掲載日:2022年12月02日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
Benelli IMPERIALE400
1911年にイタリアのマルケ州に位置するペーザロにて設立されたベネリ。それは和暦で言えば明治44年のこととなる。6人からなるベネリ兄弟により運営され、創業時は自動車、バイク、自転車などの整備工場として、またパーツ製造などを行う企業であったが、ベネリ兄弟は自分たちの手でオリジナルのバイクを造り上げることを目標とし、1921年にはその第一号車が誕生している。
バイク産業はまだまだ黎明期と言える時期。小さいブランドは欧州各国で産声を上げていたが、その中でもベネリは数々のレースで勝利をおさめ、広くその名を知れ渡らせた。その後、イタリアは世界規模の大戦を迎え、ベネリも工場が壊滅するなど大きな損害を受けたが、それでも積極的にレース活動を続けて行った。時は1950年代に差し掛かろうとしていた。今回取り上げるインペリアーレ400は当時ラインナップされていたモデルの名前を今に蘇らせたクラシックタイプのモデルである。
私がベネリの名を聞いて頭に思い浮かべるのは、2000年初頭に作られていた3気筒エンジンを搭載したフルカウルスポーツモデルのトルネードやストリートファイターモデルのTNTなどだ。美しいフレームワークにイタリアンバイクらしいスタイリング、そして過激なスペックに心を惹きつけられたことをよく覚えている。そして、6気筒エンジンを搭載したSEIも忘れてはならない。これは今でも世界中のエンス―ジアストに支持されている名車である。
それら数々の名だたるモデルを輩出してきたベネリではあるが、ビジネス的には紆余曲折を経て今日まで至っており、何度も買収を繰り返され、現在は中国のGEELY(浙江吉利控股集団)の資本を受けている。GEELYはスウェーデンのプレミアムブランド、ボルボの親会社である他、メルセデスベンツグループやアストンマーチンの株主としても知られている大企業だ。二輪業界では中国最大のバイクメーカーの一つである銭江オートバイ(Qianjiang Motorcycle)ブランドを有しており、余談ではあるがハーレーダビッドソンの小排気量モデルも共同開発している。
そしてベネリは2016年に新生ベネリとして大変革を行った。モダンテイストで纏められたスクランブラーモデルのレオンチーノ250や、スポーティなネイキッドモデルである新たなTNTシリーズ、アドベンチャーツーリングモデルとされたTRK251などを次々と発表。日本では株式会社プロトが正規輸入販売を開始し、ディーラー網やサービス面の整備が行われた。
そのベネリのモデルラインナップに今期から加わった新たなモデルがインペリアーレ400だ。ニューモデルではあるが、見た目は1940~50年代のバイクを連想させる非常にクラシックなスタイリングでまとめられている。そんな古くて新しいモデル、インペリアーレ400のテストを行ってゆく。
クラシックスタイルのバイクというのは昔から人気があった。そもそも昨年43年間という長い年月作られてきたヤマハ・SR400にしても、1978年の初代モデルが登場した当時はすでにクラシックスタイルのバイクという位置づけだった。日進月歩で進化を続ける優れたテクノロジーをふんだんに取り入れた最新モデルがもてはやされる一方で、クラシックスタイルバイクはカウンターカルチャー的に支持をされてきたのである。
ただその中でも昨今のブームの火種となったのは、ホンダ・GB350の登場だったことが挙げられる。オールドテイストながらもモダンさを感じさせるスタリングや、あえて”ちょうどよい”よりも”ややダル”に仕立てられた運動性能が現代のライダーの需要にマッチし大ヒットモデルとなった。
そうなると目を向けられるのが、他社のクラシックスタイルモデルである。クラシックスタイルで纏められたバイクの多くは、特に400cc以下のモデルで見ると最新テクノロジーを用いるような走行性能が求められるのではないことから色々なブランドから発売されている。実は日本に上陸していないものなどまで調べると数えきれないほど存在するのだ。
そのような中”外車”であり”クラシックスタイル”のベネリ・インペリアーレ400は、若年層ライダーを中心に、注目を浴びる一台となっている。果たしてどのような乗り味に作り上げられているのか、興味を持ちながらテストを始めることにした。
スタイリングは全体的にブラックアウトされたボディ、丸いケースのヘッドライト、サドルタイプのシート、前後長めのスチールフェンダーなど、戦前戦後のバイクの性能が徐々に引き上げられていった頃の、それを連想できるものだ。心臓部にはバーチカルセットされたシングルエンジンが搭載され、そのヘッド部分にベネリのライオンマークがあしらわれているのが雰囲気があって好感的。
車体に跨り、停車状態でサスペンションを動かしてみると、若干動きが渋く感じる。このようなものかと思いながら、エンジンを始動し走り出す。溢れるトルクというものは持ち合わせていないものの、低回転から粘りがあり、扱いやすい特性を持つエンジンは、むしろスロットルをどんどん開けたくなるために、ただ走らせているだけでも楽しい。6000回転からレッドゾーンが始まるが、レブリミッターは7000回転程度で作動。平坦な道であれば吹け上がりも軽く、ついつい全回転域使うような走らせ方をしてしまう。
街中の一般道を、クルマの流れに乗って走らせている分には、問題ない性能を持っていることが分かる。こう言ってはなんだが、そもそも大きな期待をしていなかったこともあり、その分良く走るバイクだと感じられたほどだ。
しかしワインディングでペースを上げて走らせるような場面で、しっかり減速してコーナーに入ろうとした際に、フロントのタイヤが内側に切れ込むようなこともあった。これはサスペンションやタイヤが仕事をしていないことが考えられる。ただそれもあくまで、車両に対して意地悪な操作をしたときのことで、通常の走行では特に問題は無い。本物のビンテージバイクを走らせること考えれば全然気軽であるし、逆に経験の浅いライダーであれば、こういった昔ながらの動きを身をもって感じることで、バイクの挙動というものを覚えるのに良いかもしれないとさえ思う。
インペリアーレ400は多少クセがあるものの、良いバイクに仕立て上げられていると思う。もし私が手に入れたとしたら、サスペンション、ブレーキ、タイヤなどに手を加えたいところだが、それにしても自身の手で、カスタマイズを行うことで、バイクライフをより充実したものにできるだろうし、バイクを良くしながら自分自身の成長も得られる。なんといってもファッション感覚で楽しめるスタイリングに惚れてしまったら、迷うことなくこれしかないはずだ。