掲載日:2022年12月12日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
YAMAHA JOG125
初代ジョグが登場したのは昭和58(1983)年のこと。当時は空前のバイクブーム真っただ中であり、それは原付市場でも言えることだった。各社矢継ぎ早に新型車の開発を行いマーケットに導入する流れの中で、新たなモデルが次々と誕生したが、その後ブームが落ち着くと姿を消していった。そのような中、現在にまでラインナップに名前が残り続けているジョグは、ヤマハの看板的原付スクーターと言える。
先日、そのジョグに新たに125ccエンジンを搭載したジョグ125が登場した。以前80ccや90ccエンジンを搭載したモデルは存在したが、125ccエンジンの採用は初のことである。今回は新たにジョグシリーズに加わったニューカマー、ジョグ125を実際に使用し、その使い勝手などをリポートしよう。
今の原付1種スクーターの国内市場を見てみると、なんとも寂しい限りとなってしまっているが、80~90年代にかけて、おびただしい数の原付スクーターが日本中に溢れかえっていた時期があった。ヤマハ・ジョグはその中において生み出された一台であり、その頃加熱の一途を突き進んでいたスポーツスクーターの代表格として、また、ポップな派生モデルなども輩出しながら、進化を続けてきたモデルである。
原付モデル全盛期を振り返るとレースの世界では欧州メーカー勢を抑え込み、国産メーカーがしのぎを削りトップ争いをしていた頃のことであり、そこから端を発したレプリカブームが原付マーケットにも及んできており、各社からホットバージョンモデルが発売され若者を中心に爆発的人気を得ていた。一方でママさんたちも原付スクーターを日常の道具として使いこなしていた。今では考えられないようなことだが、近所の大型スーパーの一角に特設コーナーを設けてスクーターが売られていたような時代のことである。
そんな原付スクーター市場が衰退して行ったことの裏には、ヘルメット装着義務にはじまり、4ストロークエンジン化(=パワーダウン)、電動アシスト付き自転車の登場や、バイクの駐車禁止問題など様々な要因が考えられている。最終的に現在ではHY戦争という言葉まで作られたライバル同士であったヤマハとホンダが、原付スクーターの一部をOEMとするという事態となっている。
実は現行型のジョグ50はそのうちの一つであるのだが(タクトのOEM)、今回新たに登場したジョグ125はヤマハ製であり、その点からもバイク業界での注目度は高いモデルとなっている。1週間に渡るテストにおいて見えてきた使い勝手をお伝えしよう。
実車を目の前にしたところ、かなりコンパクトに纏めらているというのが第一印象だった。原付二種スクーターもしばしばテストを行う機会があるのだが、その中でも小さ目に感じたのだ。
スタンドをはらい車体に跨ると、その小ささを輪をかけて体感することができる。シート下にユーティリティスペースの確保や車体底部に燃料タンクをレイアウトすることが定石となっているスクーターモデルは、その分シートの高さがスポイルされて足つき性が悪くなりがちなのだが、シート高735mmとかなり低く抑えられている。しかも車重はなんと100キロを大幅に割る95キロとなっており、この軽さとシートの低さは、ヤマハ125ccスクーター随一のスペックなのである。つまりフレンドリーであり誰でもとっつきやすいのだ。
エンジンを始動し走り出す。スムーズな加速で、なおかつ静かだ。スロットル開度幅が大きく、速度を上げようと思うと結構右手を反さなくてはならないが、普段使いでメインとなるであろう速度域の40キロ程度まではスルっと、60キロまでもストレスなく加速して行く。
テスト車両の引き上げ場所から自宅まではおおよそ30キロ程度の距離があったのだが、コンパクトな車体を活かした狭い道の続く住宅街や、トラックなども多く往来する幹線道路などを縫うように繋げて走らせるのが楽しかった。
低く設定されたシートは、実はスポンジなどの内部構造をシェイプアップしているということもあり、着座位置が前方になりライディングポジションもコンパクトになってしまう。身長178cm体重70キロの私の場合、最初は若干窮屈にも感じられたのだが、これが毎日乗るうちにとても良い位置に座らせていることが分かってくる。それは車体のちょうど中央に自分がいる状態で前後50:50の配分に近く、おのずとスポーティに走らせることができるのである。
一方でサスペンションの動きの軽さや、前後ドラムブレーキである仕様などから走りそのものにチープな感触を受けたことも正直に記しておきたい。ただそれはネガティブなポイントではない。最近の原付二種スクーターは高級路線に走りがちであると考えられ、例えばタイヤの大径化やシャシー剛性の向上など、やや過剰だと思える部分も見受けられる。それから考えるとジョグ125の設定というのはとても健康的であるし、原付二種スクーターでありながら新車価格を25万5200円におさえているのは大変な企業努力を感じずにはいられない。
個人的にはスポーティなスタイリングよりもポップなデザインやカラーリングの方が受けるのではないだろうかと思ったが、街中に停めておくと、何人か興味を示して近寄ってきたし、家の者たちからも恰好良いと評判だった。
誰でも気軽に触れ、扱うことができる新しい原付二種スクーター、ジョグ125。一家に一台あると、便利に使うことができる道具となってくれるだろう。
ボアストローク、52.4×57.9mmとする124cc空冷SOHC2バルブ4ストローク単気筒を搭載。低燃費、環境性能に優れたヤマハ独自のブルーコアエンジンであり、最高出力は8.3馬力となっている。
フロントタイヤサイズは90/90-10。12インチが増えている原付二種スクーター界で10インチタイヤを使用するのはコストを抑えるだけでなく、軽快な運動性能を持たせるため。取り回しも軽い。ブレーキは前後ともワイヤー引きのドラム式。
スポーツスクーターとしてはオーソドックスなフェイスマスク。ただ良く見るとヘッドライトケースのサイドに折を入れるなど絶妙なデザインが施されており、プレミアム感を演出している。ヘッドライトはやや暗い印象を受けた。
フロントパネルの左右にウインカーとポジションランプをインサート。滑らかな曲面や高級感のあるカラーリングなど、ヤマハらしい質感の高いスポーティなデザインに仕上げている。
フレームや燃料タンクのレイアウトなどから、フロアにアーチが設けられるモデルが増えている中、フラットなステップボードは足の置き場の自由度が高く、なおかつちょっとした荷物を置くことができるなどスクーターのメリットを感じられるところ。
シート高735mmはスクーターの足つき性問題を払拭するために、かなり努力していると思える。ただライダー側が大きく削り取られているため、座面の前後がフラットではなく、着座位置がおのずと決められてくる。
ウインカー、ハイ/ローライト切り替え、ホーンボタンと、必要最小限の構成とされたスイッチ類。免許を取得して初めて乗るライダーでも問題ない。坂道に停める際などに、サイドブレーキ機能が欲しいところ。
フロントパネルの内側にはポケットやコンビニフックが備えられている。何気ない装備ではあるが、普段日常的に使っていると結構重宝するポイント。走行中飛び出す可能性もあるのでスマートフォンや財布などは入れないこと。
キーシリンダーいたずら防止シャッター付きのイグニッション。シートオープン機能は、オン側とオフ側の二方向で使用することができる。
燃料給油口はフロントパネル左側。乗車したままでも給油することができるので便利。タンク容量は4リットル。
メーターパネルのデザインはかなり凝っている。表示されるインフォメーションは速度計、総走行距離計、残燃料計を中心とし必要最低限に抑えられている。
ヤマハのフルカウルスポーツシリーズであるYZF-R系を連想させる縦長のテールランプが採用されている。カーボンクロス調のパーツが使われるなど、テールセクションからもスポーティな印象を受ける。
リアタイヤサイズは90/90-10。つまり前後同サイズのタイヤがセットされている。ブレーキは前後連動式で、左ブレーキレバーを操作すると、フロントブレーキとリアブレーキが同時に作動する。マフラーカバーも車体に合わせたデザインが施されている。
駆動系はスクーター定番のVベルト式無段変速。高速道路を使用することができない原付二種ということもあり、時速80キロ程度までの使い勝手が重視されたプーリーの設定となっている。
シート下のユーティリティスペースもしっかり確保されている。ジェットタイプのヘルメットでも、ブランドやサイズによっては収まらないものもあった。なので、ヘルメットホルダーは別途設置して欲しい。
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