掲載日:2020年01月27日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
SUZUKI LET’S
レッツが初めて発売されたのは1996年。以来、4ストローク化やフューエルインジェクション化などさまざまな変遷を経ながら、スズキの原付スタンダードスクーターとして長い歴史を刻んできた。2015年モデルからは燃費性能に優れたSEP(SUZUKI ECO PERFORMANCE)エンジンを搭載し、さらに進化した。ここであらためてこのロングセラーモデルの魅力を探ってみよう。
最近では125ccクラスの人気が高いとはいえ、普通免許を所持していれば運転できる50ccクラスのスクーターは、手軽さや駐輪のしやすさ、維持費の安さなど、まだまだ魅力のあるカテゴリーだ。スポーティなモデルやデザインにこだわったモデルなど、いろいろな車両が存在するが、やはり主力となるのはシンプルでスタンダードなモデルだろう。スズキのレッツは、まさにそんなベーシックなスクーターだ。
実車の前に立つと、最近の125ccスクーターを見慣れた目には車体がとても小さく、華奢にすら見える。実際、燃料やオイルなどを加味した装備重量はわずか70kgと軽量で、タイヤサイズも10インチと小さいため、初心者や体力に自信がない人でも取り回しは楽々だ。
外観のデザインも丸いヘッドライトに加えて複雑な造形がほとんど用いられていない単純なもので、きわめてシンプル。その分、飽きのこない、親しみやすいデザインだといえる。この感じ、40~50代のライダーなら「そうそう、原チャリってこうだったよな」という、青春時代に初めて乗ったスクーターを思い起こさせる懐かしいものかもしれない。
ユーティリティに関しても、装備はごく標準的だ。フルフェイスヘルメットが入るシート下トランクスペースや大き目のフロントインナーラック、コンビニフックなどを備えるほか、U字ロックホルダー付きのリアキャリアやスタンドを掛ける際に便利なグリップをシート下に配置するなど、ちょっと嬉しいものも標準で装備している。電源を取り出すアクセサリーソケットなどは備えていないが、税込みで16万6,100円という価格を考えれば、必要十分な装備だといえるだろう。
レッツのシート高は695mmで、足つき性は非常に良好。そして車体がとても軽いため、小柄な人でも停車時にふらついたりする心配はないだろう。ライディングポジション自体もコンパクトにまとまっている印象で、ちょっと大柄な男性だと窮屈に感じるかもしれない。停止状態からアクセルを開けると、わずかなタイムラグがあって車体が前に進みだす。これはおそらく不意の飛び出しなどを防ぐためにあえてこういう仕様にしてあるのだろう。「レッツは信号ダッシュを競うようなマシンではなく、のんびりゆっくり走ればいいんだよ」というメーカーからのメッセージに感じられた。
走り出しても、アクセルワークにリニアに反応するような鋭い加速感はないが、それが逆に安心感となり、初心者や運転に不慣れな人にも優しい乗車感を生んでいる。かといって決して遅いとかパワーがないわけではなく、メーターの示す数字まではしっかりと速度を乗せることが可能だ。
軽い車体と前後10インチのタイヤということもあってか、操舵感は非常にクイック。そのため、ベタベタに混んでいる都市部の渋滞などでは抜群の機動力を発揮するし、住宅街の路地や車両の通れる商店街などでも気負わず気楽に走ることができる。30km/hという法的な最高速度の縛りがあるため、幹線道路を長時間走るような使い方だと気苦労も多いだろうが、駅と家の間のいわゆる「ラスト1マイル」をつなぐ乗り方や、近所の買い物、比較的短距離の通勤・通学の足としては、とても使い勝手がいいマシンといえる。
考えてみればこれは50ccクラスのスクーターに与えられた本来の役割であり、その意味でレッツはまさに「スタンダードな正統派原チャリ」なのである。ふだんは大型バイクに乗っているライダーでも、スニーカーのように気軽に使える足として重宝するはずだ。