

掲載日:2013年06月06日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 写真・動画/MOTOCOM 衣装協力/HYOD
CBR600RR の良さを一言でまとめると、“扱いやすさ” だと思う。初めて乗ってもとっつきやすく、乗る人を選ばない。もちろん、スクーターのイージーさとは違うが、スポーツライディングを肩肘張らずに楽しめるという意味において、とてもライダーフレンドリーなマシンと言えよう。
まずシート高が低めだ。スペック的には 820mm で、このクラスとしては標準的と言えるが、実際に跨ると絞り込まれたシートまわりや、スッと沈み込む前後サスペンションの柔らかい動きにより、足着きは数値以上に良く感じる。ライディングポジションもスーパースポーツの中では前傾が穏やかで、ステップ位置も極端に高くはなく、上体やヒザの曲がりに余裕があるため、街乗りでもそれほどしんどくない。ハンドル切れ角も大きい。最近はスポーツモデルもハンドルが切れるようになってきたが、CBR に関してはことさらよく切れるので、軽量コンパクトな車体と合わせて取り回しも楽だ。
エンジンも極低速からよく粘るし、CBR シリーズはもともと中速域のトルクがウリなので、常用域で扱いやすい。穏やかな出力特性と豊かなトルク、ハンドル切れ角に支援されて、Uターンやタイトコーナーも得意。つまり、ストリート向きのスーパースポーツなのだ。
ただ、勘違いしてほしくないのは、本来のステージは “スポーツライディング” にあるということ。エンジンはホンダらしい高精密かつウルトラスムーズな回転フィールで、トップエンドまで淀みなく吹け上がる。胸のすく上昇感とはまさにこのこと。国内仕様は馬力が抑えられているが、それでも 2009 モデルからは自主規制緩和により、従来比 9PS アップの 78PS/12,000rpm は確保しているので、ワインディングを含めたストリートレベルでは十分なレベルだ。本来ならばその上にあるはずのフルパワーゾーンを味わいたいと思うのが人情だが、その場合はまた車種選びの選択基準が変わってくるはずだ。
今回から新しく採用された BPF(ビッグ・ピストン・フロントフォーク)は、初期作動が非常にスムーズなため乗り心地も向上しているが、同時にダンピングの立ち上がりも速いので、より安定して強いブレーキをかけられるようになった。たとえば、コーナー進入でフロントブレーキを引きずりつつ速度調整しながら倒し込んでいくときなど、前輪が路面に吸いつくような抜群の接地感を発揮してくれる。一方、リアサスペンション側の、路面をなめていくようなユニットプロリンク独特のスムーズな動きも健在だ。
極めつけはコンバインド ABS だ。以前、もてぎのテストコースで、砂を敷き詰めた路面で 100km/h からフルブレーキングさせられたことがあったが、制動距離はそれなりに要したものの、何事もなかったように “普通に” 減速停止できたことを覚えている。人間技ではとてもできないことを簡単にやってのける凄いシステムだ。前後連動なので、ブレーキペダルのみ操作しても強烈に止まってくれるし、一方で渾身の力でブレーキレバーを握っても絶対にロックしない。スポーツタイプの ABS なので、かなり追い込んだところで作動するため、通常の感覚のままハードブレーキに専念できるのもいいところだ。
12本スポークタイプのホイールによる応力分散効果は、正直なところ感じ取るに至らなかったが、華奢なほどにスリムに組まれたスポークは美しく、見た目のグレード感としては2重マルをつけたい。
見た目と言えば、スタイリングも一段とシャープになった。従来型が丸みを帯びた曲線的なデザインとすると、新型はエッジを効かせて角張った感じ。カウルも分割タイプから一体型になるなど、より MotoGP マシンに近いイメージに洗練された。ショートノーズと呼ばれるフェイスについては好みが分かれそうだが、空力的に優れるということであれば納得感はあるだろう。
CBR600RR はこのクラスで唯一の国内仕様ということで、新車購入もお求めやすく、日本の交通環境にもフィットしたモデルと言える。熟成されたエンジンと車体、最先端のブレーキシステムがもたらす安心感と安全性などを考えると、誰にでもおすすめできるモデルと言える。速く走らなくても満足できる、数少ないスーパースポーツである。
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