福島 滝桜ツー

掲載日:2008年04月27日 ツーリング情報局関東エリア    

福島県までは常磐高速で
SAを楽しみながら一気に移動

はじめまして。関東の2008年度ツーリングレポートを担当することになりました、リターンライダーWRTです。まず簡単に自己紹介をしますと、22 歳以来32年ぶりにバイクに復帰してまだ2年。どんなバイクに乗っても「ウワァすごい」とびっくりして感動してしまいます。どこにツーリングに行ってもすべてが初めての経験で、常に嬉しくてたまりません。まるでバイクに初めて乗った十代の若者のよう。フレッシュな気持ちでレポートしたいと思います。

イメージさて、1回目のレポートは「春だなあ→そりゃ桜でしょう→バイクで行きたい→なるべく遠くまで」という短絡的思考回路で福島県三春町の滝桜をターゲットにしました。滝桜は日本三大桜の一つで、樹齢千年以上の紅枝垂れの巨木。数年前の夕暮れ時に初めて訪れましたが、見た瞬間に斜面に立つ巨木の存在感に圧倒されました。暮れなずむ光の中で、満開の花をつけた滝桜はまさに幽玄で荘厳。霊気のようなものさえ感じ、いささか怖くなったものです。満開時期の周辺道路の渋滞は興ざめですが、この幽玄荘厳な桜を友人知人に是非見せてあげたい。「それならツーリングを企画しちゃえ」となるのですから、私も相当重い病気です。滝桜見に行く大観桜ツーリングを企画するなら、その前にまず自分で試走しなきゃ。なんていうのは言い訳で、ただ阿武隈山地の快走路を走りたいだけなんです。そこで、まだ全く咲いてもいない滝桜を目指して、4月早々に走ることにしました。

イメージ常磐高速「守谷SA」を朝7 時半に出発。都心方面は渋滞ですが、外に向かう道はワイドオープン。快走! この日は平日だったため、今日も仕事をしているであろう同僚や部下のことを想像し「自分だけ休んでこんなキモチイイことしていてホント悪いなあ…」なんてもちろん思いません(キッパリ)。ああオレだけ自由だあぁぁ~という解放感。これはサイコーですね。4月の朝の空気はまだ冷気。その中を突っ切っていくのは気分爽快ではありますが、一人で走る高速はちょっと退屈。つくばサーキットには「谷和原IC」を降りて行くんだなあ、とか、土浦北で降りたら霞ヶ浦はすぐだし、などと思いめぐらしながら走ります。すると高速にかかった橋桁に「二輪車ETC本格運用開始」なんて横断幕も。「付けて良かったETC」なんて浮かれていますと、社会実験と称してETC装着車だけが降りられる「水戸北インター」は、ナント「二輪車は除く」って看板が! なんだよ、それは! 矛盾だろ(怒)! と一人突っ込んでみます。四輪に比べETC機器価格が高いだけでなく、道路への負荷を考慮しても二輪料金は高過ぎると思っていますから、二輪差別にはむっとしちゃいますね。

イメージ常磐高速「東海PA」を過ぎますと、いよいよ常磐道日立名物の連続トンネルです。日立周辺の常磐道では、次から次へとトンネルばかり。ここを通る時は、いつもその数を勘定するのですが、「アレレ、今いくつだったっけ?」と例外なく途中で数が分からなくなってしまうのです。ハンドルを握っていると指折り数えられないから? って、そんなことはありませんが、少々がっくりします。さて、本当はいくつあるのでしょうか? 地図で調べてみますと、正解は13。トンネルを出るとバァ~っと右手に太平洋が見えるところもあり、絶景です。トンネル走行の緊張感、景色の変化、そして数勘定をしているうちに、「中郷SA」に到着。中郷SAは春爛漫でした。黄色が鮮やかなれんぎょうの花が盛り。そして野口雨情をテーマにした庭園も。野口雨情は、明治15年に現在の北茨城市で生まれた童謡詩人で、七つの子、赤い靴、青い眼の人形などが代表作。私たちが誰でも知っている童謡ばかりです。大きな石に刻まれた歌詞の碑と和風の庭園、電話ボックスまで和風だったりして。う~ん、今日のツーリングは「和」で行こう、そんな気にさせられます。

遥か昔に建てられた城砦で
古代日本へ思いを馳せる

「いわき勿来(なこそ)IC」で降りて15分ほど走り、勿来の関へ。5世紀頃に作られたと言われ、東北以北にすむ部族(蝦夷)と大和の部族を隔てる重要な城塞であったと言われています。勿来という地名にはどうやら意味があるようです。「来」という漢字の前後に「な」と「そ」を付けると古い言葉で「来てはならない」という意味になります。「来るな」という意味の場所にわたしゃバイクで来ちゃいましたけど…(笑)。地名から古い時代に思いを馳せることができるポイントですね。この場所について詠んだ和歌を紹介しましょう。

「吹風を なこその関とおもへとも 道もせにちる 山桜かな」

イメージ私の拙い現代語訳だと「満開の桜を散らしてしまう風よ、どうか吹かないでおくれ。勿来の関に満開に咲き乱れる山桜を前にしてそう願ってはみるのだけれど、やはり風は吹いて満開の山桜が道いっぱいに散ってしまうのだ…」と解釈できます。山桜が咲き乱れ、そこに風が吹き渡る情景をドラマティックに詠んだ平安時代の武将、源義家の歌です。勿来の関にはその義家さんの立派な銅像が立っていました。優雅な和歌を詠むというより勇壮な武将姿の像で多少違和感を感じてしまいます。この他、紀貫之、小野小町、和泉式部、西行法師など、おなじみの歌人も勿来の関を和歌に詠んでいるようです。芭蕉の句碑も建てられ、公園内にある詩歌の小径をそぞろ歩けば歌碑がたくさんあり、いにしえから近代に至るさまざまな勿来の関を題材にした歌を味わうことができます。

イメージどっぷり古典文学に浸った後は、海岸近くの工業地帯を抜けます。すると、呉羽化学という大きな看板を発見。自動的に「クッ♪クッ♪クレラップ♪♪」とCMソングを口ずさんでしまう自分が悲しい! 和歌に親しんで直後にクッ♪クッ♪・・・はないだろう、って自分で突っ込みながら、一路国道289号線で阿武隈山地に分け入ります。すぐに「四時ダムこちら」という看板が。ダムと海が一緒に見える、というキャッチフレーズに誘われ、小さなトンネルを抜けると、そこは別世界のダムサイト。バイク好きな人、特に男性はこういう巨大構築物にも弱いもの。ダムサイトに停車していますと、重くて大きなバイクがとても小さい。それ以上にオレってなんてちっちゃいんだろう! ダム萌えっていうんでしょうか、ダムの写真集を作る人の気持ちがちょっぴり分かります。この四時ダムは、午前10時に来ても四時?いえいえ、読み方は「よじ」じゃなくて「しどき」です。

イメージ朝6時台に朝食を取りましたから、10時過ぎには結構腹ぺこ。ダムから戻り、四時トンネルを抜けると、そこには「おやじがんこそば」。「やってるかな~、こんな早くに…」と思ったら、10時半営業開始。これは、まるで本日の私のためにあるお蕎麦屋さんだと嬉しくなります。メニューを開き、速攻でてんぷらおやじそばを注文。新緑も紅葉も素晴らしいツーリングのメッカである「猪苗代の蕎麦を使用しています」との張り紙が嬉しいですねぇ。それに、中国産の蕎麦じゃないんだと確認できて一安心。もう一つ嬉しいのは、最初の客のせいか、目の前で蕎麦を打ち、それを茹でて出してくれました。黒くて太くてぶつぶつ切れるようなお蕎麦かなと思っていたら、意外なことに白い更科系のようなお蕎麦でした。熱々の天ぷらをハフハフしながら食べ、おそばを手繰って大満足。一心不乱に食べてはっと気付きました。「がんこおやじはどこにいる?」…いませんいません。いるのはお蕎麦を打ってくれ、その後私のバイクをわざわざ外に見に行った優しそうなお兄さんだけ。「このバイク、今年の2月登録なんですか?」なんて聞いてきて、ひょっとしてあなたもバイク好き?

知る人ぞ知る?快走路を抜け
悠久のときを生きる滝桜へ

イメージさて蕎麦の後は、阿武隈山地快走路です。国道289号を西進、そして国道349号を北上。一部狭くて細かいカーブが連続する山道もありますが、おおむねゆるめのカーブが高低差のある阿武隈山地を貫いてつながっています。ついつい高速道路並みのスピードになってしまいそう。キャンプ場もある「鹿角平観光牧場」にも寄りましたが、4月早々ではまだ開場していないみたい。車の数がとても少ない。信号もほとんどない。前を走る軽トラなども、私を認めるとすっと脇によって道を譲ってくれます。マナーがいいとかそういう表現より、皆さん心にゆとりがあるって感じなのです。嬉しい、楽しい、もう天国です。鮫川の渓流に沿って走るルートなど、思わずウハウハしてしまうような連続カーブ。バイクなんて一台もすれ違いません。東京近郊の走り屋御用達のワインディングとはもう正反対。阿武隈山地のこのルートは、処女地という言葉を使っていいくらい。「いわき勿来IC」から滝桜までの100kmの行程のほとんどがそうなんですから、みなさんもうたまりませんよ。こんないい道、止まったりできません。一気に走り抜けて気分はもうサイコー。国道349号線途中にある古殿町近くには樹齢400年の越代の桜もありますが、来春また来る時まで取っておきましょう(ってこの時期は咲いてませんって)。

イメージカーブの連続で車体も体も右や左へ気持ちよくリーンしっぱなし。この快楽状態でどんどん進み、国道49号線をほんの少し走って国道40号へ。この道もやっぱり天国の快楽ルートです。いよいよ滝桜に接近。でも、手前に地蔵桜、忠七桜、不動桜など由緒ありげな名前の付いた枝垂れ桜の巨木がたくさんあるようです。どうやら、滝桜の花が散り、サクランボが実を付ける頃になると、それを鳥が食べに来て、種をいろいろなところに運んでいって増えた桜らしいのです。つまり鳥の糞で増えた桜ってこと。こういうと風情がないねぇ…。私たち日本人は満開の桜ばかり話題にしますが、鳥たちはサクランボの方が興味があるのでしょうね。そんな滝桜と鳥たち、そして種が落ちてそれをはぐくむ大地の三者による共同作業が長い長い年月繰り返し行われてきたのだと思うと、この周辺にある数多くの古く大きな枝垂れ桜の歴史が見えるような気がします。滝桜手前で地蔵桜にちょっと寄り道。滝桜の子か孫かは分かりませんが、地蔵桜も巨木にちがいありません。そこの碑に刻まれた句から一つ。地元の方の句でした。

「千年の 夢ふくらます 花の笑み」

イメージ確かに、たかだか100年足らずの人間の人生。桜の百年単位、千年単位の生を踏まえると小さい小さい。でも、精一杯楽しもう、だから、どんどん走っちゃえ、という結論になっちゃうんです。さて、いよいよ滝桜に到着。残念ながらつぼみはまだ堅く咲く気配はもちろんゼロ(2008年は4月12日に開花宣言が出ました)。しかし、つぼみが何となく赤みを帯びて枝先を彩っています。そして斜面に立つその幹の太さ、枝張りの広さ。存在感は周囲を圧倒しています。千年の命を育んで、今まさに花を開く準備をしている、そんな気配が桜の周囲に漂っているのが感じられました。滝桜の幽玄荘厳な花のたたずまいは、到底文字で表現することはできません。花開く時期、是非とも行って自分の目でご覧になることをお奨めします。

今回のツーリングは、和の味わいの旅でした。そして、滝桜に巡り会い、悠久の時を感じ、自分の過去や遠い祖先の暮らしにまでしみじみ思いを馳せることとなりました。滝桜を後に、私は父の墓に詣でるべく、さらに北を目指して走ることにしました。

スポット紹介

いわき市勿来関文学歴史館

住所/福島県いわき市勿来町関田長沢6-1

電話/0246-65-6166

営業/9:00~17:00

定休/第3水曜

URL/いわき市勿来関文学歴史館

田人味 おやじがんこそば

住所/福島県いわき市田人町南大平下毛15-2

電話/0246-69-2688

営業/10:30~20:00

定休/火曜

滝桜.com

URL/滝桜.com

WRT
プロフィール
WRT

32年のブランクを経てバイクの世界に戻ってきたリターンライダー。ツーリングで走るエリアは非常に広範囲で、関東を飛び出し甲信越や東北の一部まで達することも。愛車はロングツーリングに最適なモデルBMW R1200RT。

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