【Page2】まるで現行車のような輝きを放つ初期型R1

掲載日:2010年01月25日 特集記事和歌山利宏が選ぶベストスーパースポーツ    

記事提供/2009年9月1日発行 月刊ロードライダー 9月号

まるで現行車のような輝きを放つ
初期型R1

目の前に現れたR1は、'98年の初期型だ。走り出すにあたり否応なしに、初めて乗ったときの衝撃が蘇ってくる。エンジンの前後長を当時としては異例までに短縮し、画期的なロングリヤアームディメンションとしたR1のハンドリングは、GPマシンを思わせた。一方でサスペンションはストローク感に富み、ストリート向きの設定で、豊かな姿勢変化を生かし、駆る面白さを堪能できた。エンジンも格段に緻密で洗練されたレスポンスを実現、コントロールする悦びに満たされたものである。

でも、あの感動を今一度との期待の一方で、不安もあった。新型車登場の度に進歩に感心させられてきただけに、11年前のマシンは古くなった部分を隠しきれないのではないだろうか。ストリートスポーツとして特化させたため、サーキットでは姿勢変化の大きさや、それによる不安定感もあった(これは'00年型で改善される)わけで、たとえワインディングでも、現在のモデルの水準からすると、ネガが露呈してしまわないだろうか。

ところが、そんな杞憂をよそに、走り出して間もなく僕は、コーナーを喜々と駆け抜けていた。そればかりか、最新マシンが忘れていたものを再発見し、11年前と変わらない感激に浸っていたのである。

跨ってまず感心させられたのは、ライポジがほぼ今日的で、違和感がないこと。最新R1000と比べても、3点の位置関係はほぼ同じ感覚だ。ハンドルの乗れ角がやや強め(これも'00年型で改善される)でハンドル高さは内側が高め、端部を低めに感じるといった程度のものだ。初代R1は、ライポジが異様にコンパクト化された(ロングリヤアーム化で高まった運動性能を引き出すため)ことも画期的だったが、これが現在の標準形になっているわけだ。

前後サスは、現在のサーキット指向の強いマシンにはないしなやかさである。でも、ワインディングにはこれぐらいがちょうどいい。軽いブレーキングからのターンインで旋回性を引き出し、スロットルを軽く当てて荷重をリヤに移しやすい。

車体剛性も絶妙のしなやかさだ。だから素直に曲がり、ソフトなサスの動きと相まって、スロットルを開いて二次旋回に移行しやすい。ワインディングでマシンの状態が伝わり、操る面白さが濃厚なのだ。

僕はこのR1で10年前、鈴鹿8耐に出場したことがある。こんな車体はレース向きでないと考え、フレーム補強、サスもレース指向に振ったが、失敗。基本素性を生かさなければならなかったわけで、それだけしなやかな車体が身上なのだ。

エンジン特性にも現在の超高性能車にない良さがある。今のマシンは中高回転域から高回転域での性能を追求、高回転型となり、スポーツ走行で要求される6000rpm以上で素晴らしくても、5?6000rpmでトルク谷が生じがちだ。

でも、これは全域でリニアにトルクが立ち上がる。コーナーで6000rpm以上に保つこともなく、日常域の気分のままワインディングに溶け込んでいく。それでいて7000rpm以上での加速感には高揚感がある。上限が11750rpmというのも現実的である。

キャブのスロットルレスポンスは、乗り手の意思を先走ることがない。現在のFIのパワーモード切換装置に当てはめると、最もマイルドな設定に近い。積極的にスロットルを開けることができ、気後れすることがない。改めて、「サーキットでの速さよりもワインディングでの面白さを重視する」としたポリシーを思い知らされ、それは現在に通用するものであったのだ。

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