掲載日:2023年02月27日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
HONDA REBEL 1100T
ホンダのクルーザーモデル、レブルシリーズには250、500、1100という排気量の違う3機種が存在する。いずれもロー&ロングなフォルムと低いシート高が特徴で、フューエルタンク形状やヘッドライトなどが共通イメージのデザインで統一され、人気のモデルとなっている。その中で最大排気量となるレブル1100に、ツアラーモデルとなるレブル1100Tが登場した。標準モデルとの主な違いは、大型のフロントカウルとサドルバッグを装備している点で、いわゆるバガースタイルと呼ばれるものとなっている。
フロントカウルの形状は左右に長く、上下が短いもの。ハーレー系のクルーザーによく装着されている通称“ヤッコカウル”と呼ばれるタイプで、ショートタイプのバイザーを備えている。一見すると大きく見えるが、かなりシャープなデザインで軽量となっており、ハンドリングへの影響は少なそうだ。横方向はグリップ部の前までカバーしているので、冬は指先への防風効果が期待でき、冷たさをかなり緩和してくれそうでもある。
サドルバッグは左側が19L、右側が16Lの容量を持つ樹脂製で、メインキーによってロックが可能だ。デザインは車体イメージと一体化したもので後付け感がなく、さすがは純正カスタムといったところ。バッグの前側にヒンジがあり、開き過ぎないよう角度を抑えるベルトが装備されている。容量は左右合わせて35Lと、これだけでキャンプツーリングに行く荷物を全て収納するには厳しいが、従来よりも積載性は大幅に向上しているし、シートバッグなどを併用すれば問題なさそうだ。宿泊施設に泊まるなら着替えや洗面道具、レインウェアなどを入れた上に、お土産を入れる余裕ぐらいはありそうなので、ツーリングでの使い勝手はかなり向上するだろう。何よりも鍵のかかるスペースが常に確保できる、ということに大きな価値がある。
カウルとサドルバッグ以外については標準モデルのレブル1100と同じで、クラッチ操作が不要のセミオートマチックであるDCT仕様と6速MT仕様の両方が用意される点や、クルーズコントロール&ライディングモードの搭載、ETC2.0車載器とグリップヒーターを標準装備するなどの点も共通となっている。
今回試乗したのは6速MTモデルで車両重量は238kgとなっており、これは標準モデルの15kg増の値だ。しかしベースとなったレブル1100はもともと排気量の割には軽めで重心も低いため、取り回しの際にも特に重いという感じは受けなかった。跨ってもシート高が700mmと低いため車体をしっかりと支えられるので、とても安心感がある。
走り出すと、車体がグッと前に弾かれるような加速でグイグイと進んで行く。アフリカツインと同系の1082ccエンジンを低中速重視に振ったセッティングを持つパワートレインは、Vツインではなく直列2気筒なのだが、ドコドコという鼓動感もあって、クルーザーらしさを実感できる。サドルバッグを装着していることで、街中の走りでは気を使うかなと思っていたが、全幅は標準モデルと同じ850mmであり、アフリカツインの幅が960mmなことを思えばかなり細身で、混雑するシチュエーションでも全く気にならなかった。
ハンドリングはとにかく軽快そのもの。フロントカウルが装着されていることでハンドルの操作感が鈍くなったのではと少し心配していたのだが、全くの杞憂だった。特に今回はMTモデルということもあって、パワーが欲しいときに的確なギアを選べて、ダイレクトに素早くマシンが反応してくれるという、バイク本来の楽しみをあらためて感じることができた。以前レブル1100のDCTモデルに試乗した際は「楽でいいなぁ」と心底感じたが、昔からバイクに乗っているベテランライダーや、より自分で操る感覚が欲しい人には、MTモデルという選択肢も大いにアリだと感じた。それほど、このマシンがスポーティだということだ。
高速道路に乗り入れてみると、フロントカウルの効果をより実感することができた。スクリーンではなく短めのバイザーがあるだけなので、体に当たる風を大幅に防いでくれるわけではないが、標準モデルに比べると明らかに走行風は軽減され、かつ整流されているためか、体への当たりがマイルドに感じられるのだ。
郊外の峠道を流した際、サドルバッグの中に撮影用の機材とレインウェア程度の荷物を入れて走ってみた。するとパワフルさからくるキビキビ感の中に、若干ではあるがしっとりと落ち着いた挙動も感じられた。荷物は少なめだがそれないに重さがあるため、やはり重心が下がるのか、スポーティさを損なわない程度にマシンの挙動が標準モデルに比べてわずかにヒラヒラ感が少なかったように思えた。もっともそれは、1100ccクラスのパワーにしてみればほぼ誤差のようなものだし、スポーツモードで走れば全く気にならないレベルだ。
高い運動性能を保ちながら、長距離ツーリングでの疲労を軽減してくれるカウルと積載性を大きく高めるサドルバッグを装備したレブル1100Tは、旅の楽しみ方をより広げてくれる、よき相棒となる可能性を秘めたマシンと言えるだろう。