【ヤマハ・ナイケン試乗記事】初めての峠道も存分に楽しめる、前二輪の絶大な安定感

掲載日:2018年09月28日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦  写真/富樫 秀明

ヤマハ ナイケン 試乗インプレッション

自分のテクニックが向上したかのような感触で
初めて走る峠道が存分に楽しめる

ヤマハ ナイケンの試乗インプレッション

誤解を恐れずに言うなら、僕のナイケンに対する第一印象は、“普通のバイク?”だった。実は当初の僕は、撮影のための押し引きである程度以上に苦労し、試乗開始からの数分間は乗り方のアジャストを行うつもりだったのだが、ナイケンにそういった雰囲気はほとんどなし。もっとも、装備重量は263kgもあるから、押し引きは軽々ではないけれど、入力しやすい幅広なハンドルバーと重心の低さのおかげで、今どきの大排気量ツアラーよりは気軽に動かせるし、一方の乗り方に関しては、人によっては多少のアジャストが必要と感じるかもしれないが、僕自身はコレといった違和感は抱かなかった。とはいえ、普通と感じたのは最初だけで、以後は驚きの連続だった。大前提が普通でありながら、ナイケンはまったく普通ではない能力を備えていたのだ。

ヤマハ ナイケンの試乗インプレッション

どこからどう語るべきかで悩むものの、僕が最初に述べたいナイケンの魅力は、初めて走る峠道でのコーナリング性能だ。と言っても、試乗会の舞台となった静岡県伊豆市のサイクルスポーツセンター・ロードコースを、僕がバイクで走るのは今回が初めてではない。ただし、全長が5150mで、高低差が約100mもあるこのコースは、僕にとってはいつも難所で、これまでに他車で走った際は、最初の数周は恐る恐るで、気持ちよく周回をこなせるまでには5~10周が必要だった。ところがナイケンは、1周目からかなり攻められるのである。

その理由はもちろん、フロントに絶大な安定感が備わっているからで、何があっても破綻しない……と思えるフロントを頼りにしながら、思い切ってブレーキングし、思い切って車体を倒し込み、思い切ってアクセルを開けることができる。もちろん、1周目よりは2周目、2周目よりは3周目のほうが、ペースは上がって行くのだけれど、潜在能力を引き出して気持ちよく走れる度合いを数字で表すなら、他の一般的なバイクが1周目:30%→2周目:40%→3周目:50%……と推移していくのに対して、ナイケンは1周目:70%→2周目:80%→3周目:90%……という感触。言うまでもなくこの特性は、事情がわからない道がメインになりやすい、ロングツーリングで大いに役立つだろう。

ヤマハ ナイケンの試乗インプレッション

続いて述べたいナイケンの魅力は、環境適応能力の高さだ。今回の試乗会の天気は、午前:晴れ、午後:雨で、僕としては午後からの走行がちょっと憂鬱だったのだけれど……。実際に走り始めたら思いのほか、いや、思っていたよりはるかにコーナリングを楽しんでしまった。前述したフロントの安定感は、天候と路面状況が変わっても健在で、逆にナイケンを体験した僕は、他の一般的なバイクで峠道を雨天走行する際に、いかにブレーキングや倒し込みやアクセルワークに気を遣っていたかを思い知ることになった。

もちろん、その気の遣い方がライディングの面白さという見方はあるし、ベテランライダーの中には、環境が変化したときこそテクニックの見せどころ、と考える人もいるはずだが、ナイケンに乗っていると自分のテクニックが向上したかのように思えて来て、ただしいわゆる“乗せられている感”はまったくなくて、僕はそれがすごく嬉しかったのだ。

ヤマハ ナイケンの試乗インプレッション

さて、コーナリングの話が長く続いてしまったけれど、それ以外のナイケンの魅力と言うと、車体の姿勢変化の穏やかさを挙げないわけにはいかないだろう。これはべつにルーズとかダルさを意味するわけではなく、急激なアクセルオンでリアタイヤが滑っても、ハードなブレーキングで車体がジャックナイフ状態になっても、バンク中にフロントブレーキを強くかけても、常にフロントが安定しているナイケンは怖さを感じないのである。

また、MT-09がベースとは思えないほど従順で優しく、それでいて並列3気筒ならではのトラクションがしっかり感じられるエンジンも特筆すべき要素で、個人的にはトレーサー900GTやXSR900にも、このエンジンを導入して欲しいと思った。さらに言うなら、座面がフラットで疲れ知らずのシート、フロント2輪ならではの横風に対する強さや乗り心地のよさなども、ナイケンを語るうえでは欠かせない要素で、LMWシリーズ初の本格的なモーターサイクルにも関わらず、よくぞここまで素晴らしくて面白い乗り味を実現したものだと思う。

そんなナイケンにあえて異論を述べるとすれば、ふと気づくと予想以上のスピードが出ていることが挙げられるものの、それはここまでに述べた安定感の結果であり、飛ばすかどうかは乗り手の意識次第なのだから、スピードの速さにケチをつけるのは野暮というものだろう。いずれにしてもナイケンは、既存のモーターサイクルとは一線を画する、新しい世界が体感できる乗り物で、今現在の僕は何とかして機会を見つけて、このバイクでロングツーリングに出かけてみたい!と考えているのだ。

ヤマハ ナイケンの試乗インプレッション

ナイケンの詳細写真は次ページにて

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