KTM FREERIDE350
KTM FREERIDE350

KTM フリーライド350 – 軽い乗り味を追求した作り込みが全く新しい楽しさを与えてくれる

掲載日:2016年05月30日 試乗インプレ・レビュー    

テストライド/小林直樹  写真/長谷川徹 まとめ/小川浩康
※この記事はオフロード雑誌『GARRRR』の人気企画『小林直樹のオフロードバイク・テイスティング』を再編集したものです
※記事の内容は雑誌掲載当時のものです(GARRRR vol.315 2012年07月発売)

軽い乗り味を追求した作り込みが
全く新しい楽しさを与えてくれる

おれはオフロードバイクを改造してトライアルライディングを楽しんでいるのだけど、このフリーライド350には最初からトライアルタイヤが装着されていて、ギヤ比も低く、サスセッティングも柔らかめに設定されている。エンデューロイメージの強いKTMだけど、このフリーライドの開発コンセプトは自分のライディングにぴったりとはまる仕上がりになっているから、ツーリングでの使い勝手がどうなるのか? 個人的にもすごく興味があったんだ。

車重の軽さがシート高の高さをカバーし
市街地でも使える乗り味

トライアルマシンと比較すると車重はあるけれど、オフロードバイクとしては群を抜いて軽い。押し引きももちろん軽く、乗った感じも「軽い」のひとこと。シート高は895mmとそれほど低い部類ではないけれど、車重の軽さのおかげでバランス修正がしやすく、つま先立ちでも車体が振らつきにくい。これが安心感になるから、市街地でも意外と使えると感じられるんだ。

舗装路でのトライアルタイヤには独特の乗り心地があるのだけど、市街地走行程度の速度域では、それほど気にならないだろう。ただ、Uターンするときにタイヤのトレッドは路面をグリップしたままで、サイドウォールが腰砕けすることもあった。フロントタイヤが切れ込んでいってヒヤッとしたので、トライアルタイヤを履いたことのないライダーは、Uターンに多少の慣れが必要になるだろうね。ハンドル切れ角もトライアルマシン並みに大きいから、これも切れ込みやすさになることもあるんだ。

それと、ギヤ比の低さは加速のしやすさにもなっていてキビキビした走りに貢献してくれる。けれど、こまめにシフトチェンジしないとノッキングしてしまうから注意したい。

低中速を重視したエンジンと車体の
作り込みは高速巡航の辛さになってしまう

排気量は350ccあるけれど、低中速で扱いやすい出力特性になっている。だからパワーにものを言わせて加速したり、ハイスピードクルージングしたりといった特性にはなっていないんだ。さらに全体的にギヤ比が低く、エンジンの頭打ちも早い。100km/h出すことは可能だけど、70km/hくらいからビリビリとした振動が出てきて手が痒くなる。

前後サスの動きはよく、ストローク初期で衝撃を吸収してくれるからマシン挙動はフラットで、乗り心地自体は悪くない。ただ、これくらいの速度域になると、車線を踏んだだけでタイヤがよじれることもある。レーンチェンジでマシンが振られる原因となるし、わだちでもハンドルが取られやすくなってしまう。さらにシートからも振動が伝わってくるので尻が痛くなりやすく、高速巡航は快適とは言い難いんだ。高速道路は左側の走行車線をキープ。それでも、なるべく短時間、短距離にとどめたいのが本音だよ。

切り返しの早さでワインディングでは
コントロールする楽しさがある

車重の軽さとフレーム剛性が合っているから、ワインディングではダイレクトなマシンコントロールが楽しめるんだ。コーナーのイン側に体を入れてきっかけを作り、あとはリーンウィズをキープしていれば自然にコーナリングしていける。ステップの踏み替えに車体がクイックに反応してくれるから、左右への切り返しもクイック。ある程度高回転をキープして、各ギヤで引っぱり気味に走ると気持ちいいスポーツライディングを楽しめるんだ。

でも、コーナリング中にリヤタイヤがグニョっとよじれることがあり、そこでアクセルを戻してしまうとマシンはアウト側へはらんでいってしまう。こうしたマシン挙動を防ぐには、アクセルをガバっと開けず、ジワーッと開けてやる必要がある。半クラッチを使っても、マシンを前に進めるにはアクセルを開けなければならないから、ていねいなアクセルワークが肝心なんだ。

こうしたスポーツライディングを楽しんでいるとOEMのトライアルタイヤはあっという間に減ってしまう。トライアルタイヤはコンパウンドでグリップ力を得ているから、ブロックが減っても急にグリップ力が落ちることはないけれど、乗り心地は悪くなるし、すぐに使用限界が来てしまうということを覚えておこう。

自由自在のダートライディングに
今までにない楽しさが得られる

舗装路と違い、ダートでのトライアルタイヤはつねに接地感を感じさせてくれながら抜群のグリップ力を発揮してくれる。マシンの軽さも存分に発揮され、ヒラヒラとマシンコントロールすることができるから、林道の枝道や獣道にも入っていこうという気にさせてくれる。

でも、こうしたグリップ力はトライアルタイヤだけでなく、エンジン特性、フレームの剛性も大きな要因になっている。アクセル開度をそれほど大きくしなくても低中速トルクが立ち上がってくるから、クラッチ操作も頻繁にならず、ボディアクションでのバランス修正に集中しやすい。このトルク感を250ccで出そうとするとエンジンを回さなければならなくなり、燃費の悪化にもつながる。フリーライドが350という排気量を採用した理由は、アクセルを大きく開けなくてもマシンコントロールできる特性を実現するためだったんだろうね。

そしてメインフレームをしなる鉄製とすることで、路面からの衝撃を吸収しつつ柔らかい乗り味を実現。でもトライアルマシンのような華奢な感じが出ないように、足下はアルミ製を採用して剛性感を出している。さらにリヤまわりの軽快さを出すためにサブフレームは樹脂製を採用。そうしたハイブリッドフレームが剛性感としなりを両立し、「軽い」乗り味を実現しているんだ。

ザクザクの路面や柔らかい獣道では鉄製フレームがしなやかな乗り心地を提供してくれて、岩やギャップではアルミ製フレームの高剛性がパンっと反発力を発揮してクイックな走りでクリアしていける。

そして低中速トルクを重視したエンジン特性は、ゆっくりしたスピードでも路面をしっかりトラクションしてくれて、パワーの立ち上がりもピーキーじゃないから、アクセル開度をキープしているだけで坂を上っていくこともできる。マシン任せでも走っていけるから、フリーライドはビギナーにも高い走破性を与えてくれるんだ。

そうは言っても、体が遅れれば捲れてしまうし、ダートを確実に走破していくにはライダーがしっかりボディアクションをする必要はある。扱いやすいエンジン特性と軽い車体、大きなハンドル切れ角でトライアルライディングも楽しめる。それでいて華奢な感じがないから、ダートでペースを上げて走っても不安な感じはない。落ち着いたハンドリングは、河原、コース、獣道とどんな場所でも安定感と操作性を両立させてくれて、車体はライダーのボディアクションに確実に応えてくれる。

ライダーのスキルに合わせてフリーライド自体の走破性もどんどん高くなっていくから、どんなレベルのライダーでも楽しめるし、どんなスタイルのライダーにも応えてくれる。こうした幅広い楽しさを与えてくれるのが、フリーライド350の大きな特徴になっているんだ。

まさに五月晴れとなった今回のテストは、走行風が気持ちいい絶好のツーリング日和だった。総走行距離は約150kmとなったが、ハードパックな林道、ガレ場、ウッズ、獣道と、ダート路面のバリエーションは豊富だったと思う。総燃費は19.9km/Lだったが、350ccのレーシングエンジンをベースとして開発されている割りには好結果と言えるだろう。一般的な林道ツーリングであれば、もう少し燃費は伸びるはずだが、タンク容量は5.5Lしかなく、航続距離は100km程度に留まってしまう。自走ツーリングでのルーティングには、給油ポイントの確認が欠かせない。

切り返しの早さがスムーズなコーナリングを実現。ワインディングも楽しめるポテンシャルを持っているが、トライアルタイヤの乗り味には注意が必要

低いギヤ比はエンジン回転の頭打ちの早さと、振動の原因になってしまう。タンク容量の少なさもあるので、高速道路は緊急時の移動に留めておきたいのが正直なところだ

狭い場所での細かい切り返しはフリーライドの独壇場。意のままにマシンコントロールができ、ライダーのイメージ以上の走破性を発揮する。気が付けばチャレンジする気持ちになっている

KTM フリーライド350 DATA FILEは次ページにて

こちらの記事もおすすめです

この記事に関連するキーワード

新着記事

タグで検索