても、これは決してダックス125が疲れやすいということではない。むしろクラッチ操作のいらないイージーライドで、のんびりトコトコと、どこまでも走っていくことができるのがダックス125の大きな魅力だといえる。
また、容量3.8Lの燃料タンクは街乗りでは十分すぎるが、ツーリングでは少し物足りない。
ただし、これもフレーム内に燃料タンクを納めなければならないダックス125の特性を考えれば致し方なし。むしろこれだけのタンクをよく納めてくれたという言うべきであろう。
ホンダの原付二種ラインナップに新たに加わったダックス125は、見た目どおりの“のんびりバイク”ではあるのだが、そのじつ、ひらひらと軽快なコーナリングも楽しめる。街中でも遠出でも、シーンを選ばず満足できる1台だ。ルックスにハマった人はもちろん、走りを楽しみたい人にもおすすめできる。
クラシカルでシンプルな丸目ヘッドライトながら、LEDを採用することでモダンなイメージを併せ持つ。ロービーム/ハイビームを囲むようにライト両サイドに配置したポジションランプも個性を強めている。
アップライトなハンドルバーによって、ライディングポジションはリラックスできる。ハンドルスイッチは必要最小限でシンプルなものを採用している。
スピードメーターはモンキー125と共通で、クラシカルイメージを高めたデザイン。イグニッションをオンにすると速度表示部がまばたきして、ライダーを迎えてくれる。
フロントホイールは12インチで、ABS機能付きディスクブレーキを装備。フロントフェンダーにはマッドガードを装着し、雰囲気を高めている。フロントフォークは倒立式だ。
空冷4ストローク123cc単気筒エンジンは、スーパーカブC125やCT125・ハンターカブと基本的パーツを共用する。トルクフルで適度な鼓動感が心地よいエンジンである。
エキゾーストパイプはエンジン下でとぐろを巻き、十分な菅長を稼ぐ。これによって粘り強いトルクを実現している。
アップタイプのサイレンサーはルックスのアクセントにもなっている。「穏やかさの中にも走る楽しさが感じられるパルス感を目指した」とは、ホンダ開発陣の言葉。
専用に開発されたT字型の鋼板プレスフレームは、ダックス125最大のアイデンティティー。縦に入ったグラフィックは首輪をイメージしていて、ダックスシリーズの定番。クラシックウイングマークはモンキー125から続く、同シリーズ共通アイコンだ。
快適なタンデム走行を想定してデザインされたロングシートは、フラット形状のため、ソロライドでも重宝する逸品。ライディングポジションの自由度を高くしてくれるのだ。
4速ミッションはスーパーカブシリーズでも採用されるシーソー式ペダルで操作。クラッチ操作が不要で、トコトコと走るのに最適だ。
リアサスペンションはシンプルな作りだが、しっかり動いて快適なライディングをサポートしてくれる。ホイールベースは1200mmで、モンキー125より長く、C125よりは短い。しかし、ひらひら感はモンキー125と同等か、それ以上のイメージ。
リアブレーキにもディスクを採用。ABSは非装着だ。ホイールサイズは12インチで、軽快感を作り出すのに一役買っている。
テールランプとウインカーはモンキー125と共通。ヘッドライトとの統一感を持たせたデザインを採用している。
もともとはダックスフントをモジって『ダックスホンダ』と名付けられていたのがダックスシリーズのはじまり。シート下にはかつてダックス50に採用されていたエンブレムをリデザインしたステッカーが貼られている。
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