掲載日:2024年01月24日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚 走行写真/小松 男
YAMAHA YZF-R15
インド、タイ、ベトナム、中国などアジア圏では125〜200ccのバイクが人気を集め、大きなマーケットを形成している。日本のメーカーも現地法人を設立し、多くのモデルをアジア向けに開発。精力的に販売を行っており、この度日本で発売されたYZF-R15も2008年にインドで発売されて人気を博しているモデルだ。
日本の法規制に照らし合わせると125のように原付2種免許で乗れるメリットはないが、代わりに高速道路を走ることもでき、街乗りや通勤・通学だけでなく県を跨いだツーリングも楽しみたいというユーザーに向けた、YZF-R125とYZF-R25の中間に位置するモデルとなっている。
YZF-R15はヤマハのハイエンドスポーツモデルであるYZF-R1の遺伝子を受け継いだ入門スポーツモデルとして、ワインディングやサーキット走行、レースまで楽しめるモデルとなっている。同時に発売された兄弟車のYZF-R125と比べると、シリンダーのストローク量はそのままにボアを拡大することで排気量向上を果たしている。
車体は完全に共通かと思いきやそうではなく、YZF-R15の方が全長が40mm短くなっており、排気量が異なるにも関わらず重量は同じ141kg。また、リアスプロケットはYZF-R125の52丁に対し、48丁を装着することでファイナルはロングレシオに振られており、125に比べてマイルドなパワー特性を実現している。
さらに驚くべきことに150ccクラスにしてVVA(Variable Valve Actuation:可変バルブタイミング機構)を備えており、アシスト&スリッパークラッチにトラクションコントロールまで搭載している高機能ぶりで、価格は税抜50万円ジャスト。まさに普通自動二輪免許を取得した若者がバイクデビューするのに最適な一台と言えるだろう。
そんなYZF-R15を千葉県にある茂原ツインサーキットの西コースで試乗する機会を得た。1周700mのショートコースは155ccにはちょうど良く、125ccだと2速で吹け切ってしまうホームストレートだったが、155ccだとシフトアップなしでも2速で最後まで引っ張ることもできたし、逆に3速固定でもタイトコーナーをエンストせずにクリアすることができ、スムースライディングを楽しむこともできた。本来、排気量の大きさはそのままエンジンの懐の深さに通じるため、155ccという小排気量でありながら低回転から高回転までトルクフルな特性に仕上げることは難しい。これは搭載されているVVAによる恩恵が大きいだろう。
ハイエンドモデルのYZF-R1だけは特別だが、小排気量モデルでも上位モデルに通じるデザインやサイズ感、ライディングポジションを実現している点にも注目したい。YZF-R25/R3やYZF-R7などと比べても遜色のない、少しだけゆとりのある前傾姿勢でスポーツライディングの基礎を学ぶことができ、141kgという圧倒的な軽さからくる倒し込みや旋回性の良さはこのクラスならではのものだろう。
せっかくサーキットで試乗できるのだから、コーナー手前で回転を落とさずにシフトダウンして、アシスト&スリッパークラッチの効果を体験してみた。小排気量かつ軽量ということもあるのだろうが、結果は上々。本来受けるはずのエンジンブレーキの衝撃はほとんど感じられず、スムースかつ安全なコーナリングができた。正直、技術説明会でこの説明を受けた時には“155ccクラスにアシスト&スリッパークラッチはオーバースペックなのではないか”と思ったのだが、スポーツ走行時には疲労軽減に繋がるし、ツーリングでも急制動など危険回避のための安心材料となる。トラクションコントロールについても同様のことが言えるだろう。特に雨の日の滑りやすいマンホールや新品タイヤに履き替えた直後など、初心者が転倒しやすいシチュエーションにこそ効果を発揮してくれるはずだ。
僕が普通自動二輪免許を取得した20年前は125ccや150ccクラスが今ほど多くなく、“スポーツバイクは250cc以上”という印象が強かったが、125ccや150cc、200ccクラスのスポーツバイクがこれだけ普及してきている現代でこの考え方はナンセンスと言えるだろう。今回の試乗会では国道や高速道路を走行することはできなかったが、サーキットを走行して感じたパワーは250ccクラスと一緒にツーリングをしてもほとんど遅れを取らないはずだ。免許を取り立てのライダーのデビューバイクとしても、熟練のライダーのセカンドバイクとしても見逃せない一台と言えるだろう。