掲載日:2023年02月22日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/伊井 覚 写真/伊澤 侑花
HUSQVARNA SVARTPILEN 401
2013年にKTM傘下となったハスクバーナ・モーターサイクルズだが、実はロイヤルエンフィールド、トライアンフと並び、世界で最も長い歴史を持つバイクメーカーの一つで、その始まりは1903年まで遡る。元々はスウェーデン発祥でマスケット銃を製造する会社であったこと、今でもその名残がロゴマークに残されていることは有名な話だ。1960〜70年代にはモトクロスの世界選手権やエンデューロのヨーロッパ選手権で何度もチャンピオンを獲得している。また、映画「栄光のライダー(On Any Sunday)」の劇中では、かのスティーブ・マックイーンの愛車として登場したこともあり、ヨーロッパだけでなくアメリカでも大きな人気を誇っている。
スヴァルトピレン401はハスクバーナ・モーターサイクルズが2018年から発売している373ccのネイキッドモデル。兄弟車として発表されたカフェレーサー風のヴィットピレンシリーズに対し、スヴァルトピレンシリーズはスポークホイールにブロックパターンのタイヤ、アップハンドルを装備したスクランブラースタイルとなっている。ちなみに「スヴァルトピレン」という名前はスウェーデン語で「黒い矢」という意味で、年式に関わらずカラーリングは黒をベースとしたものに統一されている。なお、1955年にはシルバーピレン(銀の矢)というオフロードモデルも発売されており、この「〜ピレン」シリーズこそハスクバーナ・モーターサイクルズの伝統的なオートバイと言えるものだということがわかる。
発表当時はそのあまりに先鋭的なデザインが日本の市場で受け入れられるか心配だったものだが、初めて試乗した瞬間から僕はこのバイクの虜になってしまった。案の定、そのデザインとエンジンの素晴らしい仕上がり、コンパクトかつ軽量な車体は高い評価を受け、発売から5年が経った今ではすっかりハスクバーナ・モーターサイクルズの代表的なモデルとして定着しており、街中でもかなりの頻度で見かけるようになった。
KTMの390 DUKEをベースに開発されたエンジンの味付けは最高の一言で、中〜高回転域での面白さは筆舌に尽くし難い。3000回転から上ではどこからでもスロットルに連動して自由自在にパワーを生み出すことができる。それも「ドン!」という恐怖感を伴うような加速ではなく、一瞬のマイルドなフィーリングがあった後にスロットル開度に合わせて「グーン!」と伸び上がってくる気持ちよさは、公道用モデルとしての安心感とスポーツモデルとしての面白さを絶妙のバランスで両立している。
そのパワーを支えるのはトレリスフレームとWPサスペンションだ。誤解を恐れずに言うと、跨った時の第一印象はちょっと硬すぎるかな? というものだった。しかしステップからフレームを通じてサスペンション、ハンドルまでの一貫した剛性の高さが安心感につながっているし、走り出してみると前後サスペンションはただ硬いだけでなく、沈み始めで細かくよく動き、路面のギャップをしっかり吸収してくれるし、ギュッとブレーキをかけた際はしっかりと粘ってくれて身体にかかる負担を最小限に留めてくれる。
とはいえ、この硬さは長時間乗っていると疲労に繋がることが想像できる。タンク容量が9.5Lとあまり大きくないこともあり、ロングツーリングというよりは近〜中距離でのツーリングに最適なモデルと言えるだろう。
車体は373ccとは思えないくらいコンパクトで、知らない人が見れば125ccや250ccに見られてしまうかもしれない。そのおかげで取り回しは楽チンで小柄な女性でもストレスを感じることは少ないだろう。車重も152kgと軽量で、コーナーで寝かせた時の安心感は他のモデルではなかなか味わえないほどだ。細身のタンクはニーグリップをサポートしてくれるし、純正の時点で少しバックステップ気味のためコーナー中のステップ荷重もかけやすい。このバイクに乗っているだけで自然とスポーツ走行の基本を身につけることができるだろう。
僕は以前一度ツーリング取材でお借りした時にすごく気に入ってしまい、今回は2度目の試乗だったわけだが、改めてスヴァルトピレン401の虜になってしまった。あまりロングツーリングをしない僕にとっては間違いなく「今一番欲しいバイク」である。
スタンダードでも足つきの悪いモデルではないが、今回試乗したモデルにはオプションのロワリングキットが組み込まれてシート高が約25mm下げられており、身長159cmの女性ライダーでも一切不安を感じることなく乗ることができたことも付け加えておきたい。