【スズキ GSX-S1000F 試乗記】これ一台ですべてをまかなえる、ある種の”アガリ”バイク

掲載日:2020年09月29日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文・写真/小松 男

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SUZUKI GSX-S1000F

スーパーバイクモデルGSX-R1000直系のエンジンを備えた万能スポーツアスリート、GSX-S1000。フェアリングをまとったGSX-S1000Fは高速走行も快適な、極上のツーリングバイクとして成熟されている。

登場時から幅広い層に支持されてきた
スズキのプレミアムスポーツツアラー

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ワールドプレミアモデルとしてインターモト2014の会場で発表されたGSX-S1000 、GSX-S1000F。心臓にはスズキのスーパーバイクモデルGSX-R1000(K5系)を備え、バーハンドル仕様とされたいわゆるストリートファイターセグメントの部類であり、カウルを持たないネイキッドスタイルのGSX-S1000と、フルカウルバージョンのGSX-S1000Fの2タイプが用意された。優れた性能、そして質感の高い装備が奢られているにも関わらず、手を出しやすい抑えられた価格だったこともあり、両車ともに発売直後から世界中のライダーに支持され、大ヒットを記録したモデルとなった。今回はフルカウルを纏うGSX-S1000Fをピックアップし、登場から5年たった今、その実力はどのように感じられるものだろうかを、探ることにした。

スズキ GSX-S1000F 特徴

プレミアムスポーツモデルでありながら
驚愕のコストパフォーマンスを誇る

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スーバーバイクモデルのエンジンをベースにバーハンドルを採用した、いわゆるストリートファイターセグメントが確立されて久しいが、そのルーツを探れば、80~90年代にかけて、レーサーレプリカを駆る走り屋が、転倒してバキバキに割れてしまったカウルを撤去しネイキッド化したり、トルクフルなエンジン特性を市街地で上手く活用できるように、まだジムカーナでタイムを競ったりするためトップブリッジに穴をあけてバーハンドルへと換装したりすることが元になっているという筋を、少なくとも日本においてはそのような出自だったと私は考えている。メーカー側はそれが求められるなら作ってみようという波に乗り、次々とストリートファイターモデルを発表していった。それらの多くは、ストリート用にエンジンをデチューンしたり、デザインをリモデリングしたものが多いのだが、今回取り上げるGSX-S1000/Fはそれらとは、一線を画するモデルだ。

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それというのも、エンジンこそGSX-R1000の、しかも現在も語り継がれるパワフルかつ扱いやすいトルキーパフォーマンスを誇るK5型をベースにしたものをあえて使用し、さらにフレームは専用設計であるし、スイングアームはGSX-R1000でもL2系の物を使用している。これはどのようなことなのかというと、ただのストリートファイターというだけではなく、走らせることに楽しみを感じ、なおかつ所有欲を満たすものとして、一から設計されているものなのだ。ライバルたちはそうではないのかと聞かれると、それぞれのメーカーやモデル、個々に対する考えなどが異なってくるので、一概にどうとは言えないのだが、スズキはGSX-S1000/Fに、かなり注力して開発したことは確かである。

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しかもだ。ネイキッドモデルであるGSX-S1000の新車価格は105万円(税抜)以下、GSX-S1000Fでも110万円(税抜)以下という驚愕のロープライスを実現しているのである。リーマンショックや震災後の先行きが見えない時期に登場したモデルだったということもあるのかもしれないが、それにしても今も大きな値上げなしで、売られ続けているのは素晴らしいことであり、実際に世界中で大ヒットを記録したのである。これが、さらに乗ってみても驚くほど良くできているのだ。

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スズキ GSX-S1000F 試乗インプレッション

スーパースポーツモデルの実力を
気負わずに扱えるフレンドリーさが魅力

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今回テストしたのはフルカウルモデルであるGSX-S1000Fの方だ。人それぞれ好みが違うものなので、GSX-S1000と比べるものではないが、車重こそ5kgの差があるものの、私は高速走行時の走行風は軽減させたい方なこと、価格差が5万円しかないことから、もしも購入するならばGSX-S1000Fの方を選ぶと思う。デザインに関しては両車に言えることなのだが、有機的かつボリューミーなラインでまとめられており、同社のハヤブサや以前ラインナップしていたグラディウスなどにも通ずるスズキらしい独特なものとなっている。

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エンジンを始動し走り出す。シート高810mmというのは、高い数値に思えるが、昨今のスポーツバイクであれば一般的だ。それよりもハンドル、ステップ、シートの位置関係が良く、ライディングポジションに自由度がある。少しスロットルをひねるだけでも、低回転からモリモリとしたトルクを得られる998cc並列4気筒エンジンは、そのサウンドもしっかりと調教されており、市街地から高速までエキゾーストノートを聞いているだけでもライダーを飽きさせない。蘇った伝説のモデル、カタナは、このGSX-S1000系をベースに作られているのだが、乗り比べると、少しマイルドな味付けにされているように思える。若干の差ではあるが、GSX-S1000の方がスロットルワークに対してパンチがあり、エキサイティングなライディングを楽しめる。スーパースポーツエンジンの多くに見られるある程度の回転数まで引き上げると、そこからさらにパワーが出るスタイルではなく、極低回転から超高回転域まで、よどみなく強烈なパワー感を得られるのも、このGSX-S1000Fの特徴だ。

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バランス、運動性能、ともに申し分なく、一つ目の交差点を曲がる時からフルバンクさせることができ、高速道路では快適且つものすごく速く、ワインディングではまさしく水を得た魚といったスポーツライディングを楽しむことができた。一般的なスキルのライダーだと持て余してしまうほどのパワーだが、それを乗りこなす喜びというものが凝縮されているのだ。

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GSX-S1000/Fが登場した2015年に私が遭遇した出来事を良く覚えている。私が山手線に乗り揺られていると、向かいの席に40代と思われる二人の男性が座った。すると一方が相手に、こう話始めた。「今乗っているバイクなんだけど、かなり距離が伸びてくたびれてきたから、新しくバイクを買い替えるんだ」。その次期購入バイクが、GSX-S1000であり、性能の事、コストパフォーマンスの高さなどを、次々と伝えるのだが、聞いている方はそもそもバイクに興味がない様子。これが誰もが知るハーレーダビッドソンを買う話しなら、違ったかもしれないが、GSX-S1000/Fは、バイクライフを楽しむライダーのためのモデルなのだとその場に居合わせた際に感じたことを思い出す。彼が今もGSX-S1000/Fでバイクライフを満喫しているかどうかは知る由も無いが、私が思うにGSX-S1000は、良いバイクであり飽きることもないので、きっと乗り続けていることだろう。

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そうそう。GSX-S1000Fを使っていて思ったのは、テールセクションがスポーツバイク的に作られているために、パニアケースやサドルバッグのようなものが装着しにくいという点がある。バンディット1250がラインアップから外れている今、ロングツーリングを楽しむためにGSX-S1000Fを選ぶライダーも多いはず。2017年に3馬力引き上げられるというアップデートがされているが、まだモデルチェンジが行われていないことを考えると、次期型の開発もそろそろと言ったところかもしれない。それには是非、純正バッグの設定をして欲しいところだ。

スズキ GSX-S1000F 詳細写真

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GSX-R1000をベースにした998ccDOHC水冷4気筒エンジンを搭載。各シリンダー下方にベンチレーションホールを追加しており、ピストンが下降する時に発生する圧力を隣のシリンダーに逃がしポンピングロスの低減と、操縦安定性を実現している。

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φ43mmのKYB製倒立フォークはフルアジャスタブルタイプ。フロントブレーキはブレンボ製対向4ピストンモノブロックキャリパーをラジアルマウントとする。強力かつコントローラブルな制動性能を実現している。

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前後ホイールにスピードセンサーを備え、スロットルポジション、ギヤポジション、クランクポジションの各センサーからの信号と合わせてECUで計算し、状況に合った効果的なトラクションを得られる、3モード・トラクション・コントロール・システムを採用している。

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高い空力性能を誇るフロントフェアリングを備えているのは、GSX-S1000Fの特徴。有機的でボリューム感のあるデザインとされており、GSX-S1000とは一味違う個性的なスタイリングとなっている。

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輝度調整可能なフルデジタルLCDインストルメントパネル。右側に表示されているTC(トラクションコントロール)インジケータは、0がオフで、1がスポーツ、2がストリート、3がレインと介入度を表示する。

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左側のスイッチボックスに備わるファンクションボタンで、トラクションコントロールの設定や、インストルメントパネルの表示切替、輝度調整などをすることが可能。ハンドルバーは、レンサル製のテーパーハンドルを採用する。

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ステップおよびシフトペダルはヒールプレート一体型ステーを介してセットされる。後方にバックアップする位置だが、窮屈な感じはなく、むしろどんな場面でも入力しやすく、コントローラブルなステップという印象。

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リアのコンビネーションランプはテールカウル内に収まるデザインとされており、LEDが採用されている。リア周りは短くカットされたスポーティな雰囲気で纏められている。

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リアサスペンションは下部にリンクを介してセットされている。プリロード調整が可能なので、一度すべて緩めた状態から試し、徐々に締め上げてゆき、ライディングしやすい硬さにセットすると良いだろう。

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ライダー側とパッセンジャー側でセパレートとされたシート。クッション性が良く、滑りにくい表皮素材のため、長時間乗っていても疲労度が少ない。

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前方にデザインパネルを有する独特な形状をした燃料タンク。ボリューム感があるものの、内ももで挟みやすい形状となっており、何よりもスズキらしい造形美が魅力だ。タンク容量は17L。

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フロントサスペンションは、フォークのトップに備わるスクリューで、伸側のダンピングと、スプリングプリロードを調整することができる。

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タンデムシート下にはユーティリティスペースが確保されている。書類、ETC、さらにプラスα入る程度の余裕がある。便利なので活用すると良いだろう。

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