掲載日:2022年12月14日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
SUZUKI ADDRESS 125
スズキのスクーターにおけるアドレスというモデルは、2ストロークエンジンを積んだアドレスV100の時代から「通勤快速」として名をはせ、その後エンジンが4ストロークとなったアドレスV125となっても受け継がれてきた。2017年に登場した前モデルのアドレス125も、コンパクトな車体に加速のいいエンジンを積み、スポーティなルックスを持つ点では歴代のイメージを踏襲してきた。しかし、今回は今までと違う路線へと舵を切った。
新しいアドレス125は、インドで以前から売られていたアクセス125を日本、そしてグローバルモデルとしても展開したもので、日本で同時発表され、ほぼ発売も同時期となったアヴェニス125とエンジンやフレームなどのプラットフォームを共通とした兄弟車となっている。その外観は、アヴェニスの方が直線的でエッジの効いたデザインであり、アドレスは曲線を多用したやわらかい雰囲気となっている。従来からの通勤快速的なキャラクターはどうやらアヴェニスの方が担っているようだ。
あらためてアドレス125をじっくり眺めてみると、ふんわりと膨らんだフロント部分とサイドパネルが優しい曲線を描き、ネオレトロモデルと言っても良さそうなデザインだ。ヘッドライトリムやウインカー部分、マフラーガードなどところどころに使われるメッキパーツが効果的にエレガントさを演出している。さらに特徴的なのは、給油口が車体後部、テールランプの真上にあることだ。海外では給油のためにシートを開けると、トランクスペースの物が盗まれるリスクがあるため、シートを開けずに給油できるのはメリットがあるという。日本ではほとんどそんな心配は無用だが、グッと上に突き出たグラブバーとともに、グローバルモデルならではの工夫されたデザインと捉えれば、むしろ個性的で面白いポイントでもある。
ちなみにフロントのサイドパネルとフロントフェンダーはスチール製となっている。インド国内では混雑する交通の中で、車体同士がぶつかることも珍しくないといい、割れてしまう樹脂よりも叩いて直せるスチールの方がコストがかからないためだとか。このあたりも生産国のお国柄が垣間見られて興味深い。
アドレス125のシート高は770mmで、前モデルより25mm(フラットシート仕様とでは10mm)のアップとなっている。実際に跨ると、若干の腰高感と、背筋を伸ばして乗るヨーロピアンスクーターのようなポジションになったように感じる。シート幅は広めで座面が大きく、ゆったりどっしりと座って乗るのが前提のようだ。このあたりは兄弟車種であるアヴェニス125がスポーティな路線になっているのと、キャラクターがはっきりと分けられている。
走り出すと、車体の動きの軽さにまず驚かされた。見かけがふっくらとしたので勝手にボディサイズが前モデルより大きくなったと思い込んでいたのだが、実際は全長が75mm短く、装備重量も4kg減って105kgとなるなど、よりコンパクトになっている。最高出力は6.9kW(9.4PS)から6.4kW(8.7PS)へとダウンしているものの、軽量化や車体バランスの変更、エンジンセッティングなど、様々な要因によるはずだが、パワフルな加速感とキビキビとした車体の動きは、かつての通勤快速を思わせる俊敏さを垣間見せてくれる。
実際、通勤通学時に最速とまでは行かないが、十分にストレスのない走りが可能な実力は持っている。だが、スポーツ志向のアヴェニスではなくアドレスを選ぶなら、カリカリとした走りよりもゆったりと余裕を持った乗り方を推奨したい。せわしなく数字をカウントするデジタルではなく、ゆっくりと針が動くアナログメーターを見ながら幅広のシートに身をゆだねれば、信号ダッシュで他のライダーに少しばかり先に行かれたとしても「ま、いいか」と思えてしまう……アドレス125はそんなキャラクターのマシンだと感じた。
さらに、後席部分も十分に広さと幅のあるシートと、握りやすいグラブバー、ラバー付きのステップなどの装備により、タンデム走行時も安全で快適だ。これは、ツーリングに使っても楽しめる、ということにつながるのだ。
さまざまな角度からアドレス125を評価すると、走りの軽快さと快適性、コストパフォーマンスのバランスがとてもよく、オールマイティなマシンだ。突出して目立つ存在ではないが、飽きずに末永く乗れる、そんな上質でスタンダードなモデルと言えるだろう。